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Column Feature Tweet Yoko Shimizu

ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラー展

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

フリーランス・ラジオディレクター。TOKYO FMの早朝の音楽番組「SYMPHONIA」、衛星デジタル音楽放送ミュージック・バードでクラシック音楽の番組を多数担当。「ニューディスク・ナビ」「24bitで聴くクラシック」など。趣味は料理と芸術鑑賞。最近はまっているのは筋トレ。(週1回更新予定)

私は今、金沢に来ている。ラジオディレクターという仕事は年末年始もゆっくり過ごせることは少ないので、遅れて休みを満喫しているわけである。かねてから冬の金沢は一度訪れてみたいと思っていた。兼六園の冬の雪吊りの美しさ、日本の伝統工芸品やこの季節ならではの海の幸ももちろん魅力だが、もう一つ私がお目当てにしていたのが金沢21世紀美術館だ。

美術館の企画展はジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラー展。私が彼らの名前を知ったのはこれが初めてだったが、日本では既にいくつか企画展を行なっているらしい。いわゆるインスタレーションによる現代アートである。インスタレーションとは映像、音響、そして空間そのものを作品として提示して体験する形の芸術だ。この展示会が思いがけず面白かった。

ジャネット・カーディフとジョージ・ビュレス・ミラーはカナダの現代アーティスト。私生活でもカップルの二人はプロフィール紹介によると「突拍子もないもの、複雑に絡み合う感情、終わりのないストーリー」が大好きだという。今回は日本で初公開される8つのインスタレーションが展示されていた。特徴的なのはマリオネットなどを使った奇怪なオブジェや、ストーリー仕立ての台本によるナレーション、アンティークなど古びたモティーフ、様々なサウンドとともに音楽や文学を題材にした作品が多いこと。まずは音楽に関係したいくつかの作品に触れてみたい。

図書カードの古い収納棚の小さな引き出しを開けると様々な音が聞こえてくる『驚異の小部屋』。サティのピアノ曲だったり、幼い子供の声だったり、日常の生活音だったり、複数の引き出しを同時に開ければそれぞれの音が重なり合う。引き出しを開けるという行為自体が、自分の過去の記憶を探すようなものだ。音を聴くことで記憶の映像もフラッシュバックするような錯覚を覚える。私はトランプの「神経衰弱」のゲームを思い出した。心地好い音の記憶を見付けたと思ったら、どこの引き出しだったか忘れてしまうからだ。

icon-youtube-play サティ:グノシェンヌ第3番

もう一つ印象深かったのは『小さな部屋のためのオペラ』。レコードマニアと思しき人間の部屋が箱の中に再現されている。その中でオペラのレコードが流れる。テノールのアリア、続いてソプラノのアリア、重なり合う歌声。孤独な男の謎のモノローグ。姿はないがどうやらこの男はオペラ・ファンらしい。しばらくするとエレキギターやドラムも鳴り、弦楽器も含め夥しい音の洪水となる。部屋の中にはイタリアの指揮者アルトゥーロ・トスカニーニや往年の名テノール、フェルッチョ・タリアヴィーニのレコードなどもあった。もともとこの作品におけるレコード・コレクションは、カーディフとミラーがとあるリサイクルショップで見付けたものだという。モノローグはその所有者であるR.デネヒーという実在の人物を二人がイマジネーションして作ったシナリオ。音楽に没頭する孤独な男=クラシック音楽オタクを皮肉ったアートのようにも感じた。男はこの部屋の中でかつて愛した女性への想いを語ったり、音飛びをするレコードにイラついたりする。ここでは彼はスターで誰にも邪魔されずに音楽を愛することができる。しかし「オペラは最後にはみんな死んでしまう」ということに気付き絶望する、というストーリーは私の周りにいるオタク気質の人達をちょっと思い出させた。

icon-film 小さな部屋のためのオペラ

http://www.cardiffmiller.com/artworks/inst/opera_video.html

文学をモティーフにした『キリング・マシン』という作品ではカフカの小説『流刑地にて』になぞらえている。物語は、旅人がある熱帯の島で一人の将校と遭遇する。無数の針が罪人の体に直接判決文を彫り込むという処刑装置について熱狂的に語り、それを操作する将校の役割をここでは鑑賞者が担う。私は一つの赤いスイッチを押した。するとそのマシンは動き始める。鋭く尖った刃が付いた2本のアーム。真ん中にはピンク色のフェイクファーで覆われた椅子があり、天井にはミラーボール、受刑者は存在しないが、死刑執行が始まる。ボタン一つで死がやってくるという恐怖。フェイクファーやミラーボールといったモティーフがその愚かさをも語っているようだった。

『プレイハウス』は一人ずつ部屋の中に入って体験する形の作品。一人当たりの所用時間は4分半ということで都合30分以上並んだ。幕がかかった暗い箱の中に入ってヘッドフォンを装着すると物語が始まる。物語はある探偵についてカーディフの声で語られる。彼女の声が実に魅力的だ。耳元で囁くように、しかし媚びた感じではなく、醒めたような少し乾いたイントネーション。そしてここでもプッチーニのオペラ「ジャンニ・スキッキ」から有名なアリアが聴こえる。私は今まさに劇場で歌姫のそのアリアを聴いているようなシチュエーションに置かれている。しかしいつの間にか、その探偵のストーリーの中に自らが入り込んでしまっていることに気付く。ヘッドフォンから聴こえてくるナレーションやアリア、効果音。スリリングな錯覚と過去と未来と現在が混ざり合う不思議な世界。自分が時空を超えて降り立ったような、しかし気が付くと現実に戻っている、という摩訶不思議な体験だった。この作品ではバイノーラルで立体的に音声が聴こえてくることも効果的で、サウンドやオーディオの使い方も興味深かった。

icon-youtube-play プッチーニ:歌劇「ジャンニ・スキッキ」より『私のお父さん』

彼らの作品は「音」が重要な要素となっている。「音」は音楽にもなるし、記憶を呼び覚ますキーワードにもなり得る。今回のインスタレーションはその記憶をあらゆる方向から掻き回し、観る人の感覚を揺さぶる。しかし私はまたこの感覚を体験したいと思った。既に中毒になり始めているのだろうか?

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