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Column Feature Tweet Yoko Shimizu

カニサレス・フラメンコ・クィンテット

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

フリーランス・ラジオディレクター。TOKYO FMの早朝の音楽番組「SYMPHONIA」、衛星デジタル音楽放送ミュージック・バードでクラシック音楽の番組を多数担当。「ニューディスク・ナビ」「24bitで聴くクラシック」など。趣味は料理と芸術鑑賞。最近はまっているのは筋トレ。(週1回更新予定)

その日の東京は台風が接近していた。雨足が強くなり始めた頃、私は地下鉄に乗り六本木から都立大学駅へと向かった。午前中の用事を済ませ、午後4時からめぐろパーシモンホールで、フラメンコギタリストのカニサレスのコンサートを聴きに行くことになっていたのである。

icon-youtube-play プレイズ・ファリャ

もともと東京都立大学があった跡地に建てられた目黒区の施設、パーシモンホールは大小2つのホールを備えている。現在ではめぐろ区民キャンパスと呼ばれる広い敷地内には図書館と体育館も併設していて、緑豊かな住民の憩いの場でもある。周辺は柿の木坂の閑静な住宅街が広がり、パーシモンというのは「柿」 の英語名から取っているそうだ。駅からは緩やかな上り坂を徒歩7分と少し距離がある。天気の良い日には散歩がてら向かうにはちょうどいいのだが、雨だとちょっと億劫な感じになる。少し時間があったので駅近くのカフェでコーヒーを飲んでから柿の木坂通りを上って行った。

そんな生憎の天候にも関わらず、ホールには既にたくさんの人が集まっていた。しかし公共の施設だけに傘置き場がないのが困りもの。ホールの傘置き場の問題は何とかならないものか、といつも思う。1本1本鍵をかけるタイプはわりと多いのだが、私はとても苦手である。鍵を失くすという危険をはらんでいるし、ナンバーロックは番号を忘れたり、番号を意識する前にロックされてしまって解錠できない、といったこともある。この時はホールの管理の人に頼んでマスターキーで開けてもらった。これは無器用でおっちょこちょいの個人的な資質の問題でもあるのだけれど。だから普段私はできるだけ折りたたみ傘を利用して、すぐタオルでくるんでバッグに入れるようにしているのだが、さすがに台風の時には折りたたみ傘では心許ないので長傘を持ってきてしまった。仕方なく傘を持ってホールに入る。

中央の通路が目の前の席だったが、後ろにはスペイン人と思しき男性が座っていて、主催者側の女性と何やらスペイン語で挨拶を交わしていた。公演はカニサレスと仲間のクィンテットによるもので、フラメンコの歌やダンスも入る。客席にはいわゆるクラシック音楽を聴きに、というよりはフラメンコ愛好家、といった人たちが多くいたようだ。特に女性は個性的な装いで姿勢のいい人をたくさん見かけたが、フラメンコダンサー、或いはその教室の先生や生徒なのだろうか。

やがてコンサートが始まった。舞台にはスクリーンが映し出され、そこにプログラムと曲目解説が表示される。手元にプログラムがなかったので何が演奏されるのか不明だったのだが、なるほど、そういう手法らしい。暗がりでガサガサと音を立ててしまいがちな従来の紙のプログラムよりかえっていいかもしれない、と思った。

icon-youtube-play アランフェス協奏曲

カニサレスは伝統的なフラメンコギターとクラシックギターのどちらも弾きこなす。2011年にはなんとロドリーゴのアランフェス協奏曲をあのサイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルと共演したことでも話題となった。はっきりとした力強い音を爪弾く一方で音楽的な流れも豊かに聴かせてくれるのが両方のテクニックを持ち合わせている彼ならでは。そこにカンテ(歌)とバイレ(踊り)が入る。カニサレスのギターはもちろん魅力的だが、他の演奏者たちも一流のアーティストだということは、素人の私にも充分感じられた。ソレア、タンゴ、ブレリアなど様々な舞曲のリズムが生き生きと、色彩豊かに演奏される。スペイン人の魂そのもの、といった情熱的な歌=カンテ。舞台を踵と爪先で踏み鳴らす独特の速いリズムの踊り=バイレは無伴奏。静まり返った舞台に響くサパテアードに息を呑む。男性ダンサーがくるくると回転する場面も多くあったが、やはり基本にバレエの鍛錬が必要だろう。おそらくしっかりと体幹が鍛えられているので、軸が全くぶれないのは見事である。

一方の女性ダンサーはフリルの裾をたくし上げながら踊るのがまた艶やか。扇を使った手の振り=ブラッソも蠱惑的でいかにもフラメンコの魅力に満ちていた。またこの2人のダンサーが衣装を曲に応じて赤と黒、といったザ・スパニッシュな色合いから、紫、そしてブルーと変わっていくのも素敵だった。後ろの客席の男性が絶妙のタイミングで「オーレ!」と度々掛け声をかけていた。この掛け声はハレオというそうだ。始めは大人しく身聴きしていた客席もこのハレオでどんどん盛り上がった。アンコールの後、なんと3本締めで終わったのもご愛嬌だ。

icon-youtube-play カニサレス・フラメンコ・クィンテット

公演が終わり、まだ雨が降り続く中、再び坂を下りて行く。誰かが「上手く掛け声ができたらやってみたいよね」と話していた。確かに後ろにいた男性のように絶妙なタイミングでハレオができたら上級者だろう。素晴らしいコンサートの後はいつも満ち足りて幸せな気分になる。この日はすっかりフラメンコの魅力に開眼した。私はまだ見ぬ国、スペインになんだかとても行ってみたくなった。

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