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Column Feature Tweet Yoko Shimizu

ロイヤル・オペラ・ハウス・シネマシーズン2018/19

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

フリーランス・ラジオディレクター。TOKYO FMの早朝の音楽番組「SYMPHONIA」、衛星デジタル音楽放送ミュージック・バードでクラシック音楽の番組を多数担当。「ニューディスク・ナビ」「24bitで聴くクラシック」など。趣味は料理と芸術鑑賞。最近はまっているのは筋トレ。(週1回更新予定)

英国ロイヤル・オペラ・ハウスはロンドンにある世界的な歌劇場。妹がイギリスに住んでいた頃、私も何度か訪れたことがある。優雅な気分を堪能するにはサヴォイ・ホテルでアフタヌーンティーを楽しんでから程近いコヴェントガーデンに向かう、というのがお気に入りのコースだった。建物の佇まいの美しさもさることながら、一流の出演者による最高水準のオペラとバレエが観られるのはご存知の通り。

近年は映画館でのライブビューイングが盛んで、メトロポリタン・オペラとともに、このロイヤル・オペラもオペラとバレエの厳選した演目を日本にいながらにしてスクリーンで観ることができるのはファンにとっても嬉しい。私ももちろん、先シーズンはそれを楽しんだ。オペラではビゼーの「カルメン」。バリー・コスキーの演出が見事で、ここ何年かでも最も印象深い「カルメン」だった。加えてバレエでは「バーンスタイン・センテナリー」が鮮烈に記憶に残っている。2018年はバーンスタインの生誕100年で何かと話題が多かったが、バレエというフィルターからバーンスタインの音楽を再発見できてなかなか面白かった。

先日、このロイヤル・オペラの2018/19シーズンのオープニングを飾るバレエ「うたかたの恋」を試写で観る機会があった。別名「マイヤーリンク」とも呼ばれるこの作品は、1889年オーストリア=ハンガリー帝国の皇太子ルドルフが17歳の愛人マリー・ヴェッツェラと心中した実在の「マイヤーリンク事件」をもとに作られたもの。同名の映画も有名だが、英国を代表する振付家、ケネス・マクミランがこれをバレエ化した。マクミランはマーゴ・フォンテーンとルドルフ・ヌレエフの「ロミオとジュリエット」のヒットでも知られているが、人物の巧みな心理描写や物語性の強い作風が特徴。ミューズと呼ばれる女性ダンサーを中心に作り上げることが多い彼の作品の中でも、男性ダンサーが主人公となる数少ないこのバレエは、世紀末のハプスブルクの退廃と官能が香るドラマティックなものだ。巨匠マクミランの振付、演劇的要素の強い悲劇。まさに英国ロイヤル・オペラ・ハウスの開幕を飾るにふさわしい演目である。

icon-youtube-play ロイヤル・バレエ「うたかたの恋」

ストーリーはクラシックバレエにありがちな甘い、夢のような恋愛物語とは一線を画している。母親である皇后エリザベートに愛されず、政略結婚を強いられ、宮廷内の陰謀渦巻く人間関係に翻弄される皇太子ルドルフは次々と愛人を作り、麻薬に溺れていく。その荒んだ生活の中で、死によって成就する永遠の愛に憧れる少女マリー・ヴェッツェラと出会い、ついには拳銃で心中する。

そんな退廃的な皇太子ルドルフを演じるのはスティーヴン・マックレー。演技的にも難しい役なのは言うまでもないが、加えて見せ場であるソロ、更に男性ダンサーとして数々の愛人と各幕の最後に踊るパ・ド・ドゥでは難度の高いリフトもあり、体力的にもかなり負担の大きい難役である。マックレーは先頃、怪我から復帰したということだったが、持ち前のパワフルなテクニックと演技力で観る者を圧倒した。マリー・ヴェッツェラにはサラ・ラム。彼女は「バーンスタイン・センテナリー」の『不安の時代』でも存在感抜群だったが、ここでは危険な恋に憧れる、純粋だからこそ危うい少女性、同時に野心的な女性性を見事に表現していた。

この「うたかたの恋」はフランツ・リストの音楽に基づいてランチベリーが編曲をしている。その音楽はストーリーにぴったりとシンクロするように当てはめられており、ここにランチベリーの巧さが光る。オーストリア=ハンガリー帝国の物語という国や時代的な符号と、リスト自身の出自が重なることもあるが、豪華絢爛で妖艶な作風もぴったりだ。具体的には舞踏会のシーンでは「ウィーンの夜会」、ルドルフ皇太子のキャラクターともオーバーラップするゲーテによる「ファウスト交響曲」。第2幕の始めの居酒屋の場面では「メフィストワルツ第1番」の『村の居酒屋での踊り』。愛人たちとのパ・ド・ドゥでは「超絶技巧練習曲」からと、美しい旋律の中にもどこか狂気を感じるリストの楽曲が作品の色調を絶妙に調和させていた。またルドルフが狩猟で誤って人を撃ってしまうシーン、心中のラストシーンなどで銃声の音が響くのも破滅の象徴のようで耳に残る。

icon-youtube-play メフィスト・ワルツ第1番「村の居酒屋での踊り」

icon-youtube-play ファウスト交響曲

さてライブビューイングは幕間のトークも楽しみの一つだが、今回はマクミランのミューズの一人でもあり、品格あるプリンシパルとして活躍したダーシー・バッセルが変わらず美しい。またやはりマクミラン本人から教えを受けた往年のダンサーらが作品の魅力を語る。

ロイヤル・オペラ・ハウス・シネマシーズン2018/19はこの「うたかたの恋」に始まり、年明けにはワーグナーのオペラ「ワルキューレ」、王道のバレエ作品から「ラ・バヤデール」など、オペラとバレエの名作が続々と登場する。最後には同じマクミランの「ロミオとジュリエット」が登場するのも楽しみだ。

icon-youtube-play ロイヤル・オペラ・ハウス・シネマシーズン2018/19

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