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トッパンホール・ニューイヤーコンサート2019

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

フリーランス・ラジオディレクター。TOKYO FMの早朝の音楽番組「SYMPHONIA」、衛星デジタル音楽放送ミュージック・バードでクラシック音楽の番組を多数担当。「ニューディスク・ナビ」「24bitで聴くクラシック」など。趣味は料理と芸術鑑賞。最近はまっているのは筋トレ。(週1回更新予定)

2019年初めに出かけたコンサートはトッパンホールのニューイヤーコンサートだった。トッパンホールはその名の通り凸版印刷株式会社が持つコンサートホールである。クラシック音楽の歴史は楽譜とともにある。その普及には〈印刷〉という技術が不可欠だったわけで、そういった歴史からもホールの存在は至極関わりの深いものであると言える。客席は400席程と比較的小さめながら、その音響の素晴らしさは都内でも指折りの会場としてよく知られている。サントリーホールやミューザ川崎シンフォニーホール、ハンブルクのエルプフィルハーモニーなどの設計で、世界的にも名高い〈永田音響設計〉が手掛けているのだから頷ける話である。

音響的にも優れたこのホールで、海外の一流アーティストの演奏を聴くことができるのは大変魅力的である。席数が多くはないため、すぐチケットが完売になってしまう公演も多いのが玉に瑕だが、それ以外に日本人若手演奏家のシリーズを続けているのも特筆すべきポイントだ。今回のニューイヤーコンサートもそうした若い演奏家のコンサートが3部構成となっていて、公演は3時間と通常より長丁場だったが、楽しみに出掛けた。

第1部は私が担当するTOKYO FMのSYMPHONIAという番組でもゲストに出演して頂いたサックス奏者、住谷美帆さん。ムソルグスキーの「展覧会の絵」をピアノとサックスで演奏するというもの。ここで彼女はアルト、ソプラノ、テナー、バリトンと4本のサックスを持ち替えて演奏する。番組では「東京芸大に入った時から首席で卒業することを決めていた」「出場するコンクールでは全て優勝する」という目標を掲げてそれを見事に達成したというエピソードを話してくれたが、そんな彼女の演奏は言葉通り力強く、華やかな舞台姿と相まって実に堂々としていた。

icon-youtube-play 住谷美帆(Sax)

第2部で度肝を抜かれたのはまだ小学生というヴァイオリニスト、村田夏帆さん。なんと2007年生まれというのだから驚く。しかし本当に驚いたのはその演奏だ。ヴィエニャフスキの「スケルツォ・タランテラ」はかなり技巧的な作品だが、完璧な音程とテクニックで弾きこなす。フレーズやニュアンスにも大人顔負けの歌謡性がある。これから成長するに従ってどんな個性のアーティストに育つのだろうか。

icon-youtube-play 村田夏帆(Vn)

その後に聴いた岡本侑也さん演奏による黛敏郎の「BUNRAKU」、藤倉大の「osm」(トッパンホール15周年委嘱作品)の2曲は無伴奏チェロのための作品で、小さなヴァイオリニストによる火の玉のように駆け抜けた演奏の後だったので、どこか心がホッとするような印象で聴いた。日本人作曲家の作品ということもあったのかもしれない。

icon-youtube-play 岡本侑也(Vc)

2回の休憩を挟んでの第3部はパガニーニでまとめた凝ったプログラム。始めは毛利文香さんによる無伴奏ヴァイオリン。様々な作曲家たちにインスピレーションを与える基になる作品、パガニーニの24のカプリースから第24番イ短調。続いてはこの日の出演者の中では最も年長の、ハンガリーの血を引くピアニスト金子三勇士さんによるリストのパガニーニ大練習曲第6番イ短調。ピアノという楽器を使って最大限にヴィルオトゥオージティックに編み直したこの楽曲を、更に膨張させたような演奏はまるで嵐のような激しさで終わった。

icon-youtube-play パガニーニ大練習曲第6番イ短調

一転その後は藤田真央さんのしなやかなピアノ。今度はブラームスによる「パガニーニの主題による変奏曲」である。ブラームスのピアノ変奏曲というのは、この作曲家の性格的側面が最も現れていると思うのだが、1つのテーマをこれでもか、これでもかと執拗に弄くり回す感じがある。これが駄目な人には退屈に聴こえてしまうかもしれない。しかし私はこのブラームスのしつこさが決して嫌いじゃない(笑)。しかも藤田さんの伸縮自在なタッチとじっくりと音楽に没頭させる演奏で聴き応え充分だ。

icon-youtube-play ブラームス:パガニーニの主題による変奏曲

最後は金子、藤田2人のピアニストによるルトスワフスキのこれまた「パガニーニの主題による変奏曲」。ルトスワフスキはポーランドの作曲家。後に同名のピアノとオーケストラによるバージョンの変奏曲も作曲しているが、この2台ピアノ版は彼の最も有名な作品と言えるだろう。1941年に書かれた作品ゆえ、現代的な和声の響きと変拍子的なリズムなど、非常にピアニスティックな作品となっていて、2台ピアノという編成の丁々発止もスリリング。この2人の俊英ピアニストはその個性の違いが際立ち過ぎて、全体的な楽曲の音楽的集成というよりは、彼らそれぞれのピアニズムを聴く、非常にエキサイティングな演奏だった。しかしこの凝ったプログラムのラストを飾るのに相応しい華やかなものであったのは言うまでもない。

icon-youtube-play ルトスワフスキ:パガニーニの主題による変奏曲

この素晴らしい音響のトッパンホールの音源を東京芸大の音楽環境創造科が録音し、これを高音質の24bitで放送しているのがミュージックバードの番組「トッパンホール・トライアングル」である。私も休憩時間に録音の調整室に足を運び、見学をさせてもらったのだが、この日の白熱のニューイヤーコンサートの演奏も4月に放送予定である。

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