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ラジオディレクターの仕事〜孤独な日曜日編

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

フリーランス・ラジオディレクター。TOKYO FMの早朝の音楽番組「SYMPHONIA」、衛星デジタル音楽放送ミュージック・バードでクラシック音楽の番組を多数担当。「ニューディスク・ナビ」「24bitで聴くクラシック」など。趣味は料理と芸術鑑賞。最近はまっているのは筋トレ。(週1回更新予定)

私は今まさに、放送局のスタジオで絶賛番組制作中である。具体的にどんな作業をしているかというと、ハイレゾ音源を黙々と録音しているところだ。

これは私が制作を担当している、衛星デジタル音楽放送ミュージックバードのオーディオ・チャンネルで放送中の番組「極上新譜24bitクラシック」で使う音源。この番組はハイレゾ音源を使って厳選したクラシックの新譜を5時間に渡って日曜日に放送しているものである。今回はパーヴォ・ヤルヴィ指揮パリ管弦楽団によるシベリウス交響曲全集を2月の最終週に放送する。ちなみにハイレゾ音源には様々な形式があり、WAVファイル、FLACファイル、或いはDSDなどが主なものだが、これを放送で使用する場合、いろいろ問題が起こることもある。何しろハイスペックな音源なので、断トツの高音質であることは疑いようがないのだが、その分ファイルの大きさも半端ではない。それを次々と編集ソフトに貼り付けていくと負荷もかかる。放送用のシステムでは1ファイルの大きさに制限もあり、曲に応じていくつもファイルを分けなければならなかったりする。クラシックは長大な曲が多いので、通常の地上波の番組とは全く違った手間がかかるのだ。

少し詳しく説明するとFLACファイルは比較的多くのレーベルが使用している音源の形式で、WAVファイルに比べると容量も小さいので再生するには便利でもあるのだが、編集ソフトは基本的にWAVファイルなので変換相性が悪い場合も多く、エラーを起こしてしまうことがある。1トラックだけのこともあれば、アルバム全体が編集できないこともある。音源配信サイトからのダウンロードは問題なくできていることが殆どなので、そうした場合はファイルをUSBメモリーに落として、これを再生できる機器から直接録音をするのである。

今回のパーヴォ・ヤルヴィ指揮パリ管弦楽団のシベリウス交響曲全集は合計4時間弱という長尺の音源だ。CDなどと違って何枚もディスクを入れ替えなくてすむのはファイル配信音源の利点だが、こと放送に使うとなるとリッピングができないので、リアルタイムの録音時間がかかる。→今ここ。

icon-youtube-play シベリウス:交響曲第1番(対向配置)

ミュージックバードのスタジオにはこのUSBメモリーから音源を再生できる機器は第3スタジオのマランツのプレイヤーだけ。4時間分のスタジオを押さえるため、収録のない日曜日にスタジオを独占して録音しているのであった。

ところがここでまた問題発生。録音にはミキサー卓を通して音を調整するのだが、この卓から繋がれたケーブルのLRがよくわからない。何故ラジオのディレクターなどになってしまったのか、と時々疑問に思うほど、実は私はオーディオ機器に疎い。仕事上必要に駆られて、通り一片の部分はマニュアル的に作業行程を頭に叩き込んでいるだけなので、系統立てて理解できているわけではないところが弱点である。普段はケーブルにはプラグの先が赤い色で塗られているのがR、そうでなければLという判別しかしていないので、久しぶりにプラグの先を見たら何度も抜き差しをしているせいか、色が薄くなってしまって判別不能ではないか。うっすら赤いと思われる方をR、と思って別の機器からケーブルを抜こうとすると、あれ? 見るとL側に刺さっているような……。気のせいか? などと考えている間に訳がわからなくなってきた。

仕方なくヤルヴィのシベリウスを試しに聴いてみる。ところがこの音源、オーケストラが対向配置のせいかLRが分かりにくい。日曜日で頼れる人も少なく困り果てたのだが、マスター室のベテランミキサーYさんを呼び止めて確認してもらった。Yさんはその昔に、クラシックコンサートの会場録音も経験している人だが、オーケストラの対向配置を初めて知ったと言う。

対向配置とは舞台左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、と並ぶいわゆる通常配置に対し、第1ヴァイオリンの反対側に第2ヴァイオリンを置く配置のことである。この配置は音の内声部がよく聴こえるため、古典派の作品などではよく取り入れられる。またホールの特性や指揮者によっても細かい配置は変わることがある。近年はピリオド楽器や小編成のオーケストラも多く、音の響きを重視する傾向があるので対向配置も一般的になっている。大オーケストラの流麗な響きを追求する20世紀のアメリカ的な配置は最近のクラシック音楽界ではやや古いスタイルにさえなりつつある。モダンオーケストラでもピリオド楽器スタイルで演奏することも多いので、例えばベートーヴェンの交響曲のテンポ感も昔より大分速くなっている。クラシック音楽のマーケットが小さくなってくる一方で、そのスタイルは変化し、同じ曲を幾度も繰り返し演奏しているだけではなく、新たな演奏の試みが生まれてきているのが最近の傾向なのだ。

私が簡単に説明している間にYさんはケーブルの先にわかりやすいLRの印を付けてくれた。シベリウスの交響曲全集の録音ももう少しで完了。日曜日の午後、ラジオディレクターの仕事はまだまだ続く。

icon-youtube-play シベリウス:交響曲第2番(通常配置)

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