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Column Feature Tweet Yoko Shimizu

SYMPHONIA9年間の軌跡

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、楽器店勤務を経てラジオ制作会社へ。その後フリーランス。TOKYO FMで9年間早朝のクラシック音楽番組「SYMPHONIA」を制作。衛星デジタル音楽放送ミュージックバードではディレクター兼プロデューサーとして番組の企画制作を担当。自他ともに認めるファッションフリーク(週1回更新予定)

番組改編期は新番組が始まるとともに長年やってきた番組が終わる季節でもある。私も今回の改編ではTOKYO FMで9年間という長い期間制作を続けてきた「SYMPHONIA」が終了することになった。

9年前に番組が始まる時は急に話が決定し、そもそも地上波でクラシック音楽の番組というのは非常に少なかったし、当初は月〜金曜日の帯番組。月曜日は1時間だったが、火〜金曜日は2時間。金曜日だけは海外の音源を紹介するライブ番組編ということで、別のスタッフの方が担当になった。つまり月〜木曜日は一週間に7時間も番組を制作しなくてはならないわけで、当然担当ディレクターはかなり時間を取られる。既に地上波の番組をいくつも持っている人には務まらず、私にお鉢が回ってきたのである。衛星の有料放送でクラシック音楽番組を担当していたとはいえ、地上波とは勝手も違うし、納品のルールも異なる。まずはそこでかなりプレッシャーがあった。

地上波の納品ルールは無音検知が10秒と短いことが最大の難関だった。クラシック音楽はダイナミックレンジが広いうえ、消え入るように終わる楽曲も多く、マーラーの交響曲第9番の終楽章などは余韻だけで何十秒もおかなくてはクレームが来る衛星放送の制作に慣れていた私は、最初はこのルールが耐えられなかった。実際耳で検聴すれば音が鳴っているのに、機械が「無音」と検知しているから、と納品ファイルを突き返されたことが何度もあった。正直このルールはクラシック音楽をかける場合には適用すべきでないと今でも思う。そのことで技術スタッフと一触即発になったこともあったがそれも今では「若気の至り」ということにしておこう。(実際そんなに若くなかったけれど)

icon-youtube-play マーラー:交響曲第9番第4楽章

時効なので暴露してしまうと、急に決まった話ゆえ制作時間が全く足りなくて、プロデューサーとも相談し、当初は衛星放送で使っていた音源を流用し、それを少しアレンジするやり方で番組を作ることになった。その分音源を集める時間を節約するためだ。同じ1時間の「音楽だけ」の番組の中身を使うので、後はナレーションを付け加え、作曲家の誕生日だとか、祝日などはその日に合わせた楽曲を付け足したりして構成し、後はオープニングとエンディング、中盤にCMも加えることになった。

このナレーションを担当するパーソナリティも選ばなくてはならない。私はオーディションには参加しなかったが、クラシック音楽に詳しい男性アナウンサーなども参加していた中、早朝の番組ということで穏やかな女性の声の方がいいだろう、と外川智恵さんに決定した。今思えばここから外川さんと長いお付き合いが始まることになったわけである。初対面の外川さんはいかにもアナウンサーといった感じの華やかさを持ちながら、知的で落ち着いた雰囲気の女性だった。プロフィールを見ると私と同い年とあったので、とても親近感を持った。当日はマイクテストも行い、見た目の印象そのままの落ち着いて柔らかな外川さんの声はクラシック音楽を案内するのにぴったりだと思った。しかし問題はクラシック音楽の曲名や演奏者の名前である。曲名一つをとってみても長く、「モーツァルトのピアノ協奏曲第26番ニ長調K537(ケッヘルごひゃくさんじゅうなな)「戴冠式」より第1楽章」、演奏者も「フリードリヒ・グルダのピアノと指揮、ミュンヘンフィルハーモニー管弦楽団」となる。

icon-youtube-play モーツァルト:ピアノ協奏曲第26番ニ長調K537「戴冠式」

この長々しく、読みづらいナレーションを延々と収録するので、最初は外川さんもかなり苦労していたようである。ロシアや東欧系の作品や演奏者は殊に大変だ。「リムスキー=コルサコフ」や意外と難しい「リヒャルト・シュトラウス」、チェリストの「ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ」や後半日本でも大活躍した「スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ」などはその名前を聴き慣れている音楽関係者でさえ、さらっと言える人は少ないだろう。

icon-youtube-play 指揮者:スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ

またバッハの宗教曲などは文語体のタイトルも難しい。「目覚めよと我らに呼ばわる物見らの声」だとか、もっとも最近はだいぶ口語体になっていることも多く「目を覚ませと呼ぶ声が聞こえ」ということもあるが厳かな感じがなくなるので、私はなるべく文語体を使うようにしている。「ツァラトゥストラはかく語りき」を「ツァラトストラはこう語った」といわれたら、哲学者と隣の大学生くらいの違いがあるような気がする。

icon-youtube-play R.シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」冒頭

それはさておき、リスナーから早朝の番組にも関わらず、メッセージがたくさん届いたことにも勇気づけられた。朝早くから子供のお弁当を作るお母さん、入院して不安な気持ちの朝にクラシック音楽を聴いて癒されたという人、また早起きをしている人ばかりでなく、夜中から仕事を続け夜明けとともに一日を終える人がほっとした時間に耳にすることもある。そんな様々な人に番組がひとときの安らぎや活力を与えてくれていたのならこんなに嬉しいことはない。制作は大変だったけれど、地上波でクラシック音楽番組を届けることができた9年間は私にとってもかけがえのない時間だったと思う。

ちなみに金曜日のSYMPHONIAは引き続き放送されるので、こちらの貴重なライブ音源も楽しんでもらいたい。

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