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Column Feature Tweet Yoko Shimizu

パリの響き

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、楽器店勤務を経てラジオ制作会社へ。その後フリーランス。TOKYO FMで9年間早朝のクラシック音楽番組「SYMPHONIA」を制作。衛星デジタル音楽放送ミュージックバードではディレクター兼プロデューサーとして番組の企画制作を担当。自他ともに認めるファッションフリーク(週1回更新予定)

先日の金曜日、ラジオパーソナリティである友人の浜菜みやこさんがクラシックのサロンコンサートに誘ってくれた。彼女とは長い付き合いで、いわゆるクラシック音楽畑の人ではないのだが、同じ職場で出会ってから同世代ということもあって、一緒に食事や旅行を楽しんだり、もう20年近くになる。週末は収録のオンパレードで現在スケジュールが厳しいのだが、コンサートの内容がちょっと興味深いものだったので、多少慌ただしくはなるが出掛けることにした。

フランスものを中心とした室内楽で石見銀山国際音楽アカデミーの講師たちによる特別コンサートとあった。石見銀山は島根県の世界遺産。そこで開催されている音楽アカデミーはヴァイオリニストの破魔澄子さんが音楽監督を務めている。彼女はフランス国立管弦楽団の第1ヴァイオリン奏者として40年間活躍した実績を持ち、2008年からは島根県に居を移し、日本とパリで音楽活動を続けているとのこと。古巣であるフランス国立管弦楽団の奏者や仲間たちによる室内楽コンサートの東京公演は代官山のプラザホールだった。ヒルサイドテラスの一角にあるサロン風のホールである。基本的には会員制のホールらしく、ヒルサイドプラザのオーナーやテナントが主催する集会などに利用される、とのことでクラシックのコンサートも度々行われているらしい。今回のプログラムは「パリの響きを日本に!」という見出しが付いている。ドビュッシー、ラヴェル、フォーレ、メノッティ、ファランクとなかなか凝った構成である。

プラザホール入口はコンクリートの円形の外観で、螺旋状になった階段を下っていくと200席くらいのホールが現れる。10分程前に到着した時には既に座席は8割方埋まっていただろうか。私達は左の前方の席についた。多目的ホールでコンクリートの建物だから音響的にはやや聴きづらいかもしれない、という予感がした。しかしピアノがベーゼンドルファーだったのが目を引いた。果たしてどんな響きのコンサートになるのだろうか。

19時開演時刻になると明かりがすっと消え、暗くなった。ここまでは通常だが、しかし少し暗過ぎるような気もしていると、ステージにスポットライトも当たらぬまま、ドビュッシーのシランクスが奏でられた。この曲はフルートの無伴奏ソロである。調性を殆ど持たないこの楽曲はよくコンサートの冒頭に演奏されることが多いが、危うげな半音の出だしのフレーズで途端に幻想的な雰囲気が漂う。真っ暗なステージに奏者は姿を見せない。フルートの音色だけが聴こえコンサートの始まりを告げる。音響が鋭いホールの性質は気になったが、フランス国立フィルの首席奏者であるトーマ・プレヴォはそれをカヴァーして余りあるソロを聴かせてくれた。

icon-youtube-play ドビュッシー:シランクス

続いてはこのコンサートの主催者でもある破魔澄子さんのヴァイオリンでラヴェルのツィガーヌ。フランス風の、というよりはゆったりとしたテンポ、民俗色豊かなたっぷりとした演奏に意表を突かれた。

icon-youtube-play ラヴェル:ツィガーヌ

続いてはフォーレの三重奏曲。ツィガーヌに引き続き破魔さんのヴァイオリンとピアノのミロスラフ・セケラ。セケラは幼い頃から数々のジュニアコンクールで受賞し、あの映画「アマデウス」に天才少年モーツァルト役として抜擢されたという経歴も持つ。そしてチェロは日本を代表するチェリスト、堤剛。サントリーホールの館長でもある重鎮だ。このトリオの演奏が素晴らしかった。とりわけ堤さんのチェロが加わったことで音楽全体にまとまりと深みが増していた。どちらかというと彼のチェロは、私などは録音で聴く機会が多いせいか、バッハやベートーヴェンなどドイツの王道レパートリーの奏者、という印象もあったのだが、このフォーレでのしっとりとした色気のある、といってもいいような音色に聴き入ってしまった。ピアノもヴァイオリンもそれに呼応するように生き生きとした演奏となった。ベーゼンドルファーの独特の深い音色も、フォーレの作風にとてもよく重なり合っていたように思う。

icon-youtube-play フォーレ:三重奏曲

休憩の後、メノッティのヴァイオリン、クラリネットとピアノのための三重奏曲。メノッティといえばオペラ作曲家、というイメージしかなかったが、彼の室内楽曲を聴けるのも貴重な機会だ。ここでのクラリネットはフランス国立管弦楽団首席のパトリック・メッシーナ。残響の少ないホールでもふくよかな柔らかい音色が見事。

icon-youtube-play メノッティ:ヴァイオリン、クラリネットとピアノのための三重奏曲

最後はファランクの三重奏曲。冒頭のシランクスを演奏したプレヴォーが再び登場。堤剛のチェロ、セケラのピアノといった編成である。ファランクはメンデルスゾーンやショパン、シューマンなどとともに生きたロマン派時代の女性作曲家。この時代に作曲家として女性が活躍することは限られていただろう。演奏される機会は少ないが、最近になってこうした室内楽曲を聴く機会も少しずつ増えた。やや古典的な作風を残しながらロマン派らしい情緒も感じる。ここでも堤さんの音楽的リードが光っていた。

icon-youtube-play ファランク:三重奏曲ホ短調Op45

「パリの響き」を堪能した夜のサロンコンサートだった。

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