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Column Feature Tweet Yoko Shimizu

第16回チャイコフスキー国際コンクール

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、楽器店勤務を経てラジオ制作会社へ。その後フリーランス。TOKYO FMで9年間早朝のクラシック音楽番組「SYMPHONIA」を制作。衛星デジタル音楽放送ミュージックバードではディレクター兼プロデューサーとして番組の企画制作を担当。自他ともに認めるファッションフリーク(週1回更新予定)

現代で世界3大コンクールと言えば、ショパン国際ピアノコンクール、エリザベート王妃国際コンクール、そして先日、既にピアニストとして華々しい活躍をしている日本人若手の藤田真央の出場で話題を呼んだのが、チャイコフスキー国際コンクールである。開催は4年に一度モスクワで行われ、ピアノとヴァイオリン、チェロ、声楽、更に今年は木管・金管楽器部門が新たに加わった。

第1回にアメリカのピアニスト、ヴァン・クライバーンが冷戦状態だった政治の壁を超えて優勝したことは演奏史上有名な話である。このクライバーン自身の名前を冠したコンクールで人気ピアニスト辻井伸行が2009年に優勝しているのはご存知の方も多いだろう。チャイコフスキーコンクールはピアニストのウラディミール・アシュケナージ、チェリストのミッシャ・マイスキー、ヴァイオリニストの諏訪内晶子など、入賞者のその後の活躍を見ても世界で最も権威ある舞台だということは間違いない。今年ピアノ部門で優勝したのはフランスのアレクサンドル・カントロフ。あのジャン=ジャック・カントロフの息子である。今では指揮活動も活発な父カントロフのヴァイオリニストとしての全盛時代を知っている世代としては隔世の感がある。

icon-youtube-play アレクサンドル・カントロフ

2017年にクララ・ハスキル国際ピアノコンクールで優勝を飾り、一躍注目を浴びた藤田真央だが、1998年生まれということで未だ20歳。今回の結果は惜しくも2位だった。しかし昨今、国際コンクールで入賞する日本人演奏家も多いが、そうした面々に比べても藤田真央は別格の存在だ。殊にモダンピアノは鋼鉄の弦をハンマーで鳴らす構造だ。協奏曲ともなればオーケストラと対等に音を響かせなければならないという意識からか力任せに鍵盤を叩くピアニストのなんと多いことか。しかし藤田真央はそうした力みのない演奏が特徴。しなやかなタッチから生まれる響きは柔らかく、どんな和音でも音色に深さと光沢がある。自然な歌心を持ち合わせた音楽性も実に心地良く、近年聴いた若手ピアニストの中でも圧倒的な存在感である。

icon-youtube-play 藤田真央

神田の蕎麦屋で音楽仲間と食事した際にも話題に上った。今ではネットでコンクールの中継をリアルタイムで見られることもあってか、夜通しパソコンの画面に張り付いていた友人たちの話を聞いて盛り上がった。

チャイコフスキーコンクールはその名を冠する通り、ロシアの作曲家のレパートリーが多くなるので、いわば〈味の濃い〉楽曲での勝負。藤田真央の場合、もちろんずば抜けたテクニックを持ち合わせているのだが、大陸的スケール感だとか、一方で陰鬱とした情感といった所謂〈ロシア的な〉側面をクローズアップすると、その清潔感溢れる音楽性ゆえに印象が薄れてしまうことがあったかもしれない。また海外での演奏経験も少ないことで緊張もあっただろうし、年齢を重ねる中で選曲を含めステージでの魅せ方、といった部分もこなれてくるだろう。

今回のコンクールの結果はファイナルでの協奏曲が明暗を分けたようだ。協奏曲というのは当然指揮者やオーケストラとのアンサンブルになるので彼らとの相性が非常に重要になってくる。人気曲ではあるがチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番が藤田真央の個性に合っていたかというとちょっと微妙だ。ラフマニノフで第3番を選んだのは正解のようにも思えたが、この曲は第1楽章の冒頭がオーケストラの序奏から始まる。すなわちオケの主導権で音楽が決まる。指揮をしたワシリー・ペトレンコのゆったりとしたテンポ設定もやや合わなかった、とは友人の弁。そうなると「たら」「れば」の話にはなるが、第2番の方がピアノのソロで始まる分、自分のリズムで曲を持っていけたのではないだろうか? 優勝したカントロフはチャイコフスキーではマイナーな第2番、そしてブラームスの協奏曲第2番という意表を突いた選曲だった。これも功を奏した感がある。

今回第4位となった中国のアン・チャンスーは本選での協奏曲の演奏順序が間違って演奏される、という前代未聞のハプニングもあった。チャイコフスキーの第1番、その後ラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲、と演奏されるはずだったが、楽譜の管理をするライブラリアンが間違ってラフマニノフの楽譜を先にオーケストラに準備したためだ。ピアニストの焦りと困惑は動画を見ても明らか。しかしすぐに曲に対応したのは見事という他ない。責任当該者のライブラリアンは解雇(!)されたという。

icon-youtube-play アン・チャンスー

また国際コンクールの舞台はピアノメーカーの戦いの場でもある。優勝したカントロフはそれまで日本のメーカーであるShigeru Kawaiを使用していたが、本選直前でスタインウェイに変えた。ピアニストとして総合的な判断があってのことと思うが、日本メーカーとしては残念な結果となった。

若い演奏家たちの登竜門である国際コンクール。それは彼らのアーティストとしての将来を左右する重要な場面であり、注目度が高いだけに音楽業界としてもビジネスチャンスであるのは疑いようのない事実である。

第16回チャイコフスキー国際コンクールの2週間に渡る熱い戦いが幕を閉じた。

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