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Column Feature Tweet Yoko Shimizu

久石譲とフューチャー・オーケストラ・クラシックス

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、楽器店勤務を経てラジオ制作会社へ。その後フリーランス。TOKYO FMで9年間早朝のクラシック音楽番組「SYMPHONIA」を制作。衛星デジタル音楽放送ミュージックバードではディレクター兼プロデューサーとして番組の企画制作を担当。自他ともに認めるファッションフリーク(週1回更新予定)

久石譲といえば現代音楽の作曲家であり、北野武や宮崎駿の作品を手掛けた映画音楽の分野でも世界的に有名だが、一方で指揮者としての顔を持つ。自ら設立した長野市芸術館を本拠としたナガノ・チェンバーオーケストラを率いてベートーヴェンの交響曲を演奏、録音もしている。もちろんミニマルミュージックにルーツを持つ自身の作品、ディヴィッド・ラングやマックス・リヒターなど、同時代の作曲家の作品を取り上げるシリーズ「MUSIC FUTURE」では新たな現代音楽の世界を提示、その幅広い音楽活動はジャンルに捉われることがない。しかし指揮活動においては意外と言ってもいいくらい正統的なクラシックのレパートリーを見据えていて、録音で聴いた彼らのベートーヴェンにはいささか驚かされた。作品に真正面から取り組むその姿勢、彼のこれまでのキャリアを考えるとあまりにもひたむきな演奏だったからである。

icon-youtube-play MUSIC FUTURE Vol.2

先日、紀尾井ホールで彼らのライブコンサートを聴く機会があった。ナガノ・チェンバーオーケストラは新たにフューチャー・オーケストラ・クラシックス(FOC)として進化し、現代音楽とクラシック音楽を組み合わせたコンサートシリーズを開始する、ということだった。オーケストラのメンバーは若手が多く、小編成ということもあって、あのクルレンツィスのムジカエテルナのように、舞台に立って演奏していた。その日のプログラムは第5番と第7番。そして冒頭に久石譲自作の「Encounter」が演奏された。

「Encounter」は弦楽オーケストラのための作品。ミニマルミュージックの要素を持ちながら弦合奏ならではの独特の叙情性もあり、いわゆるクラシック音楽にはないアフタービートの変拍子でリズムを刻んでいく。この曲はだまし絵の画家として有名なエッシャーの展覧会で、同名の作品にインスピレーションを受けて作曲したという。また会場にいた多くの若い世代の聴衆にもすんなり受け入れられる音楽だろう。この曲を冒頭に持ってきたのはプログラムの導入としてはかなり成功していたと思う。

続いてはいよいよメイン・プログラムのベートーヴェン、交響曲第5番である。かつては「運命」というタイトルでも親しまれた作品だが、近年はベートーヴェン自身が付けたタイトルではないということで、その名で呼ばれることはなくなってきた。

FOCの演奏は始まるなり鮮烈な印象を受けた。冒頭のジャジャジャジャーン、はあまりにも有名だが、最近ではこのような小編成のオーケストラで演奏される機会も多いせいか、軽やかなアプローチで聴かせる指揮者も増えてきた。久石のベートーヴェンもそうした実に現代的な演奏である。若いメンバーのオーケストラは集中力と勢いに満ち、早いテンポで弾むように推進していく音楽は、時にリズムを強調するように振られる久石の指揮と相まってロックミュージックのような高揚感に溢れている。ベートーヴェンの第5番はそんな彼らの魅力を存分に抽き出し得る楽曲でもある。これを作曲した時期のベートーヴェンは聴覚障害が深刻化し、私生活でも不幸が襲うなど、失意の中にあったと想像される。しかし、ここにある力強い音楽にはそれを乗り越えようとする彼の不屈の精神を感じ取ることができる。

後半は第7番。この曲も当時のウィーンがナポレオン軍に占領されるなど、政治的に緊迫した状態から解放された後に作曲された、という背景があったこともあり、希望に満ちた輝かしい曲である。第5番での勢いそのままに開始された第1楽章ではやはり若々しい演奏が私たちを惹き込んだ。しかしこの交響曲のスピード感溢れる全体の個性でもあるのだが、勢いだけで続けてしまうとどこか単調になってしまう、という危険もある。通常緩徐楽章である第2楽章も速度表示はアレグレット。第2、3楽章と演奏が続き、中盤に関しては少し単調な印象に陥ってしまったような気がするのである。それは前半での極度の集中力が後半途切れてしまったせいなのか、少しアンサンブルの乱れも気になった。しかし疾走する駿馬のような第4楽章になるとまたオケの意識も回復してきたようで勢いに乗ってフィナーレまで駆け抜けた。

icon-youtube-play ベートーヴェン:交響曲第7番by久石譲指揮読売日本交響楽団

第5番と第7番のカップリングはディスクなどでもよくある組み合わせではある。ベートーヴェンの中期の作品らしく、力強く颯爽とした音楽は、かつてのカリスマ指揮者カルロス・クライバーの演奏に代表される永遠のスタンダードも記憶に残るところだが、若手指揮者やオーケストラのデビューとしても格好のプログラムではあるが、各楽章の味わいの違いを聴かせるのは意外と難しいところだ。

icon-youtube-play ベートーヴェン:交響曲第7番第4楽章byカルロス・クライバー

とは言えFOCの類まれな演奏技術の高さと、それを存分に生かし演奏にまとめ上げる久石譲の指揮者としての手腕は、新時代の音楽シーンを担っていくのに十分な期待値があることをこの日のコンサートで確信を持った。

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