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Column Feature Tweet Yoko Shimizu

ランチタイムコンサート@神楽坂

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、楽器店勤務を経てラジオ制作会社へ。その後フリーランス。TOKYO FMで9年間早朝のクラシック音楽番組「SYMPHONIA」を制作。衛星デジタル音楽放送ミュージックバードではディレクター兼プロデューサーとして番組の企画制作を担当。自他ともに認めるファッションフリーク(週1回更新予定)

梅雨が明ける前の晴れ間が覗く午後、私は神楽坂に向かっていた。アグネスホテルで、友人のピアニスト島田彩乃さんと彼女のフランス留学時代の仲間であるヴァイオリニスト矢野玲子さんのランチタイムコンサートを聴きに行くことになっていたのである。アグネスホテルは駅からも数分の距離にありながら、神楽坂の閑静な住宅街の中にひっそりと佇んでいた。まさに大人の隠れ家といった雰囲気だ。このホテルには初めて足を踏み入れたのだが、ホテル・アンド・アパートメントという名称の通り、長期滞在する常連客も多いという。普段せわしなく仕事をしている私にとってはそんなのんびりした休日の過ごし方に憧れてしまうが、ランチタイムにこんな素敵な場所で無料のコンサートが聴けるというのは、これはこれでなかなか優雅である。プログラムに第172回と書かれてあることからも何年も前から行われている企画らしい。

普段はバンケットルームに使われているらしい地下のフロアにコンサート会場があった。100席程はあったが、私が到着した時には既にかなりの人が入っていた。今回のテーマは『至極のデュオを聴く』。始まる時には立ち見も出ていたので2人の人気ぶりが窺える。

ヴァイオリニストの矢野玲子さんは東京芸術大学在学中にフランスに留学。ジャン=ジャック・カントロフやピエール=ロラン・エマールなどにヴァイオリンと室内楽を師事し、ジュネーヴ国際コンクール最高位を受賞。現在はルクセンブルク・フィルハーモニックオーケストラの第2ソリストとして活躍している。一方ピアノの島田彩乃さんは桐朋女子高等学校音楽科を首席で卒業。パリ高等音楽院、エコール・ノルマル音楽院、ライプツィヒ音楽大学でも学び、帰国後は各地で演奏活動を行うとともに後進の指導にも当たっている。

icon-youtube-play 矢野玲子(Vn)

icon-youtube-play 島田彩乃(P)

プログラムはまずクララ・シューマンのヴァイオリンとピアノのための3つのロマンスOp22。今年はクララの生誕200年ということもあり、彼女の数少ない作品の中でもこの曲は比較的演奏される機会が多い。美しいロマンティックなメロディーは夫であるシューマンよりも、むしろその弟子でもあったブラームスの作品のような印象を与える。定かではないにせよ、彼らが恋愛関係にあったという話はよく知られているがそんなことも頭をよぎる。島田さんの柔らかなピアノに続いてヴァイオリンが歌い出す。矢野さんのことはその人柄についていろいろとエピソードを聞いてはいたのだが、その音色を聴いた途端、とても感情が豊かな人なのだな、ということがすぐに伝わってきた。とても饒舌なヴァイオリンだ。

icon-youtube-play クララ・シューマン:3つのロマンスOp22

続いてはベートーヴェンのヴァイオリンソナタ第3番Op12-3。ベートーヴェンに関してはほんの少し硬い印象がなくもなかった。それはアンコールのラヴェルがあまりにも魅力溢れる演奏だったので、余計にそう感じたのかもしれない。やはりフランスで学んだ2人にとってラヴェルの作品は空気のようにしっくりと馴染むのだろう。そのエスプリと余韻はまるで香り高いワインのように深い味わいだった。

コンサート後、友人達とランチを一緒にとることになった。久しぶりに日本に帰国したばかりの矢野さんが一緒だったこともあり、日本食を、ということでお目当ての蕎麦屋に向かったのだが、生憎行列していたので、近くの料亭風のお店に入った。ゆったりとした個室があり、しかもリーズナブルで美味しい定食メニューが食べられるという、偶然にしては出来過ぎのお店だった。すっかり寛いで初対面だった矢野さんとも楽しくお喋りをしたのだが、ヴァイオリンのイメージそのままに、とても饒舌で感性豊かな人だった。彼女は普段オーケストラの団員としても仕事をしているので、オケの中から見た指揮者への目線とか、作品の捉え方なども伺うことができて興味深かった。

番組でアーティストをゲストに迎えた時に思うのが、演奏はそのまま人柄のイメージに重なる、ということだ。中でもヴァイオリニストは話がどんどん飛躍したり、身振り手振りが大きかったり、比較的そんなタイプが多いような気がする。反対にピアニストはよく考えてから言葉を選んで話す人が多い。特に室内楽をやる人はその傾向があるようだ。指揮者はやはり話に起承転結をつけ、まとめるのが上手い。

さて、矢野さんはイングリッシュ・ナショナル・バレエの「ジゼル」を大推薦していた。彼女はオケピにいたためよく見えなかったそうだが、ロマンティック・バレエの代表作とも言える「ジゼル」が、バングラデシュ生まれの両親を持つイギリスの鬼才アクラム・カーンの振付けでコンテンポラリー・バレエに変貌していて素晴らしい舞台だったとか。カーンといえばシルヴィ・ギエムとの来日公演を何年か前に観て、強烈な印象が残っている。「ジゼル」は日本でも公開されていたそうだが、すっかり見逃していた。DVDが出ているそうなので是非観てみたい。

icon-youtube-play イングリッシュ・ナショナル・バレエ「ジゼル」

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