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Column Feature Tweet Yoko Shimizu

『白鳥の湖』の完璧な世界

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、楽器店勤務を経てラジオ制作会社へ。その後フリーランス。TOKYO FMで9年間早朝のクラシック音楽番組「SYMPHONIA」を制作。衛星デジタル音楽放送ミュージックバードではディレクター兼プロデューサーとして番組の企画制作を担当。自他ともに認めるファッションフリーク(週1回更新予定)

「白鳥の湖」はバレエの中でも最もスタンダードな作品だろう。〈白鳥〉というモチーフとクラシックバレエの究極のマッチング。まだ〈白鳥〉と〈黒鳥〉という正反対のキャラクターを1人のプリマが踊るという舞踊的な見せ場や、王子とのロマンティックなパ・ド・ドゥ、群舞の幻想的な美しさなど、バレエの構成としても隙がない作り。そこへチャイコフスキーのドラマティックな音楽が物語を彩る。こんなにも完成されたバレエ作品は他にない。しかし、この完成された世界に挑戦するコレオグラファーやカンパニーが存在する。

icon-youtube-play ボリショイ・バレエ「白鳥の湖」

近年話題なのはマシュー・ボーンの演出による「白鳥の湖」だ。王子と白鳥の愛の物語を同性愛として描いているのが異色である。白鳥を演じるのが全員男性というのも画期的な演出だ。初演以来、世界的に話題を集め、日本でも先頃、新演出版を提げて来日している。もはやリピーターも存在しているようで、確固たる人気を博しているが、私も初来日の年に観に行ってその面白さに目から鱗の体験をした。

icon-youtube-play マシュー・ボーン「白鳥の湖」

さて、そんな「白鳥の湖」だが、今回やはり初来日を果たすドイツのカンパニー《アム・ライン》が新演出での公演を行うという。つい先頃13年ぶりに来日したオランダのコンテンポラリーバレエ、《ネーデルランド・ダンス・シアター》が素晴らしい舞台を観せてくれて、その記憶が鮮烈だったのもあり、モダンの要素を取り入れた新演出の「白鳥の湖」に興味津々だった私は、友人のK女史の誘いもあり、観に行くことにした。

もう一つ興味深かったのは、よく知られた改訂版であるチャイコフスキーの「白鳥の湖」ではなく、原典版といわれるオリジナルのリブレットに基づく音楽を使っているという点だった。最近はオペラでも原典回帰の傾向があり、オルジナル版の演出や上演が多い。またそうすることで作品本来の魅力を再発見しようという試みでもある。アム・ライン、果たしてどんな「白鳥の湖」なのだろうか?

icon-youtube-play バレエ・アム・ライン「白鳥の湖」

渋谷のオーチャードホールで行われた公演は土曜日の18時半開演。レギュラー番組の収録後だった私は少々ギリギリの到着だった。慌てて会場に入ったのだが、客席はまだかなり空席がある。時間がないので係員の女性にチケットを渡して案内してもらう。「こちらです」と先導された時、「やけに舞台前方まで行くな」とは思ったのだがとりあえず席に着く。その直後にチケットを確認したらやはり2階席と書いてある。K女史がチケットを手配してくれたのだが、バレエやオペラは全体のフォーメーションが見られる席がいい、と確認し合ったばかりだったので、1階席前方なのは変だなとは思ったのだが、直後に開演してしまった。K女史も隣にいないし、どうやら係員の女性が間違えたようなのだ。座席もまるまる1列空席だったので問題にならなかったのである。こちらもよく確認してなかったとはいえ、なんとまぁ、幸先の悪いことよ。しかもオーケストラ・ピットに近かったので余計に気になったのだが、ホルンが冒頭で盛大に音を外すなど、オケも乱調気味。心がざわついてしまった。

チャイコフスキーの普段聴き慣れた「白鳥の湖」とはやはり少し違う。音数が増えていることで登場人物も多く設定も異なり、キャラクター同士の関係性もより複雑になっている。しかしミニマムな衣装のダンサーたちはオデットや王子、その母親以外のキャラクターはどうにも判別しづらい。確認しようにも資料的なものが何もなかった。新演出を謳っているのだから有料のプログラム以外に簡易な紹介のパンフレットを入れておいてくれればいいのに、と思う。

休憩時にようやくK女史と合流。彼女も時間ギリギリに到着したらしいが、やはり間違った案内をされて困惑したらしい。そうした会場のゴタゴタも含めて、空席の目立つこの公演全体の運営に対して少々疑問が残るところだ。

それはさておきマーティン・シュレップァーの新演出、K女史とはお互いに肝心の振り付けがチャイコフスキーの音楽とうまくシンクロしていないように感じたのも共通していた。それはチャイコフスキーの完璧な音楽と分かりやすい改訂版が、私たちの中に確固たるイメージとともに植え付けられているせいなのだろうか? この違和感は古典作品に象徴的なポワントを時に封印し、モダン的要素で振り付けられたから、というだけではないような気がする。

しかしその中でいくつか素晴らしい見せ場もあった。それはやはり群舞である。改めて2階席から観ると現代風にアレンジされた羽のついた衣装が素敵で、裾の羽が揺れ動く様はとても美しい。また〈4羽の白鳥の踊り〉。私はそのコケティッシュで軽妙な音楽が好きなのだが、エネルギッシュな振り付けで、よりドラマ性を増していた。技術的にも難しい振りだったと思うが、ダンサーの実力本領発揮というところである。

icon-youtube-play 4羽の白鳥の踊り

さてS席2万円のチケットは妥当なのかどうか、今回の判定は難しいところだ。

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