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フィルハーモニア管弦楽団来日

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、大手楽器店に就職。クラシック音楽ソフトのバイヤー時代にラジオにも出演。その後に制作会社を経て、現在はフリーのラジオディレクターとして番組の企画制作に携わる。番組連動コラムや大学でゲスト講師をつとめるなど幅広く活動中。

エサ=ペッカ・サロネンがフィルハーモニア管弦楽団を率いて来日した。

実はこのソリストにはヴァイオリンの庄司紗矢香の他に、ノルウェーの名チェリスト、トゥルルス・モルクがサロネンの新作のチェロ協奏曲を日本初演するはずだった。ところが来日直前でモルクの体調不良により彼の出演はキャンセル。モルクはトッパンホールでもソナタのプログラムを演奏する予定だったのだが、当然中止となってしまった。モルクの長年のファンでもあり、共演を楽しみにしていたというピアニストの島田彩乃さんと私は食事をよくご一緒する仲なのだが、彼女も相当落ち込んでいた。私も楽しみにしていただけに残念だったのだが、ならば久し振りにサロネンの指揮するフィルハーモニア管弦楽団を聴きに行ってみようと思い立ったのだ。

またまた直前にチケットを購入。フィルハーモニア管弦楽団はイギリスの伝統あるオーケストラで、古くはR.シュトラウス、トスカニーニやフルトヴェングラー、カラヤンといった名指揮者とともに数々の名演を残してきた。2008年から首席指揮者を務めているのがフィンランド出身のエサ=ペッカ・サロネン。指揮者と同時に作曲家でもあり、シャープで前衛的な作風で自作自演も多い。彼がかつてロサンジェルス・フィルハーモニックの音楽監督だった時代に、ピアニストのレイフ・オヴェ・アンスネスとともに来日した際、サントリーホールで聴いたのを思い出す。まだ30代の青年指揮者だったサロネンの颯爽とした指揮姿が今も頭に焼き付いている。

本当ならばモルクが弾くサロネンの自作を聴いてみたいところだった。それがかなわなくなってしまったので、庄司紗矢香が代役でシベリウスのヴァイオリン協奏曲を弾くことになったのだが、その日はスケジュールの都合で時間が厳しく、尚且つシベリウスよりショスタコーヴィチの方が面白そうだったので、28日の火曜日に出陣することにした。会場は池袋の東京芸術劇場。高さのあるホールなので、上の階でも比較的音が響く。今回はお財布事情もあって、3階席の中央を陣取った。

プログラムの始めはシベリウスの交響詩「大洋の女神」。あまり馴染みのない曲だが、美しい弦楽の響きがグラデーションのように広がる。サロネンにとっては自国の作品でもあり、フィルハーモニア管の持つ優雅な音で精緻に描いてみせる。食前酒としては素晴らしい導入の演奏だ。

icon-youtube-play シベリウス:大洋の女神

さて、次は庄司紗矢香の弾くショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番。この曲はヴァイオリン協奏曲の中でも極めて大規模で難易度の高い楽曲である。庄司紗矢香は1999年に最年少で日本人として初めてパガニーニ国際コンクールを制した国際的なヴァイオリニスト。怜悧な感性の持ち主でリゲティなど現代曲も難なく弾きこなす。名門レーベル、ドイツ・グラモフォンでも一流指揮者やオーケストラと共演していて録音は何度も聴いていたのだが、実はライブで聴くのは初めてだ。冒頭からストラディヴァリウス「レカミエ」の深い音色が朗々と響く。3階席という位置も忘れてしまうほどだ。これはストラドのせいなのか、ヴァイオリニストの腕なのか、はたまたホールの特性なのか。第2楽章の戯けた楽想、文字通り鳥肌の立つような、くっきりと浮かび上がる神秘的なカデンツァ、終楽章のブルレスケの圧倒的な没入感にぐいぐいと引き込まれてしまう。サロネンのオケのコントロールも見事だったが、庄司紗矢香の演奏は凄かった! しかし客席がブラボーで沸き上がる中、彼女は軽いお辞儀だけしてすっと舞台の袖に引っ込んでしまった。サロネンが慌てて袖に追いかけていったほどだ。なんというツンデレ感! そういえばインタビュー泣かせだという噂を聞いたことがある。やがて半ば仕方ないな、という感じで出てきてピチカートのみのアンコール。曲はシベリウスの「水滴」。まるで吟遊詩人のようにヴァイオリンを抱えて演奏する様子も可愛らしく魅力的。彼女を絶賛する友人に言わせると「遅過ぎる」とのことだが、すっかり庄司紗矢香ファンになってしまった。

icon-youtube-play ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番by庄司紗矢香

ラストはメインディッシュ、ストラヴィンスキーのバレエ音楽「火の鳥」。組曲形式で聴くことも多いが、この日は演奏時間も長い原典版。余談だが、この曲は個人的にオーディオ機器を買い換える時にサンプルとして聴くのに最適な曲だと思っている。スペクタクルな音像が音のテクスチャーを掴みやすいのだ。それにしても作曲家でもあるサロネンの耳の良さが際立った演奏だった。木管と金管のバランスの利かせ方、トゥッティのクレッシェンドの振幅、ストラヴィンスキー節とも言える複雑なリズムを小気味好く捌いていく。ラストの爆発こそ少し思い切りが足りなかったような気もするが、それでも充分に満足のコンサートだった。

icon-youtube-play ストラヴィンスキー:火の鳥byエサ=ペッカ・サロネン指揮

そしてサロネンの30代の頃と変わらぬ颯爽とした指揮振り。不謹慎な言い方をすると、昔付き合っていた男性と再会したような懐かしくも愛おしい感覚を覚えてしまった。

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