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Dilemma

Column Feature Tweet Yoko Shimizu

言葉と音楽の関係

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、大手楽器店に就職。クラシック音楽ソフトのバイヤー時代にラジオにも出演。その後に制作会社を経て、現在はフリーのラジオディレクターとして番組の企画制作に携わる。番組連動コラムや大学でゲスト講師をつとめるなど幅広く活動中。

音楽を言葉で形容することはどこか野暮なことのように思っていた。

しかしラジオの仕事をするようになって「言葉」を意識することが日常的になった今、音楽番組を制作する中で、自分でも番組の原稿やこのようにコラムを書く機会もあり、否応なく言葉と音楽の結び付きに直面することが増えた。その二つの関係性の深さにも日々気付かされる。

ライブの現場でも音楽を言葉によって説明することが、最近非常に増えている。例えばコンサートの前後に演奏者がトークをする、というのも珍しくない。もちろん演奏だけで充分だという考えもあるが、演奏だけでは伝えきれない部分を言葉で補うことによって、演奏者のパーソナリティも含めたコンサート全体のイメージを受け取ることができる。音楽の聴き方が多様化した時代では、ある種の「わかりやすさ」が求められているということでもあるのだろう。多少楽器を弾く経験がある私などが考えても、演奏することと話をすることは、脳の中で全く別の部分を使っているような感覚がある。コンサートで演奏とトークを難なくやってのける人は脳の使い方が器用だとも言えるのかもしれない。

先日ヴァイオリニストの渡辺玲子さんをスタジオにお迎えして少しお話を伺ったのだが、彼女は出演者としてレギュラー番組を持っていた経験もあるせいか、とてもお話が上手で、コンサートのトークなども全く苦にならないと言う。またプログラム構成なども手掛け、演奏だけでなく音楽を多角的に研究したり分析したりするのが好きで、知性と感性のバランスが優れている稀有な演奏家である。

icon-youtube-play 渡辺玲子

渡辺さんは大学で教鞭も執っているわけだが、まさに言葉によって音楽を捉える場面が最も多いのが学習の現場、レッスンだろう。もちろん実際に教師が手本として弾いてみせることもあるだろうが、そのニュアンスは言葉によって補足される場合が多い。名教師というのは当然言葉を操る能力も優れていなければならない。今年の東京春音楽祭で、あの巨匠指揮者リッカルド・ムーティのリハーサル風景がライブ配信され、熱のこもったレッスンに感嘆したのも記憶に新しい。

icon-youtube-play リッカルド・ムーティ

さて、先日にもその見事なレッスンの結晶ともいうべきコンサートをハクジュホールで聴くことができた。日本を代表するヴィオラ奏者の大山平一郎さんが主催するMusic Dialogueについては以前にもこのコラムでご紹介したが、室内楽を通じて音楽の様々な「対話」を実現しようというプロジェクト。若手演奏家が大山さんらベテランのレッスンを受ける過程を公開リハーサルとしても聴いてもらい、また客席からの疑問や質問をリアルタイムで字幕解説を付けたりする場面もある、という趣向を凝らした内容だ。後日、レッスンを受けた若手演奏家が改めてコンサート本番でどんな演奏を繰り広げるのか、この公開リハーサルと本番のコンサートをセットで聴くことで面白さが倍増する。

今回のテーマは「デュオ」である。必然的にソナタのレッスンとなるわけだが、取り上げられたのはブラームス。所謂ヴァイオリンソナタ第1番「雨の歌」と、チェロソナタ第1番。これらのソナタはピアノパートも伴奏という役割を超えた同等の力量が求められる。旋律楽器であるヴァイオリンやチェロに対して、音域も広く、音の減衰の逆行が効かないピアノ。楽器としての性質も全く違う両者がどのように寄り添うのか。ピアノパートのコーチングはJ.J.カントロフなどとの共演でも知られるピアニストの上田晴子さん。彼女の指導は次々と発せられる言葉が的確だった。弦楽器の指導は大山さんが担当。こちらは穏やかな口調でありながら鋭く本質を突いたアドヴァイスに唸る。

始めにヴァイオリンの大塚百合菜さん、ピアノの三原三紗子さん。お互いの距離感を量るような手探り状態から、徐々に音を重ね、音楽の中に溶け合っていく。「雨の歌」の主題が出てくる第3楽章などは得も言われぬたおやかさがあった。


(Music Dialogue公式Facebookページより)

特にデュオとしてのシンクロが素晴らしかったのがチェロの水野優也さんとピアノの吉見友貴さん。聞けば同じ高校の先輩後輩として、その存在はお互いに知っていたものの、共演は今回が初めてというお二人。コーチングを受けることで、まるで蛹から蝶に羽化するように、最後は生まれ変わったような圧巻の演奏となり、これには大山さんや上田さんも驚いていた。


(Music Dialogue公式Facebookページより)

最後はその上田さんと東京交響楽団のコンサートマスター水谷晃さんとの共演でR.シュトラウスの若き日のソナタで華やかにフィナーレ。若さという限りない可能性と、「言葉」を紡ぐことで生まれる「対話―Dialogue」の意味を改めて感じたコンサートだった。


(Music Dialogue公式Facebookページより)


(Music Dialogue公式Facebookページより)

この「Duo プロジェクト」はこの度オーディションを初開催。本選の審査員には更にヴァイオリニストの竹澤恭子さんも参加する。選ばれた優秀な若手奏者は、世界的なベテラン演奏家である大山、上田、竹澤との共演機会もある。本選はこの秋ということで、こちらもますます楽しみである。

icon-link Music Dialogue(https://music-dialogue.org/duo/)
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