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Dilemma

Column Feature Tweet Yoko Shimizu

ラジオディレクターの年末〜2025年編

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、大手楽器店に就職。その後制作会社を経て、フリーのラジオディレクターとして主にクラシック音楽系の番組企画制作に携わるほか、番組連動コラムや大学でゲスト講師をつとめるなど多方面に活躍。2022年株式会社ラトル(ホームページ)を立ち上げ、様々なプロジェクトを始動中。

12月はコラムを5本も書いてしまった。日頃からネタを拾うために、出来る限りコンサートやイベントに出かけるようにしているのだが、期待したほどでもなかったり、タイミングを逸するとお蔵入りになってしまったりする。うまくネタとタイミングがフィットした年末だったと言えよう。

ある程度ノルマを達成したところで、今回は気楽な気分の〈ラジオディレクター・シリーズ〉として書いてみることにする。けったいな名のシリーズはそもそもコロナ禍でコンサートがほぼ行われなくなってしまった時期に、このコラムをどうやって書いたらいいのか思案する中、それなら日常生活の些細なことまで軽く書いてしまえ! と無理矢理始めた企画である。当時コロナ禍で収録形態は大きく変化したものの、番組は通常通り放送されるので、我々の仕事量にはあまり変化がなく、それなりに忙しかった。だから、時間とネタが全然ないのに毎回コラムを書くことの辛さったら……。本当によくあの時期を乗り越えたと思う。

思い出語りはこのくらいにして、年末恒例の番組についてである。私の父は某民放テレビ局に勤めていたのだが、実家ではテレビといえばほとんどNHKを見ていた。子どもの頃は何故父が自分の勤めている放送局の番組でなく、NHKばかり見ているのか疑問に思っていたが、大人になると自分もほぼNHKを見ていることに気づく。確かに言葉のアクセントや使い方はひとつの指針となっているし、災害などの情報の迅速さ、質の高いドキュメンタリーやドラマ、歴史や文化をテーマにした番組のクォリティは随一である。

icon-youtube-play NHK放送100年

今年は放送が始まって100年、すなわちNHKも100周年である。そのNHKの看板であり年の瀬の風物詩でもある「紅白歌合戦」といえば、プロの歌手の晴れ舞台。子どもの頃から年末は「紅白」、続く「ゆく年くる年」を見て新年を迎えるのが習慣となっていたものだ。この仕事を始めてからも結局テレビを見てしまっていることにいささか苦笑するのだが、2025年の年末も正月料理を作りながらまずはNHKをつける私であった。

しかし紅白も序盤はピンとこない。最近人気のアーティストをほとんど知らないからである。音楽を聴くのが配信やストリーミングになってからというもの、カスタマイズでおすすめされる楽曲は自分の興味の範疇だけなので、それ以外の音楽はほとんど耳にしなくなった。ゲームやアニメにも興味がないので、これをヒットの根源にしている楽曲に関してほとんど無知である。(実際は仕事に関わるものだけは触れるようにしているが)

結局Eテレに移ってしまう。EテレはNHK交響楽団の年末の第九を放送していた。しかし料理をしながら第九を聴くのは集中できないので途中で諦めた。

ふと気がつけば今日はミュージックバードの看板番組「THE NITE」が最終回。パーソナリティーの大西貴文さんが出張イベント先で倒れてから再放送が続いていたが、そのままドクターストップで番組は20年の長い年月を経て先頃終了が決定した。大西さんとは長年スタジオでよく顔を合わせると冗談を言い合ったりしていたので、こんな形で番組が終わることになるのはとても残念だった。最後はNHK総合とEテレ、ミュージックバード「THE NITE」と三叉で年越し蕎麦を作り、食べながら視聴というマルチタスク状態になった。(実はちょっと編集作業もしていた)

icon-youtube-play 大西貴文「THE NITE」

Eテレでは今年亡くなった音楽家の特集をやっていて、彼らのそれぞれの音楽に聴き入る。特にピアニスト、アルフレッド・ブレンデルの演奏には釘付けになった。ドイツ、オーストリアのレパートリーを得意としたブレンデル、録音でもたくさん聴いてきたのに私は生演奏に触れることは一度もなかった。1980年代N響との共演でブラームスのピアノ協奏曲第1番のリハーサル風景の映像もあった。指揮者はあのヘルベルト・ブロムシュテット。現在98歳にして現役の指揮者にも驚きだが、この時代のブレンデルの堂々たるピアニズムは画面越しでも圧倒的である。

icon-youtube-play A・ブレンデル(P) ここではアバドとの共演。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番より

さて、紅白に切り替えるとそろそろ後半戦。ようやく私のお気に入りの米津玄師が出てきた。おそらく録画だが、首都高を借り切ってのパフォーマンスに度肝を抜かれる。たくさん話題があって書ききれないが、今やユーミンが紅白に出場する時代。松任谷正隆がNHKホールの世界最大級パイプオルガンを弾いているのに仰天! そして石川さゆりがN響と共演。今年はN響も100周年ということで、いつもより凝ったシンフォニックな「天城越え」。ティンパニから始まるのもなかなか乙な編曲だ。オケもノリノリで、こうなるとベテラン石川さゆりも最後のこぶしを少し抑え気味に、N響に花を持たせていたようにも思える。そして大トリには永遠のアイドルにリスペクトした企画として松田聖子が登場。

「青い珊瑚礁」ではやや最後の盛り上がりに欠けてしまう選曲だったような気もするが、還暦を過ぎてこの歌唱スタイルを維持しているのはあっぱれ。高音域が少し弱くなっているとはいえ、キーを下げずに歌い切るテクニックも大したものである。

icon-youtube-play 松田聖子「青い珊瑚礁」

…などと好き勝手に脳内で意見を述べつつ、ちょっぴりディレクターモードで迎えた2026年の幕開けであった。

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