ドイツ出身の新鋭ヒットメーカー!黒人女性の魂を歌うBibi Bourelly/ビビ・ブレリーの魅力に迫る
次世代の海外アーティストをフィーチャーする連載。今回は、ドイツ・ベルリン出身のシンガーソングライター、Bibi Bourelly(ビビ・ブレリー)の略歴を紹介するとともに、その魅力に迫ります。
1994年生まれ、ドイツ・ベルリン出身のビビ・ブレリー。22歳にしてこの色気と洗練された佇まい、オーラがすごいですね。
モロッコ人とハイチ人の血を引くビビ・ブレリーは、有名なギタリストである父親の影響でわずか4歳から作曲を開始し、プロのコンサートに参加しはじめます。6歳で母親を亡くすという不幸を乗り越えながら音楽を続け、父親のツアーにわずか11歳で同行するなど、早くにその才能を開花させます。その後、アメリカのメリーランドにある高校に転校し音楽活動の拠点をアメリカに移します。
メリーランドで過ごす中で、音楽プロデューサーであるPaperboy Fabeに認められ、カニエ・ウェストとのセッションを行う機会を得ます。そこで、リアーナの「Higher」や「Bitch Better Have My Money」などの曲を作曲し、彼女のアルバム「Anti」に収録されることになります。10代にしてリアーナのアルバム曲を手がけるとは…すごすぎです。
それをきっかけにプロのソングライターとしての活動を本格的に開始したビビ・ブレリー。セレーナ・ゴメスやアッシャー、ニック・ブルーワーなどの人気歌手の曲を制作し、若くしてトラックメーカーとしての地位を築いていきます。
彼女自身もシンガーソングライターとしての活動に意欲的で、2015年4月にファーストシングル「Riot」をリリースします。優れたトラックメーカーでありながら、裏方ではなく、一人のミュージシャンとして認められたいという思いが強いと語っているビビ・ブレリー。後述しますが、その想いに納得するほど、彼女の作る曲はとてつもない個性があり、思わずドキっとしてしまう音と詩です。
2015年以降、精力的にEPとシングルをリリースし、2016年にはNBCでテレビ初出演、リアーナらとツアーを回るなど、いちシンガーソングライターとしても注目される存在になっています。
代表曲「Ego」「Sally」や「Ballin」の和訳とともに見るビビ・ブレリーの世界観
プロの音楽家である父親の英才教育と恵まれた環境に保証されたビビ・ブレリーの優れた音楽性。彼女の曲を聞けば、その個性を理解するに容易いでしょう。
こちらはビビ・ブレリーのYouTubeチャンネルで最も再生回数の多い曲「Ballin」。EPの音色とお洒落なドラムスが爽やかな曲ですが、明るいとも暗いともとれない曲調に、これでもかと尖った歌詞が乗っている刺激的な一曲です。
「Ballin」とはスラングで「金持ってるぜ」みたいな意味ですが、歌詞では主人公がいかに貧乏で粗末な生活を送り、真の金持ちを見上げながら生きているかを、徒然に、皮肉たっぷりに、自虐満載で語っています。主人公が黒人女性とすると、社会の差別を歌っているようにすら聞き取れます。
そんな貧乏をしていながらも、「私はBallin(金持ち)なんだ」と力強く何度も言い聞かせているこの曲。ミュージックビデオも実に巧みに詩の世界観を表現しており、乞食まがいの生活をしているビビ・ブレリーの演技はコミカルながらも悲壮感たっぷりです。
移民大国ドイツ出身の黒人女性というアイデンティティを持つビビ・ブレリーですが、その境遇を歌に紡いでいると感じてしまう作品が多いと私は感じてしまいます。
同じく人気曲である「Sally」からも彼女の強いメッセージを聞き取ることができます。
フェミニンで場違いなドレスを着て、男たちからモテるものの女から嫌われている女性「Sally」を歌ったこの曲。普通ならSallyをディスる歌詞になろうかと思えば、そこはビビ・ブレリー、彼女のような「個性的な女」を全面的に称える応援歌になっています。
「F**k all the haters=(サリーを)嫌うやつは全員くそくらわせろ」など、自身を認めないものたちを過激なまでに攻撃している同曲。このようなビビ・ブレリーの世界観は、彼女自身の人生や考えを直接投影したと思われる曲「Ego」にも見て取れます。ビビ・ブレリー自身、その有り余る才能ゆえ音楽のプロとして早熟し、周囲の普通の人間とは違う人生を歩んできて、相当な苦労があったのでしょう。いまや誰もが認める成功者となったビビ・ブレリーのメッセージには確かな説得力がありますし、世の多くの人々を元気づけています。
「黒人」「女性」の差別に対するメッセージがありながらも、その攻撃対象は他の黒人や女性に対しても向けられています。被差別者の敵は被差別自身ということをビビ・ブレリーの作品から私は考えさせられました。