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Dilemma

Column Feature Tweet Yoko Shimizu

ジェーン・バーキンと東京フィルハーモニー交響楽団の洗練された素敵なステージを堪能。

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

フリーランス・ラジオディレクター。TOKYO FMの早朝の音楽番組「SYMPHONIA」、衛星デジタル音楽放送ミュージック・バードでクラシック音楽の番組を多数担当。「ニューディスク・ナビ」「24bitで聴くクラシック」など。趣味は料理と芸術鑑賞。最近はまっているのは筋トレ。(週1回更新予定)

先日ジェーン・バーキンと東京フィルハーモニー交響楽団のコンサートに出かけた。ジェーン・バーキンはイギリス出身だが、フランスを代表する女優、歌手で1970年代にパートナーのセルジュ・ゲンズブールとのコンビで一世を風靡し、時代のアイコンとなったまさにカリスマ。会場には大御所の映画監督の姿も見えた。今回はそのゲンズブールの曲を中島ノブユキがオーケストラ用に編曲したシンフォニック・ヴァージョン。中島自身がピアニストとしても共演した。バーキンの歌は一言で上手い、と表現できる類のものではないかもしれないが、その佇まいとささやくようなフランス語の歌い口とトークは全てが完璧。また東京フィルはシンフォニー・オーケストラでありながら、オペラやバレエなど劇場オーケストラとしても場数を踏んでいるだけあって、こうしたポップス的アレンジの伴奏も難なくこなす。洗練された素敵なステージを堪能したわけだが、もうひとつ私が印象深かったのは、会場にいる観客がとてもお洒落だったことだ。ファッション・アイコンとしても名高いジェーン・バーキンのコンサートというだけあって、ボーダーシャツを粋に着こなしたり、ベレー帽をさりげなく被っていたり、白いシャツを優雅に纏った人達などを多く見かけた。

普段のクラシックのコンサートではなかなかこうはいかない。特にブルックナーやワーグナーのプログラムではほとんどが年配の男性。オーケストラやオペラハウスの定期会員なども60代以上の年齢層が多いという。どの業界も高齢化社会の影響は深刻だがクラシック音楽も若い人への人気回復が課題の一つだ。

私が個人的に思うのは、女性やお洒落な若い人というのは、さほど詳しくなくてもクラシック音楽への興味を持ちあわせていることが多いということだ。こうした人たちにクラシックのコンサートやディスクを日常的に聴いてもらうにはどのようなアプローチがあるだろうか?

オペラの世界ではそんな試みが積極的に行われている。プロジェクション・マッピングを取り入れた演出はその一つ。ファンタジックな内容のプログラムには特にぴったりだ。2015年に来日した英国ロイヤル・オペラではモーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」、日本では宮本亜門が演出した東京二期会「魔笛」なども記憶に新しい。大掛かりな舞台転換を無理なくできるのは強みだし、映像的なインパクトも充分だ。

icon-youtube-play 英国ロイヤル・オペラ2015年日本公演「ドン・ジョヴァンニ」PV

二期会では来シーズン、ウェーバーの「魔弾の射手」を上演するが、元宝塚歌劇団宙組トップスターの大和悠河を起用、こちらも話題となっている。こうした別のジャンルの人材を抜擢するのは、今までとは違う客層を取り入れるのに効果があるのは間違いない。

10月に公開になるオペラ映画「椿姫」では、あの映画監督のソフィア・コッポラが初演出。衣装はファッション界の重鎮ヴァレンティノ・ガラヴァーニである。これは2016年イタリアのローマ歌劇場で上演された舞台のライヴ映像だ。現地での全15回の公演チケットはすべて売り切れ。「VOGUE」などファッション雑誌もこぞってとりあげ、世界のセレブリティやファッショニスタたちが訪れSNSで絶賛したことでも話題となった。私も試写会で鑑賞したが、華麗な衣装と陰影を強調した舞台はとても美しく、また「椿姫」という演目はストーリーのわかりやすさもさることながら、ヴェルディの音楽には無駄なフレーズが一つもなく、全てが名旋律であるということも、初めてオペラを観る人にはうってつけなのである。ヒロインのフランチェスカ・ドットの歌唱の上手さも光っていた。まだオペラ未体験という方も映画なら手軽だし、「椿姫」は特におすすめだ。

もっと手軽にお洒落なクラシック音楽を楽しみたい、という方に洒落たコンセプトのディスクを一枚ご紹介しよう。ヴァイオリニスト、ダニエル・ホープは世界の名門オーケストラ、一流アーティストとの共演や伝統ある音楽祭にも出演する一方で、映画音楽をはじめコンセプチュアルなアルバムも次々と発表している。「フォー・シーズンズ」と題されたアルバムは、あの名曲ヴィヴァルディの「四季」の他、一年の1~12月の各月ごとに様々な作品が収録されている。8月はチリー・ゴンザレスの「8月の疑念」、9月はクルト・ワイルの「セプテンバー・ソング」、11月はヨハン・セバスティアン・バッハのカンタータ第115番からアリア「かかる時にもまた祈りを求めよ」など、時代を超えたアーティストの作品がそれぞれの季節を感じさせてくれる。またブックレットにはイメージされたイラストも添えられ、四季の風物詩を大切にする私達日本人にこそこんなアルバムはぴったりなのではないだろうか?

icon-youtube-play Vivaldi 2.0 – Daniel Hope joue les Quatre Saisons

初めはファッション感覚でクラシック音楽を楽しむ、というのもありだと思う。そこからクラシック音楽の深い魅力と素晴らしさを感じて頂けたら是非、コンサートやオペラを生で体験してほしい。そこにはきっと更なる感動が待ち受けている。

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