
RADIO DIRECTOR 清水葉子
音大卒業後、大手楽器店に就職。その後制作会社を経て、フリーのラジオディレクターとして主にクラシック音楽系の番組企画制作に携わるほか、番組連動コラムや大学でゲスト講師をつとめるなど多方面に活躍。2022年株式会社ラトル(ホームページ)を立ち上げ、様々なプロジェクトを始動中。
東京・春・音楽祭が3月14日に華やかに開幕した。この〈ハルサイ〉のポッドキャスト番組「上野文化塾」をJFNのプラットフォームAuDeeで配信している。昨年とても好評だったので今年も引き続きSeason2がめでたくスタートした。10回シリーズが現在鋭意制作進行中である。
初回は3月5日に配信された「上野とウィーン」。昨年から制作に関わっている私だが、上野とウィーンが姉妹都市であることを不覚にも初めて知った。
パーソナリティーを務める矢田部吉彦さんの本業は映画プロデューサーで、世界各地の映画祭を飛び回る忙しい合間を縫って収録に臨んでいただいている。その矢田部さん、なんと幼い頃はウィーンに住んでいたという。それもそのはず、彼のお父上はオーストリアやベルギー、フランス大使も務めた外交官、矢田部厚彦氏である。現地のウィーン国立歌劇場に家族でカラヤン指揮の「ドン・ジョヴァンニ」を観に行った、というエピソードも持っている。それにも関わらず「クラシック音楽にはいささか門外漢」というキャッチフレーズで気さくなトークを繰り広げる矢田部さんのキャラクターは番組後半の「音楽小話」でも本領発揮。
モーツァルト:ドン・ジョヴァンニbyヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
このコーナーでは作曲家で指揮者の根本卓也さんが、音楽講師として出題したウィーンのトリビアクイズを展開する。
「ヨハン・シュトラウスとリヒャルト・シュトラウスは親戚か?」
「ウィーン古典派の作曲家ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの中でウィーン出身者はいるか?」
「新宿のビア・カフェ『ベルク』の名前の由来は?」
…など、ヴァラエティに富んだ秀逸なクイズに少々苦戦していた矢田部さん。音楽ファンにも是非挑戦してもらいたい。
ちなみに私のウィーンの思い出といえば、国立歌劇場でのオペラ鑑賞に気合いが入り過ぎて、シャネル風ツイードスーツで、果敢にも真冬にミニスカートにハイヒールで出掛けたことだろうか。それでも若さとハイテンションのせいで風邪ひとつひかなかった。近年ではコロナ禍に老舗ホテル、ザッハーの有名なチョコレートケーキ「ザッハトルテ」がお買い上げ金額に応じて送料無料というキャンペーンをやっていたのが話題となった。私もここぞとばかりにお取り寄せ。あの時ウィーンで食べたのと変わらない、濃厚なチョコレートとアプリコットジャムの酸味のハーモニーに舌鼓を打った。特に日本からの注文が殺到したそうで、最近では日本語サイトも用意されているようで更に利用しやすくなっている。
第2回のテーマは「上野と動物」。上野といえば真っ先に思い出すのが動物園。都内近郊在住者であれば、子どもの頃、上野動物園に一度は足を運んでいるに違いない。かくいう私もパンダ来園のニュースに胸を躍らせた子どもの一人だった。
上野動物園歴代のパンダ
ゲストの福田園長には戦後の猛獣処分という悲しい歴史から生まれた「Zoo is the Peace」という初代園長の古賀忠道さんの言葉や、現代における動物の高齢化や異常気象による野生動物たちの受難など、その古い歴史や自然について考えさせられるお話も伺えた。また同じ生物としての人間の感覚の退化や、不老長寿のヒントになりそうなハダカデバネズミについてなども話題に。また東京・春・音楽祭の番組ということで、「音楽に敏感な動物はいるか?」との問いにも、イルカやゾウなど、動物には人間には聴き取れない周波数の音を聴いているので、ひょっとしたら音楽で異種間のコミュニケーションが成立する可能性があるかもしれない、とウィットに富んだお答えをされている。
上野動物園は3月20日が開園記念日。この日は入場料が無料となり、春分の日の祝日でもあるので、大変な人出となりそうだ。また、31日も通常休園日の月曜日が開園となるので、桜の開花も間近な季節、是非動物園と音楽祭を一緒に楽しんでほしい。
そして音楽小話ではフランスの作曲家、サン・サーンスの「動物の謝肉祭」を取り上げる。小中学校の音楽鑑賞の授業でも使われるメジャーな作品ではあるが、この組曲の中にどんな動物が登場しているのか? 「白鳥」が飛び抜けて有名な曲だが、他は意外と思い出せなかったりする。ここでも矢田部さんの珍回答続出で編集しながら思わず笑ってしまった。とりあえず矢田部さんが動物の中でサイとカバが大好きなことだけは伝わってきた(笑)。
サン・サーンス:動物の謝肉祭
今後は「上野と医学」「上野と珈琲」「上野とアメ横」などのテーマが続く。ゲストとともに様々な切り口で上野を深掘りしていくのでお楽しみに! このテーマから音楽に絡めていく、根本さんの「音楽小話」も毎回聴きどころである。そして矢田部さんの本業である「上野と映画」のテーマは2本立てでお送りする予定。昨年配信されたSeason1は東京・春・音楽祭のYouTubeチャンネルでも期間中公開しているので、こちらも合わせてどうぞ。
上野文化塾Season1より「上野と音楽」
東京・春・音楽祭が終わってからも、しばらく音楽の余韻に浸っていただける、類稀な面々でお送りする上野文化塾Seasnon2に乞うご期待。
清水葉子の最近のコラム

災害と音楽
3月は日本において2つの大きな災害が起こった月として記憶されている。ひとつは30年前の地下鉄サリン事件。もうひとつは未曾有の自然災害、東日本大震災である。そのどちらにも音楽と関わる場面があった。 通勤時間帯の地下鉄で猛毒…

上野文化塾Season2〜配信開始!
東京・春・音楽祭が3月14日に華やかに開幕した。この〈ハルサイ〉のポッドキャスト番組「上野文化塾」をJFNのプラットフォームAuDeeで配信している。昨年とても好評だったので今年も引き続きSeason2がめでたくスタート…

読響定期〜演奏会形式オペラ『ヴォツェック』
三寒四温とはよくいったもので、3月の天気は変わりやすい。立春も過ぎたところで雪が散らついたり、妙に昼間は暖かくなったりする。ウォーキングを毎日欠かさずやっていられたのはこれまで乾燥した晴れの日が多かったからだと気付いたの…

クラシックを超えて〜映画『名もなき者』
一応このコラムはクラシック音楽について書くことになっているのだが、今回は敢えてボブ・ディランについて書きたい。1941年に生まれたアメリカの偉大なるシンガーソングライター。強いメッセージ性のあるその歌詞と、今でもパフォー…

英国ロイヤルバレエinシネマ〜『不思議の国のアリス』
METライブビューイングと並び、日本にいながらにして映画館のスクリーンで本場のエンターテイメントが鑑賞できる英国ロイヤル・バレエ&オペラinシネマ。バレエとオペラの両方がラインナップされているので、私も毎シーズ…