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Column Feature Tweet Yoko Shimizu

ハイレゾで聴くべき音楽

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

フリーランス・ラジオディレクター。TOKYO FMの早朝の音楽番組「SYMPHONIA」、衛星デジタル音楽放送ミュージック・バードでクラシック音楽の番組を多数担当。「ニューディスク・ナビ」「24bitで聴くクラシック」など。趣味は料理と芸術鑑賞。最近はまっているのは筋トレ。(週1回更新予定)

最近の音楽シーンはもっぱらファイル配信が中心になりつつあり、音楽を無料で楽しむ方法もたくさんある。若い人はYou tubeで音楽を聴く人も多いらしいから、CDはもはや旧式の形態となってきた。まだクラシック音楽についてはそのCDの発売が多いジャンルかもしれないが、マーケットそのものが非常に縮小しているので、昔のように大手メジャーレーベルが毎月スター演奏家の新譜を発売する、ということもかなり少なくなった。世界の主要オーケストラが次々と自主レーベルを立ち上げたり、ベルリン・フィルのようにインターネットでライヴ音源を配信するという形もあったり、日本では音質重視でSACDの発売も一部のマニアに人気を博したり、音楽の楽しみ方はかなり多様化していると言っていいだろう。

その一つがハイレゾによる音楽配信である。ハイレゾとはハイ・レゾリューションの略で「高精細」「高解像度」といった意味だ。通常CDの音の情報量はサンプリング周波数44.1kHz量子化ビット数16bitという数値だが、ハイレゾはそれ以上の情報量を持つ音質ということになる。192kHz/24bitの場合はCDの約6.5倍もの音質になる。これを聴くにはハイレゾの配信サイトで音源をダウンロードし、それに対応した機器で再生する必要がある。私も仕事でこのハイレゾ音源を使用する番組を制作しているので聴く機会が増えたのだが、演奏家の発する音の質もさることながら、ホールの空気感やアンサンブルの微細な絡みもクリアに聴こえるのはちょっと驚いた。通常のCDと聴き比べるとより一層その音質の違いがわかる。

しかし単に解像度を上げるだけで演奏の素晴らしさがよりクローズアップされるか、というとそういうことでもない。それは原音の録音がどのようにされているか、ということも重要である。私が担当する番組の出演者でオーディオ評論家の村井裕弥さんが言っていたのは、「素材の良さがあって、なおかつその素材に合った調理法、更に盛り付けや器の色や形が料理の見栄えを良くする、それが総合的に美味しい料理を味わう事のように、音楽も演奏という素材、録音という調理法が重要」とのこと。かつてはアルバムのジャケットなども重要であったが、そこに音質やオーディオ機器というものが音楽の魅せ方を左右する時代なのだ。

では最近ハイレゾ音源で配信されたもので気になったものを挙げてみよう。まずはギリシャ出身の鬼才テオドール・クルレンツィスが指揮したムジカ・エテルナのチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」である。もともとこのクルレンツィス、ピリオドオーケストラであるムジカ・エテルナを率いてバロックやモーツァルト、といった時代の作品は当然録音していた。その後ヴァイオリニストのパトリシア・コパチンスカヤとチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲、またストラヴィンスキーの「春の祭典」など後期ロマン派や近代の作品も録音して評価を得ていたが、この「悲愴」では更に彼の凝り性が本領発揮したらしく今回発売がかなり延期、昨年末にギリギリ発売となり、めでたくその年のレコードアカデミー賞大賞を受賞した。CDでも充分に堪能できる緊密なアンサンブル。ハイレゾで聴くと各楽器の扱いもより精密に、まるで顕微鏡で拡大したかのように覗くことができる。これまでカラヤンの演奏で聴いてきたような流麗でロマンティックな表情のチャイコフスキーとは違う。細胞の一つ一つをむき出しにするような演奏に好き嫌いはあれども引き込まれてしまうことは必至だ。私がミュージックバードで担当するハイレゾ番組「極上新譜」ではチャイコフスキーの交響曲をカラヤンとクルレンツィスの演奏で聴き比べることもできるプログラムを今月末放送する。この両者のアプローチの違いを味わってみるのも面白いと思う。

icon-youtube-play クルレンツィス指揮ムジカ・エテルナ

icon-youtube-play カラヤン指揮ベルリン・フィル

もう一つは今年没後100年のドビュッシーのピアノ曲。チョ・ソンジンによる演奏だ。思うにこのドビュッシーのピアノ曲はハイレゾのような高音質で聴く価値が最もある音楽ではないだろうか。もちろんピアノの場合、彼の演奏のように明晰なタッチと透明感のある響きを持ち合わせていることが重要だが。始めは「映像」第1、2集から。煌びやかになり過ぎることもなく、ややクールな表現の中にドビュッシーならではの色彩感がある。他に有名な『月の光』を含む「ベルガマスク組曲」や「子供の領分」などドビュッシーの代表曲が収められたアルバムはやはり「極上新譜」の番組でも取り上げたが秀逸だった。

icon-youtube-play チョ・ソンジン(P)

他にも今年生誕100年のバーンスタイン充実期のウィーン・フィルとのベートーヴェン交響曲全集や上野耕平のサックスでのバッハ無伴奏作品など、優れた音源が多数ハイレゾ配信されている。

icon-youtube-play バーンスタイン指揮ウィーン・フィル

icon-youtube-play 上野耕平(Sax)

ハイレゾやSACDといった高音質の音源もやはり質の良い演奏と録音があってこそ。音楽の聴き方が多様化した時代にこそ、真の音楽の価値が求められるのではないだろうか。

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