(情報提供: BEATINK)
昨年のソニックマニアに続く3Dライヴである。新作『FLAMAGRA』を引っさげての単独公演。早くからソールドアウトとなった会場の新木場スタジオコーストは、開演15分前になってもまだ長蛇の列が会場を取り囲んでいた。 1週間前に発表になったオープニングアクトのルイス・コール。昨年暮れに全公演ソールドアウトの日本ツアーを行ったばかりだ。たった1人で歌、キーボードやシンセベース、ドラムスを目まぐるしくプレイ。大きなサングラスの奥の表情までは読み取れなかったが、茶目っ気たっぷりのキャラクターとユーモラスな仕草に客席は笑いが絶えない。それでいてどの楽器もヴォーカルもおそろしく達者なプレイ。ルーパーなどを使ってワンマン・ライヴをやるアーティストは珍しくもないが、ルイスは頑張ってる感が微塵もなく、口笛でも吹きながら気楽にやっている感じが非常に良い。シャープで切れ味の良い才気煥発なサウンドとコード感豊かでメロディアスな楽曲のバランスも素晴らしいのに、ドラマティックに盛り上げるつもりなどさらさらなく、素っ気ないほど簡単に終わる潔さもまた、良い。
適度にフロアが温まったところで、場内が暗いまま転換があり、やがてスクリーンに今年亡くなったRas Gの追悼映像が流れ、続いて3Dメガネ着用の字幕が出て、ついにフライローの登場だ。
デヴィット・リンチ「Fire Is Coming」で始まったライヴは、昨年のソニックマニアでも感じたことだが、サイケデリックな曼荼羅3D映像の強烈すぎるモンタージュと、奇想天外なイマジネーションを喚起するドープで変態なエレクトロニック・ビーツが弁証法的に止揚していて、あまりにも刺激的すぎた。ソニックマニア時よりも際だっていた3D効果は、立体映像の面白さというよりも、観客が異次元世界に没入するための導入部のように思えた。まるでフライローの脳内で際限なく増殖する奇怪な妄想が、頭に突き刺した電極プラグを通じて直接私の脳内に流れ込んでくるような感覚さえ味わえたのである。ローのアタックが強烈な会場音響も、目まぐるしく変化する照明も申し分なし。
とりとめもなく繰り広げられるドラッギーな映像は、あらかじめ決められた段取りはなく、すべてフライローの音楽にあわせての即興だという。フライローが事前に何をやるか映像チーム(Timeboy & Strangeloop)は知らず、すべてが出たとこ勝負。つまり同じショウは2度とありえない。2017年フジロックのエイフェックス・ツイン/ウィアードコアのスカムでジャンクな映像コラージュとはまた違う意味で、最高に刺激的だった。
ショウの前半はミュージック・コンクレート的なアブストラクト音響中心に進み、徐々にコード感のあるジャズ〜フュージョン的な曲が増えてきたところで、飛び入りゲストのサンダーキャットが登場。事前に全くアナウンスがなかっただけに、フロアは俄然沸騰。両者のコラボレーションは、前半とは打ってかわってダンサブルでファンキーなグルーヴ中心に30分以上続いたが、ゴジラ対キングギドラ的な火花散るセッションというよりは、リラックスしたブラザー同士のエールの交歓に見えたのが面白かった。サンダーキャットの6弦ベースから矢継ぎ早に繰り出される超速フレーズの連続攻撃とフライローのミュータントな電子ノイズのミクスチャーは、やはりマジカルである。サンダーキャットは単独ライヴよりも客演が一番、とは私の持論だ。
フライローはいつになくご機嫌で、客席に話しかけ、煽り、ダンスを求める。気難しい芸術家肌ではなく、もっと身近で気楽な友人のライヴを見ているような気になる。アンコールでは超満員のフロアがレイヴ状態になっていた。「また来年会いましょう」と手を振って去っていったが、今度はもう少し広い会場でお願いしたい。今なら幕張メッセぐらいできるんじゃないか?
Text by 小野島大