デビュー35周年アニバーサリー・ツアーで来日中のシンディ・ローパー(Cyndi Lauper)。その東京公演初日となる10月10日の渋谷・オーチャードホール公演のライブレポートおよび、セットリストが公開された。
(情報提供: SONY MUSIC JAPAN INTERNATIONAL)
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『CYNDI LAUPER 35th ANNIVERSARY JAPAN TOUR』と銘打たれた来日公演が行われている。文字どおり鮮烈なデビューとなった『シーズ・ソー・アンユージュアル』(’83年/日本発売’84年)から35周年を記念したスペシャル・ツアー。10月8日(火)の仙台公演を皮切りにスタートした、東京追加公演を含む全国6都市8公演のツアーが、10日(水)に東京公演の初日を迎えた。
渋谷オーチャードホール。シンディ・ローパーのデビュー35周年を祝うスペシャルコンサートに詰めかけた2000人の観客が見守るなか、客電が落ち、ステージにおろされたシンディの瞳をデザインしたパープルな幕に今夜の主人公のシルエットが浮かびあがる。この瞬間、初来日公演を想い出した観客も多かったかもしれない。――’86年9月。ステージにおろされた白い幕に本邦初登場となるシルエットが浮かびあがる。全楽器のアタックと同時に白い幕がヒラリとおり、会場を揺るがす爆発的な大歓声――今夜は観客の大歓声と同時に幕が上にあがり、シンディが会場を見渡しニヤリ、「涙のオールナイト・ドライヴ」を歌い出す。シンディ・ローパーの4年ぶり、計17回目、単独ジャパン・ツアーとしては14回目となるライヴがスタートした。
「シー・バップ」、「オール・スルー・ザ・ナイト」と1stアルバム『シーズ・ソー・アンユージュアル』からお馴染みのヒット曲が続くが、不思議なことに懐メロ感が皆無に等しい。どうやらその理由は当時を彷彿とさせるシンディのビジュアルにあるようだ。デビュー時の30歳の頃に戻ったかのように見事にシェイプアップされた身体をド派手なジャケットが包み、明るいエメラルドグリーンの髪は左右剃り込んでいてまさにアンユージュアル! “あの頃”を真空パックさせたままに会場全体をタイプスリップさせたのだ。客席のあちらこちらから「かわいい!」「シンディ、カッコいい!」の声があがるのも頷ける。ステージを所狭しとかけまわり、常にリズムを刻む軽やかなフットワークも到底66歳とは思えない。やはり“彼女は普通じゃない”のだ。気が付けば3曲演奏した時点で客席はほぼ総立ちになっていた。
一新したバンドとのコラボレートも躍動感に満ちていた。「マネー・チェンジズ・エヴリシング」は過去最高のロックンロール・ヴァージョンといっても過言ではないストイックな演奏アプローチのなかで、シンディ・ローパーはシャウトし、首を振り、踊り続けた。観客も手を振りながら一緒に演奏に身を委ねていくが、あのピアニカ(フーター)の間奏に条件反射のように大きな拍手を贈る場面は変わることのない光景だった。プリンスのNPGに’97~‘99年在籍していたこともあるカット・ダイソンのギターワークも表情豊かで、これまで以上にシンディがギターの音に合わせ身体をくねらすシーンが多く、メジャー・デビュー前のロックバンド、ブルー・エンジェルを彷彿とさせた。
「次は有名になる前の曲です……あ、私は自分が有名だと思っていたけどね」と笑いを誘い紹介された曲は「アイム・ゴナ・ビー・ストロング」。オリジナルはジーン・ピットニーの’64年の世界的ヒット曲でブルー・エンジェル時代(’78~’82年)のオハコだったシンディにとっては想い出のナンバーだ。 “私は気にしないふりをして強くなるわ”と女性の意地をストレートに表現。貫禄という言葉では許されない圧倒的な歌声を披露。声の調子も絶好調のようで、この夜いちばん大きな拍手を受けたシンディの笑顔も満足げだ。
日本での人気曲「グーニーズはグッド・イナフ」はテンポを少し落としたことで観客が一緒に歌える参加型の楽しい時間となった。バックスクリーンには映画『グーニーズ』とコラボした懐かしいミュージックビデオが映し出され「嬉しい!」という声が客席から聞こえてくる。このツアーではバックスクリーンが効果的に使用されていて、演奏曲とリンクしたメッセージ性の高い映像も次々と映し出され、曲と正直に向かいあって来たシンディ・ローパーというアーティストの非凡で繊細なキャリアも同時に投影されていく。「坂本龍一と一緒に作った曲です」と紹介されダルシマ―を弾きながら演奏した「イベンチュアリー」では、現代の地球が抱える環境問題を映し出す。先日、国連で環境保護を訴えて大きなニュースになった女の子の映像も挿入されていたようだ。
最新曲「ホープ」も披露された。乾癬(慢性的な皮膚の疾患)についての理解を広め意識を高めようと行われている乾癬意識向上キャンペーンにあわせて作られた特別な曲だ。シンディ自身もかつてツアーの最中に乾癬を発症し当時はどんな時もハイネックや長袖の服を着て必死に隠していたほどだ。この日、客席に降りて通路でゆっくりと歩を進めながらファンの手が届く位置で熱唱した。「ほら、近くで私を見て」。彼女にはそんな想いがあったのかもしれない。筆者の目の前で歌うシンディ。オールスタンディングの拍手に包まれたシンディはマイクがはずれたところで「サンキュー」とつぶやいていた。
アンコールは、「チェンジ・オブ・ハート」から始まった。ミュージックビデオを再現するかのようにトラファルガー広場での大道芸人のような踊りを再現。バンドのアタックに合わせたシンディの決めポーズに会場がやんややんやの喝采をおくる。シンディに背中を押されステージ前で披露したカットのギターソロも特筆に値する。
「祖父母は移民だったの。私たちの国では移民に冷たいけど今暮らしている街は移民たちが作り上げたのよ」。セットリストには含まれていなかったトラッドソングをはさみ再びダルシマーを手に取り「タイム・アフター・タイム」の演奏が始まると大きなため息が客席から漏れ始める。静かな合唱が、大きな合唱となりシンディと客席がひとつになっていく。「ありがとう!シンディ」。声援に優しい微笑みで応えるシンディ。このまま時間が止まってくれたらいいのにと心から思えた時間だった。
「一緒に歌ってくれる?」。シンディが叫ぶと待っていましたといわんばかりに客席が両手を広げて歌い出す。大団円の時間がやって来た。ロック色の濃い息の合ったバンドと繰り出す「ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン」は、♪when the working day is gone ×♪oh, girls just have to funのコール&レスポールが会場を揺るがす。まるでシンディファン35周年総決起集会の模様。バックスクリーンには名前も分からない世界中の女性たちが次々と映し出されていた。
最後にシンディは、「ミュージカル『KINKY BOOTS』から少しだけお届けします」とアナウンスし「Not My Father’s Son」を歌い始めた。気が付けばシンディはステージに座り床を棒のようなもので叩きはじめる。「ミュージックビデオのコンセプトは私がアフリカン・ドラムを叩きながらストーリーテラーを演じ、ひとりの少女が子供時代から大人時代へと移っていくのよ」と語っていたシンディの言葉を想い出す。“真の姿を表に出すことを怖がらないで。本当のあなたをこそ愛しているんだから”。その歌詞の内容からのちにLGBTのアンセムとしても歩きだす稀代の名曲「トゥルー・カラーズ」の演奏が始まった。初来日公演アンコールでの合唱は、シンディと一緒に歌いたいというファンの純粋な気持ちが生んだ感動の一体だった。もうひとつシンディの言葉を想い出す。「日本武道館でバンドをつけずに〈トゥルー・カラーズ〉を歌ったときは、まさに魔法の瞬間だった。だけど、歌ったのは私ひとりじゃなかった。観客が一緒に歌ってくれたから。そして歌うのをやめて耳を澄ますと、日本のファンならではの素晴らしいアクセントでその歌が聞こえた。観客が〈トゥルー・カラーズ〉を私に歌い返してくるのを聴いたのはこれが初めてだった」。シンディと日本の見えない絆が生まれたのはこの瞬間は永遠だったのかもしれない。この夜もオーチャードホールの会場には“魔法”が響き渡っていた。 (文|安川達也 写真|土居政則)
◆ 10/10(木)東京公演のセットリストを、プレイリストで期間限定にて公開中
https://SonyMusicJapan.lnk.to/CyndiLauper35thJPTour
※「Eventually」は割愛しています。
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◆ 来日公演スケジュール
シンディ・ローパー デビュー35周年Anniversary Tour
【東京】 10月11日(金) Bunkamuraオーチャードホール
【名古屋】 10月15日(火) 名古屋市公会堂
【金沢】 10月18日(金) 本多の森ホール
【広島】 10月21日(月) 広島上野学園ホール
【大阪】 10月23日(水) グランキューブ大阪
【東京追加】 10月25日(金) Bunkamura オーチャードホール