(情報提供: BEATINK)
ON-Uレーベルを立ち上げた80年に『ニュー・エイジ・ステッパーズ』を世に出して音楽史に金字塔を築いたエイドリアン・シャーウッド。83年に盟友プリンス・ファー・Iが射殺されてからは失意でしばらくレゲエから離れ、ニュー・ウエイヴのリミックスなどを手がけていたが、87年にリー・ペリーとがっぷり組んだアルバム『Time Boom X De Devil Dead』を出して再びレゲエ/ダブと向きあうようになった。そして2019年、リー・ペリー名義だが、音楽面ではほぼエイドリアン・シャーウッドの作品と言える『Rainford』、そのダブ+アルファ盤『Heavy Rain』と相次いでリリースしたタイミングで、11月22日、渋谷WWW Xで『Time Boom X The Upsetter Dub Sessions』が開催された。
まずはDJでリクルマイが会場を暖めた。途中からコンシャスなラバダブ・セットになり、最後にボブ・マーリーの「War」をリクルマイが独自の日本語歌詞でカヴァーしてOn-Uからリリースされた曲をプレイした。
本編は、エイドリアン・シャーウッドが惚れ込んでいるというエキゾティコ・デ・ラゴから。ギターの長久保寛之によって作られたラテン/クンビアの要素なども入れたレゲエを奏でるバンドだ。この日のメンバーも名手揃いで、エイドリアン・シャーウッド本人が卓に陣取ってダブ・ミックスしていく。初めて見たが素晴らしい。
続いてステージ上に卓がセットされて、エイドリアン・シャーウッドがひとりで、オリジナルのマルチトラックやマスター音源を使ったダブ・ミックスを披露する。当然のことながら、既存の完成品の音源を使うDJより豊穣な世界観を描いていく。前半は87年から今現在まで本人が直接係わって制作した音源を解体、再構築していく展開が多く、ライヴならではのダブ・ミックスで爆音の空間を作っていった。後半は78年にジャマイカのブラック・アーク・スタジオが焼失する以前にリー・ペリーが制作した「War ina Babylon」をはじめとする傑作音源の数々を組み込んで、歴史を描いていった。エイドリアン・シャーウッドは現在61歳だが、初めてリー・ペリーに会ったのは72年、14歳のときだった。人生の長きにわたって大きな存在だったリー・ペリーとの日々を1時間に凝縮しているかのようだ。UKの黒人音楽のトレンドが変化していき、一方にグライムや南ロンドンのジャズなどがあるなか、一貫した姿勢でON-Uレーベルを運営してきたエイドリアン・シャーウッドによって紡ぎ出される音楽が魅力を放ち続けているのは、今もなお日々積み重なっていく新しい歴史の堆積が上乗せされているからだろう。背景に映し出されるCGもポップで楽しい。アリ・アップが亡くなり、スタイル・スコットが亡くなったが、現在83歳のリ・ペリーは健在だし、エイドリアン・シャーウッドもすこぶる元気だ。UKレゲエとパンクの接点で音楽を制作して、今現在もアップデートしている。物語は継続中なのだ。
最後は、オーディオ・アクティブとドライ&ヘビーのメンバーを中心にこの日のために作られたバンド、ROOTS OF BEAT。名手たちが70年代のリー・ペリーのクラシックを見事にカヴァーして、それをエイドリアン・シャーウッドがダブ・ミックスしていく。こういう行為にクリエイティヴィティがあるのかという疑問を抱く向きがあるかもしれないが、僕たちはどこから来たのか、70年代の日本は歌謡曲全盛だったが、それでも遠いジャマイカで製作されていた音楽に、より深く心をわしづかみにされたのはなぜだったのかという根源的な問いを探ることに、このチャンスが活用されている感じがして素晴らしかった。
ビガップ。リスペクト。
Text by 石田昌隆