(情報提供: UNIVERSAL MUSIC JAPAN)
近現代史上、人間が忘れてはならない教訓と精神的トラウマを観客に対峙させる強烈な映像作品として2008年に製作されたアリ・フォルマン監督の『戦場でワルツを』のオリジナル・サウンドトラックのデジタル配信がスタートした。
音楽を手掛けたのはポスト・クラシカルのアーティスト、プロデューサー、作曲家、そして映画音楽家として高い人気を誇るマックス・リヒター。そのオリジナル・サウンドトラックは、映像に負けず劣らず、挑発的でパワフル。それは世界中の人々の心を動かし、コンテンポラリー・シーンに一躍マックス・リヒターの名を轟かせた。
『戦場でワルツを』は、ローリング・ストーン誌に「幻覚的なまでに美しい」、ニューヨーク・タイムズ紙に「すべてにおいて素晴らしい映画」と絶賛され、ゴールデン・グローブ賞を受賞した長編アニメーション作品。1982年のレバノン内戦時、イスラエル国防軍兵士だったフォルマン監督が、サブラ・シャティーラの虐殺の”失われた記憶” を取り戻すまでをドキュメンタリーで描き出す。そして、アリ・フォルマン監督が映画音楽に白羽の矢を立てたのがマックス・リヒターだった。脚本の執筆中、「取り憑かれたように聴いていた」のがリヒターの2ndアルバム『ブルー・ノートブック』。即決で引き受けたリヒターは、アニメーターたちが仕事を始める前には音楽を完成させてしまうほどの熱の入れようだった。「そこでおのずと、最初から音楽の影響を受ける形で、映画は出来上がっていった。逆ではなかった」とフォルマン監督は言う。
「アリから送られてきた30秒ほどのアニメーションは、それまで目にしたどんな映像とも違うものだった」とリヒターは語る。「すぐに、これはやらなければならない!と感じた。この映画で描かれるのは、失われた記憶の再生だ。僕は“ではそこで何がみつかったのか” というアプローチをとった。『戦場でワルツを』の音楽を突き動かしているのはそれだ」。
シューベルトのピアノソナタ第17番の残響や断片が取り入れられた他、レバノンのファランジュ党民兵のシーンではショパンのピアノソナタ第2番の第3楽章「葬送行進曲」が取り入れられた。「原画の段階から、アリはシューベルトとショパンを挙げていた。彼の家族の生い立ちを反映してのことだ。喜んでそれをスコアに取り入れさせてもらったよ」。こうして出来上がったリヒターの折衷的かつオリジナルな曲風を、PBS『News Hour』は評した。「心にとり憑いて離れない、そのメロディアスなサウンドは、記憶の中の戦争とはこんな音がしていたかもしれないと思わせる…」。
2008年、カンヌ国際映画祭にてプレミア上映。観終わったあとも心から離れないリヒターの音楽が『戦場でワルツを』に果たした重要性を賞賛する声は高まる一方だった。「マックス・リヒターのスコアが生み出す不吉な戦争の空気は『戦場でワルツを』が伝える残酷で冷酷な疎外感をより一層のものにしている」と評したのはNYのヴィレッジ・ヴォイス誌だ。単なる映画のサントラというだけでなく、1枚のアルバムとして広く成功を認められたケースは珍しい。このスコアにより、リヒターは2008年ヨーロッパ・フィルム・アカデミー最優秀作曲賞を受賞。名誉ある数々の賞にノミネートされた。
また、『戦場でワルツを』オリジナル・サウンドトラックは、ドイツ・グラモフォンより2020年8月14日にCDでのリイッシュー、さらに世界初となるアナログ・リリースも決定している。
◆ デジタル配信情報
『戦場でワルツを』
オリジナル・サウンドトラック/マックス・リヒター