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Dilemma

Column Feature Tweet Yoko Shimizu

藤原歌劇団と市民参加による合唱の祭典オペラ・ガラ・コンサート

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

フリーランス・ラジオディレクター。TOKYO FMの早朝の音楽番組「SYMPHONIA」、衛星デジタル音楽放送ミュージック・バードでクラシック音楽の番組を多数担当。「ニューディスク・ナビ」「24bitで聴くクラシック」など。趣味は料理と芸術鑑賞。最近はまっているのは筋トレ。(週1回更新予定)

先日、『カルッツかわさき』という川崎市に新しくできた文化総合施設のホールに行ってきた。開館記念公演として行われた藤原歌劇団と市民合唱団による、オペラ・ガラ・コンサートを聴くためだ。9月から10月にかけてラジオ業界は番組改編が行われるためどうしても慌ただしくなるので、果たして無事に聴きに行けるのか直前までわからなかったのだが、最近はこうしてコラムを書いたりもしているので、やはり生の音楽にも触れておかなければ、という思いもあり、前日にバタバタと仕事を片付けて向かったわけである。日曜日の午後、まさに秋晴れといった空気の中、川崎駅から海の方へ歩いて15分ほどのカルッツかわさきへ。道を挟んで向かい側には旧川崎球場が見える。スポーツと文化総合センターということで、スポーツ教室や、大小の体育室、弓道場なども併設している。ガラ・コンサートのホール入口は2階。建物に沿った外階段を昇る。エレベーターももちろんあるが、階段の先にひっそりとあるので気付きにくいようだ。2階は屋根があるものの、半屋外のホワイエで入場を待つ人の列ができている。今日は過ごしやすい陽気だからいいけれど、真冬とか真夏にはここで待たされるのはちょっと、などと考えているうちにドアが開いた。

2013席。なかなか大規模なホールである。同じ川崎には音響の良さで評判の『ミューザ川崎シンフォニー・ホール』があるが1997席ということだから、更に少し大きめ、ということになる。内装は白木を基調にしたシンプルな作り。ただ多目的ホールということもありビュッフェがないため、ちょっと喉が渇いた、と思ったら自販機に並ばなくてはならないのは少々寂しい感じもした。

さて、肝心のコンサートである。1階席の前方真中というポジションもよかったのか、ステージが非常に近く感じられた。オペラ・ガラ・コンサートは歌とオーケストラの響きとどちらもバランスよく聴こえる、というのが重要だと思うが、楽器の細かい音のニュアンスも聴こえ、歌や合唱の響きもちゃんとある。プログラムはヴェルディの歌劇『椿姫』から「乾杯の歌」で始まり、同じ『椿姫』から「不思議だわ…花から花へ」「プロヴァンスの陸と海」、プッチーニの『蝶々夫人』から「ある晴れた日に」、『トゥーランドット』より「誰も寝てはならぬ」など、おなじみの名旋律が歌われ、合間に藤原歌劇団の団長でもあるバリトン歌手、折江忠道さんが絶妙なトークを展開する。トークが終わるとすぐ折江さん自身がステージで歌う、というとんでもない荒技をやってのけているのだが、観客には大受けで、終始和やかな雰囲気が漂っていたのがいかにもガラ・コンサートらしい。他には藤原歌劇団の看板歌手でテノールの村上敏明さんが存在感たっぷりに歌い、ソプラノには光岡暁恵さん、廣田美穂さん、メゾソプラノは向野由美子さんが舞台に華を添えた。また指揮は飯森範親さん。実は飯森さんには以前番組にゲスト出演して頂いたことがある。その時も日本センチュリー交響楽団首席指揮者に就任、というタイミングだったし、川崎市のフランチャイズ・オーケストラである東京交響楽団で正指揮者も務めているのでオーケストラ指揮者としての印象が強いが、こうして聴いてみるとオペラの指揮も実に見事だ。もともととても器用な人だから歌手や合唱との呼吸を合わせるのもうまい。オーケストラはやはり市内にある昭和音楽大学の卒業生を中心に結成されたテアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ。

icon-youtube-play ヴェルディ:歌劇《椿姫》より 「乾杯の歌」

icon-youtube-play プッチーニ 《蝶々夫人》 「ある晴れた日に」 マリア・カラス(1)

休憩を挟んでの第2部は合唱も加わって、より華やかなステージとなった。レオンカヴァッロの『道化師』から「鐘の合唱」、ビゼーの『カルメン』の「闘牛士の歌」から2幕のフィナーレなどはアリアと合唱の絡みを存分に聴かせるところだが、こうしたプログラムをスムーズに進行しているのが、やはり折江さんのトークだった。合間にオペラ本公演の宣伝も入れたりして、このガラ・コンサートでエッセンスを味わった人がオペラの公演にも足を運んでくれるように自然に促していた。喉への負担を考えると大丈夫なのかしら? と心配にもなったが、それを忘れさせてしまうほどの見事なトークと歌に脱帽。そして最後はヴェルディ『ナブッコ』の合唱曲「行け、我が想いよ、黄金の翼に乗って」。盛り上がったところでアンコールはJ・シュトラウスの喜歌劇『こうもり』からの「シャンパンの歌」を日本語で。

icon-youtube-play 【フル音源】歌劇「道化師」より/レオンカヴァッロ(福島弘和)/I Pagliacci/R. Leoncavallo YDAL-C01

icon-youtube-play ビゼー : カルメン組曲 第2番 闘牛士の歌

icon-youtube-play ヴェルディ《ナブッコ》行けわが想いよ黄金の翼に乗って/トスカニーニ

icon-youtube-play 喜歌劇『こうもり』より「シャンパンの歌」

乾杯で始まって乾杯で終わる、という開館記念らしく、おめでたい席にふさわしい締めくくり。最後まで楽しく、飽きさせない素敵なコンサートだった。地元の人たちも大勢聴きにきていた今回の公演。都心の一等地で行うガラ・コンサートにはない、打ち解けた温かい雰囲気ながら音楽も音響も素晴らしい。こういう上質な公演にもっと若い人たちが来てくれるといいなぁ、と思った。そして私も日頃仕事の忙しさにかまけて生のコンサートになかなか行けなくなっていることを反省しつつ、なんとも幸せな気持ちで家路に着いたのだった。

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