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Column Feature Tweet Yoko Shimizu

指揮者パーヴォ・ヤルヴィが語るバーンスタイン

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

フリーランス・ラジオディレクター。TOKYO FMの早朝の音楽番組「SYMPHONIA」、衛星デジタル音楽放送ミュージック・バードでクラシック音楽の番組を多数担当。「ニューディスク・ナビ」「24bitで聴くクラシック」など。趣味は料理と芸術鑑賞。最近はまっているのは筋トレ。(週1回更新予定)

今年はバーンスタイン生誕100年。いたるところでバーンスタインのコンサートやイベントが企画されている。

先日私が出かけたのもその一つ。それは「爆クラ!」という湯山玲子さんが主催するクラシック音楽をフィーチャーしたイベント。湯山さん自身はライターやプロデューサー、また近年はメディアのコメンテーターとして活躍している方なのでご存知の方も多いだろう。彼女の父は作曲家の湯山昭である。そんな環境のせいか湯山さんは幼い頃から家でクラシック音楽を聴いて育った。しかしあまりにも整った環境を与えられると脱線してみたくなるのが人間というもの。彼女も若い頃はクラブミュージックにはまったり、バンドを組んだりとクラシック以外のジャンルにのめり込んだという。音楽的に紆余曲折を経てたどり着いたのがこの「爆クラ!」。クラシック音楽の聴き方を新しい角度から模索しようという試みである。イベントではゲストを招き、テーマに沿った音楽を聴きながらトークを展開する、というどこかラジオ番組にも近い手法なので気になったゲストの時は行くようになった。クラシックに限らず、ジャズや多ジャンルのアーティスト、評論家や音楽ライター、プロデューサーなど多彩なゲストの顔ぶれも魅力だ。

そこに今回登場したのがあのパーヴォ・ヤルヴィである。エストニア出身で世界中のオーケストラでタクトを振る指揮者、現在はNHK交響楽団の首席指揮者を務めている。父も同じく名指揮者のネーメ・ヤルヴィ、弟もやはり指揮者として活躍するクリスティアン・ヤルヴィ、という音楽一家。そのパーヴォがバーンスタインを語る、という。こんな興味をそそるイベント行かないわけにはいかない。普段一緒に仕事をしている仲間たちと連れ立ってイベントに参加することにした。

レナード・バーンスタインは今更説明する必要もないだろう。アメリカが生んだ20世紀を代表する指揮者、教育者そして作曲家である。そのバーンスタインの代表作といえば「ウェスト・サイド・ストーリー」。この名作ミュージカルは「シンフォニック・ダンス」という組曲形式のオーケストラ作品としてもよく演奏される。今年平昌オリンピックでも話題となった、フィギュアスケートの音楽としてもよくとりあげられる。「サムホエア」「マンボ」などは特に有名だ。パーヴォは幼い頃は旧ソ連で過ごしたので、最初にこの作品に触れたのは映画ではなく、レコードだったという。このようにトークには冷戦時代の世相が垣間見える部分もあった。

icon-youtube-play バーンスタイン指揮「ウェストサイド・ストーリー」

この「ウェスト・サイド・ストーリー」は、アメリカという国で育ったバーンスタインのポピュラーな音楽性が端的に、そしてストーリーと素晴らしく上手く結晶した作品だ。そこにはジャズや黒人音楽の要素が多分に入っている。そのような音楽を譜面通りに演奏する、いわゆるクラシック的演奏法で弾くことのある種の限界もあるわけで、生まれながらにして持っているラテン民族のリズム感で演奏した「マンボ」のグルーヴ感にはかなわない、といった話はとても面白かった。またこの作品によってバーンスタインがクラシック音楽の世界に大衆性を持ち込んだ点や、そうした時代の中でバーンスタイン自身がいわゆる『ポピュラーな作曲家』という一面だけの評価に悩んでいたとか、ユダヤ人であるルーツを意識した交響曲などでは非常にアカデミックな現代音楽の語法を用いているなど、音楽を聴きながら語られることで納得する部分も大きかった。

icon-youtube-play ドゥダメル指揮「マンボ」

例えば交響曲第2番「不安の時代」。そこには「ウェスト・サイド」のような明るさと通俗性は影を潜めて、タイトルにある『不安』な気分が楽曲全体を包む。そしてオーケストラの中でピアノの硬質な音色が時代の孤独感や都会の寂寥感をも醸し出す。そこに描かれているのはイギリスの詩人W.H.オーデンの詩をもとにした第二次世界大戦の悲劇でもある。

icon-youtube-play バーンスタイン:交響曲第2番「不安の時代」

作曲家自身が生きた時代の歴史は、その作品と切り離すことはできない。バーンスタインと同じユダヤ人であったマーラーや、同時代のR.シュトラウス、少し後のシェーンベルクなどの時代性と音楽の話はさすがに知性派指揮者のパーヴォ、その音楽と同様に鮮やかな切り口だった。彼はこう語る。「マーラーの音楽における普遍性と先進性はシェーンベルクに受け継がれるものだ。時代の中で芸術は進んでいかなければならない。しかしR.シュトラウスはその時代に埋没している。彼の音楽は大変に美しいけれどそれはイラストレーションのようで空っぽの美学だ。」

icon-youtube-play マーラー:交響曲第9番

しかしそう語るパーヴォが指揮するR.シュトラウス「英雄の生涯」のなんと壮麗なこと!

icon-youtube-playR.シュトラウス:英雄の生涯

こんな刺激的な指揮者パーヴォ・ヤルヴィによる「ウェスト・サイド・ストーリー」が演奏会形式で上演される。いわゆる「シンフォニック・ダンス」ではない。そこには歌がある。バーンスタイン生誕100年のメモリアル・イヤーに果たしてどんな演奏を聴かせてくれるのだろうか?

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