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Dilemma

Column Feature Tweet Yoko Shimizu

コンサートホールの響き

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

フリーランス・ラジオディレクター。TOKYO FMの早朝の音楽番組「SYMPHONIA」、衛星デジタル音楽放送ミュージック・バードでクラシック音楽の番組を多数担当。「ニューディスク・ナビ」「24bitで聴くクラシック」など。趣味は料理と芸術鑑賞。最近はまっているのは筋トレ。(週1回更新予定)

ミューザ川崎シンフォニーホールといえば、その音響の良さで注目されるコンサートホールのひとつだ。客席は1997。螺旋状に配置された座席がステージを囲むようになっているのが特徴で、そのせいかひときわステージと客席が近く感じられ、音と一体となる感覚を味わえる。また「フェスタサマーミューザ」という夏の音楽イベントでは首都圏のオーケストラが競演し、クラシックだけでなく、ジャズやポップス、音楽大学やジュニアオーケストラの公演、公開リハーサルやコンサートのプレトークもあり、こうした独自企画も人気だ。数々のアイディアで音楽の新しい聴き方、楽しみ方を提供してくれているホールだが、先週たまたまこの「フェスタサマーミューザ」のコンサートを続けて聴く機会があった。

まずは8月3日金曜日の夜、神奈川フィルハーモニー管弦楽団の公演でオール・サン=サーンス・プログラムである。先日このコラムでストラディヴァリウスについて書いたこともあり、神尾真由子のヴァイオリン・ソロを聴くのが目的ではあったのだが、気付いた時にはかなりチケットが売り切れていて、取れたのは舞台後方の2LAエリアの席しかなかった。実際ソロ・ヴァイオリンの音色は聴こえてこない、という本末転倒なことになってしまったのだが、それだけにストラディヴァリウスには音の指向性がかなりある、ということもよくわかったので、ある意味勉強になったと思うことにする。プログラムのサン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番の第1楽章冒頭はG線を使って低音から入るのが特徴だが、神尾真由子のような力強い演奏スタイルのヴァイオリニストは音程が不安定になりがちで、やや立ち上がりに苦労していたようだったが、後半はさすがに巻き返して鮮やかな演奏だった。

icon-youtube-play サン=サーンス:ヴァイオリン協奏曲第3番

しかしこの席はオーケストラの一部になったような、それはまるで団員としてステージの上に乗っているかのような響きを体感することができるのが面白い。管楽器やティンパニの響きも間近で聴こえるのでかなりの迫力。プログラムの1曲目は「サムソンとデリラ」からのバッカナールだったので、始めからテンション上がりまくりである。指揮者の表情が見える、というのも新鮮。常任指揮者の川瀬賢太郎はまだ30台前半という若さだが、オケが彼を信頼してついていっているのがよく感じられてとてもいい雰囲気だ。

icon-youtube-play サン=サーンス:歌劇「サムソンとデリラ」からのバッカナール

後半の交響曲第3番「オルガン付き」もすぐ側でオルガンが鳴り響く。オケの向こう側から、もやーっと響いてくるいつもの遠いオルガンの音色とは大分違った。思えば私も音楽関係の仕事を始めてからはこうした席で聴くことはなかったので、有名な第2楽章後半の壮麗なオルガンパート以外の細かい部分もディテールがしっかり聴こえてきたのはなかなかに発見が多かった。ちなみにオルガニストは大木麻理さんという若い女性奏者で、彼女が着ていたシックな色のドレスの裾は後ろが少し長くなっていて、横から見ると椅子にドレスのレースが垂れ下がっていたのが何とも素敵だった。

icon-youtube-play サン=サーンス:交響曲第3番「オルガン付き」

さて、続いて8月5日日曜日に訪れたコンサートはマルク・ミンコフスキが指揮する東京都交響楽団のチャイコフスキーのバレエ「くるみ割り人形」である。ミンコフスキは自ら率いるレ・ミュジシャン・ドゥ・ルーヴル・グルノーブルというピリオド楽器のオーケストラとのコンビでも有名なフランスの指揮者。いかにもフランスらしい軽妙なテンポと音楽、茶目っ気たっぷりのパフォーマンスで愉しませてくれる音楽界注目の存在。しかもその演奏の質は半端なく緻密でハイレベルというのが見事だ。

今回は東京都交響楽団との共演ということで、もちろんこれはモダンオーケストラなわけだが、組曲形式ではなくバレエ全幕版演奏会形式というところにミンコフスキの意図が見え隠れする。それはストーリーから繰り広げられる音楽の流れ。その流れに乗って軽やかに疾走するテンポと自在に収縮するフレーズ、有名な「花のワルツ」もこれで実際バレエを踊ることは不可能だろう、と思われるくらいの早いテンポだったが、この曲の本来の舞踊性はむしろはっきり感じられたから不思議だ。レ・ミュジシャン・ドゥ・ルーヴル・グルノーブルとのシンクロ率にはやはり及ばない感じがしたものの、都響も既にミンコフスキとは4回目の共演とあって、彼の当意即妙なタクトにしっかりと反応していた。

icon-youtube-play チャイコフスキー:バレエ「くるみ割り人形」

さて今回は2CBの舞台から見てほぼ中央の席だったこともあり、音も実にバランス良く耳に響いてきた。「くるみ割り人形」は管楽器のソロパートも多いので、やはりバランスが大切なのは言うまでもない。また私の個人的な感想を付け加えるならば、ミンコフスキの指揮はどこか着ぐるみが指揮しているようで(失礼!)、後ろ姿がとてもユーモラスで可愛らしいのだった。

icon-youtube-play マルク・ミンコフスキ

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