RADIO DIRECTOR 清水葉子
音大卒業後、楽器店勤務を経てラジオ制作会社へ。その後フリーランス。TOKYO FMで9年間早朝のクラシック音楽番組「SYMPHONIA」を制作。衛星デジタル音楽放送ミュージックバードではディレクター兼プロデューサーとして番組の企画制作を担当。自他ともに認めるファッションフリーク(週1回更新予定)
どうしても聴きたいコンサートの予定を「どうにかなるだろう」とスケジュールに入れてしまうのは悪い癖である。私の仕事は月末から月初にかけてが繁忙期で、収録や編集でスタジオに入り浸りになる。そこへそうしたコンサートの予定などが重なってしまうとルーティンワークが滞ってしまい、土日も否応なく作業日に当てないと各種締め切りに間に合わない。8月末はなかなかハードになってしまったのだが、反省を含めて日記風に書き出してみた。
26日月曜日@名古屋。
火曜日と木曜日はレギュラー番組「ニューディスク・ナビ」の収録が半日を占める。その後編集作業が2、3時間かかるので、この日は他の仕事ができないといって過言ではない。明日はそれに加えて音楽之友社の紙面に出す番宣(番組宣伝)の原稿の締切日。担当している3番組分をまとめるのは帰りの新幹線の中でやろう。木曜日にはニューディスク・ナビの収録後、「ストラディヴァリウス・コンサート」のナレーション収録もある。こちらは東京エフエムでもお馴染みのパーソナリティ、小山ジャネット愛子さんに読んでいただくので、この原稿を書いて事前に彼女に送らなければならない。これはwi-fiがあるうちに送るべく午前中にホテルの部屋に込もって原稿を書く。午後3時の新幹線の時間まで、なんとか書き上げて名古屋高島屋の中にある「赤福茶屋」で念願の赤福氷を食べて一服。お土産を買い、東京に到着したその足でスタジオに寄り、音友の番宣分を送信。
ヴェロニカ・エーベルレ(Vn)インタビュー
27日火曜日。
午前10時からニューディスク・ナビの収録。途中休憩を取りつつ大体いつも午後2時近くまでかかる。軽く昼食を取り、編集作業。この日は7時から池袋の芸術劇場で日本フィルハーモニー交響楽団のコンサートがあった。メディアアーティスト落合陽一とのコラボレーション企画「交錯する音楽会」というもの。舞台上にはスクリーンがあり、楽曲のイメージに合わせた映像が現れる。邦人の作品では配られた鈴を観客も一緒になって鳴らすという、五感の全てを使って音楽を体験しようとする試み。デジタル時代の新しい感性を持つ落合陽一ならではの切り口は確かに面白い。しかし他の楽曲が演奏される間、渡された鈴が音を立てないようにするのは別の緊張を強いられた。
落合陽一×日本フィル「耳で聴かない音楽会」
28日水曜日。
午前中ニューディスク・ナビで使うCDをリッピング。PCを3台同時に使用して行っても3時間近くかかる。合間にSACDを録音。計4台の機器を同時進行である。自分のコピーが4体欲しい。昼食を取り、午後からは別番組の編集作業。これも納品期限を過ぎてしまっているのだが、「遅延」手続きを取ることでオンエア前日まで猶予が伸びるのである。この日の夜はサントリーホールでコンサートがあった。以前に取材もしていた「サントリーホール・サマーフェスティヴァル2019」の中の目玉であるジョージ・ベンジャミンのオペラ「リトゥン・オン・スキン」の演奏会形式上演である。新鮮な衝撃だった。いわゆる〈現代音楽〉なので、聴きやすい音楽ではない。しかも題材が中世と現代、男女の深い愛憎と宗教観なども絡み合い、哲学的な主題も含む。相当の教養がないと全てを読み解けないテキストの歌詞。しかしそれを差し置いても傑作であることは私にも十分伝わってきた。演奏会形式とは言え、こちらも舞台上のスクリーンに作り込まれた映像がストーリーを雄弁に物語る。それとともにダンスもあるので油断をするとその圧倒的な情報量の視覚的要素に目を奪われて音楽に集中できないような気もしてしまったのは、前日の落合陽一でも感じたことではある。目と耳を同時に研ぎ澄ますのはこうした新作では殊に修行が必要だ。
ベンジャミン:オペラ「リトゥン・オン・スキン」
29日木曜日。
この日もニューディスク・ナビの収録。月〜金曜日のベルト6時間番組のボリュームは圧倒的である。そして終わって午後2時からは「ストラディヴァリウス・コンサートの」ナレーション収録。今回は2本分で前回より数が少なかったので多少楽に感じる。こちらも無事終了。また編集の続きをし、帰宅。
30日金曜日。
普段は「山野楽器クラシックベスト10」の収録があるのだが、この日は休み。そのことを前日まで忘れて焦っていたのだが、ふとスケジュール表を見て思い出し、一気に余裕が生まれる。まずは水曜日と同様に午前中にCDのリッピングとSACDの録音。そして衛星チューナー用の楽曲の文字情報入力も遅れに遅れていたので取り掛かる。これも曲目が細かく思ったより手こずる。しかも山野楽器に今週中に返却しなければならないCDがあった。編集作業を大急ぎで行い、7時からやはりコンサートがあったので、その前に銀座に寄りCDを返却。池袋の芸術劇場大ホールに開演3分前に駆け込む。
狭間美帆が企画構成したというコンサートは「シンフォニック・ジャズ」がテーマ。ガーシュウィンやバーンスタインなどメジャーな作品の他に彼女の作曲したピアノ協奏曲も世界初演された。今週はハードなスケジュールと感覚や神経を尖らせて聴くコンサートが多かったので、ジャズのいい意味で肩の力が抜けたリズムと音楽はどこか私をホッとさせてくれた。少し肩凝りも解消されたような気分になって軽やかに池袋を後にし、慌ただしい一週間が終わった。
狭間美帆
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