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Column Feature Tweet Yoko Shimizu

NHK交響楽団定期公演

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、大手楽器店に就職。クラシック音楽ソフトのバイヤー時代にラジオにも出演。その後に制作会社を経て、現在はフリーのラジオディレクターとして番組の企画制作に携わる。番組連動コラムや大学でゲスト講師をつとめるなど幅広く活動中。

近頃NHK交響楽団の定期公演のプログラムが面白い。おっと思うような珍しい曲がラインナップされているし、来日オーケストラの公演よりはチケットも安価で購入しやすい。今月は収録の合間を縫って二度足を運んだ。

一度目はクリストフ・エッシェンバッハの指揮でプログラムA。マーラーの交響曲第2番「復活」。この「復活」は5楽章構成で声楽ソリストや合唱、オルガンも入る大編成の交響曲で、生で聴く機会もそんなには多くない。マーラーは私の大好きな作曲家の一人でもあるし、久しぶりに大編成の音の渦の中に埋もれたい気分になったのである。

icon-youtube-play マーラー:交響曲第2番「復活」より

エッシェンバッハの指揮は録音では何度か聴いていた。しかしあまりはっきりとした印象がなく、私にとってはどちらかというとピアニスト時代の印象の方が強い。人気ソプラノ、ハンナ・エリーザベト・ミュラーとヨーロッパでも大活躍のメゾ、藤村実穂子のソロというのも惹かれたので、ふと思い立ってチケットを買って出かけたのである。

1月半ばの東京は寒くて乾燥していてインフルエンザが大流行。私の実家の両親もインフルエンザに罹患してしまい、SOSを受けた私はその数日前から都内の実家に泊まり込んでいた。幸い快復へ向かっていたので無事コンサートに行くこともできたのだが、そんな状況で会場のNHKホールのような大勢の人が集まる密閉空間に出向くのはなかなかリスキーなことである。もちろんマスク着用。その直前にソプラノ歌手も変更となっていた。ミュラーの出演を楽しみにしていたので残念。

急にチケットを押さえたのでかなり左寄りの席で、合唱付きの交響曲を聴くにしてはアンバランスだったのかもしれないが、冒頭から肝心の演奏もどこか調子が悪そうだった。この大編成の楽曲をきっちりまとめ上げるのは至難の業であろうことは想像できるが、それこそ団員の何人かがインフルエンザで急に抜けてしまったのか?という感じだ。途中声楽のソロが入ったあたりから少し気を取り直したように思えたが、この日は休憩なしの公演だったことも災いして、N響にしては珍しいくらいアンサンブルが締まらない感じで、そのまま終わってしまった。

やはりエッシェンバッハの指揮でマーラーとも関係の深いシェーンベルクが編曲したブラームスのピアノ四重奏曲第1番他というプログラムCもリベンジで行こうかと思ったのだが、同じ指揮者だから相性を考えると同じような演奏になるかもしれない……。実家の両親の具合もあったのでそれはやめておいた。

icon-youtube-play ブラームス(シェーンベルク編):ピアノ四重奏曲第1番

代わりに次週のプログラムB、ファビオ・ルイージの指揮するR.シュトラウスを聴きに行くことにした。クリスティーネ・オポライスがソリストというのも魅力的だった。スケジュールの都合で会場はオーチャードホール。正直、このホールの音響はあまり好みではないのだが、これまた大好きな「4つの最後の歌」を是非聴きたかった。

始めはウェーバーの歌劇「オイリアンテ」序曲。先日とはうって変わったキレッキレのアンサンブルが聴けた。これぞN響、という感じのかっちりした演奏はやはりドイツ・オーストリアのレパートリーを得意にしてきたオーケストラの面目躍如だ。

icon-youtube-play ウェーバー:歌劇「オイリアンテ」序曲

さて続いては私のお目当ての「4つの最後の歌」。R.シュトラウスの最晩年に書かれたこの作品は長寿だったこの作曲家の老境の心情が如実に表れている。やがて来るべき〈死〉を受け入れているのだが、その〈死〉は決して恐怖ではなく、むしろ陶酔に満ちている。そんな甘やかな〈死〉の静かな訪れ。私にとってこの曲はいつも一抹の寂しさの中にある官能性みたいなものを感じさせる。そのイメージで聴いてしまうと、この日の演奏はやや色気と枯れた味わいみたいなものが足りなかった。オポライスの歌唱もちょっと強面だったかもしれない。

icon-youtube-play R.シュトラウス:4つの最後の歌

休憩を挟んで後半の「英雄の生涯」は立派な演奏だった。この曲はN響の自発的なパッションがダイレクトに伝わってくる感じで、日本の名門オーケストラとして歴代の名指揮者たちと何度も演奏してきたであろうこの名曲にかけるプライドも感じられた。この日のコンサートマスターはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団で長くコンサートマスターを務めたライナー・キュッヒル。2017年からN響のゲストコンサートマスターに就任している。艶やかなソロは時にとろけて滴り落ちそうな風情だったが、このくらいの熟れた感じが「4つの最後の歌」にあれば尚良かったのに、と思わないでもなかったけれど。

icon-youtube-play R.シュトラウス:英雄の生涯

N響2020-2021シーズンのプログラムは他にもショパンコンクール覇者をソリストにした11月公演など注目のラインナップ。リサ・バティアシュヴィリの弾くシマノフスキのヴァイオリン協奏曲なども興味深い。こちらは来年の2月。攻めたプログラムで突き進む国内オーケストラの雄、NHK交響楽団に改めて注目である。

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