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Dilemma

Column Feature Tweet Yoko Shimizu

年末放談2020〜ニューノーマル時代のクラシック

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、大手楽器店に就職。クラシック音楽ソフトのバイヤー時代にラジオにも出演。その後に制作会社を経て、現在はフリーのラジオディレクターとして番組の企画制作に携わる。番組連動コラムや大学でゲスト講師をつとめるなど幅広く活動中。

ミュージックバード、クラシックチャンネル恒例の「年末放談」といえば、看板特別番組。既に10年以上続く長寿番組でもある。今年もその収録の時期がやってきた。出演はお馴染み政治思想研究家であり音楽評論家の片山杜秀さんと、私も番組でお世話になっている演奏史譚を名乗る音楽評論家、山崎浩太郎さんのお二人。番組プロデューサーであり進行役を務めた田中美登里さんと三人での時代を経て、時にはゲストも交えたりしながら続いてきたが、現在はシンプルにお二人での出演となり、山崎さんが進行役も兼ねる。

2020年はなんといっても新型コロナの影響を抜きには語れない。当然音楽業界もこれに大いに翻弄された。そこで今回は時系列でコロナの感染状況とともに政治、社会、そして関連する音源をかけながら音楽について話していく構成となった。

丸1年を振り返るので、なるべくぎりぎりの日程で収録していることもあり、ほぼ当日に打ち合わせを行い、そのままぶっつけ本番で収録に臨む。このようなシチュエーションで4時間以上の長尺の番組を作るのには相当な能力が必要だが、この片山×山崎コンビはともに圧倒的な博覧強記を誇り、素晴らしく機知に富んだ感覚を持ち、尚且つ同世代ということもあり、台本のない中でも相手の出方を即座に察知し、受け止めてまた返す、という会話のラリーを毎年見事に番組の形に落とし込んでくれる。お二人とも執筆活動をされているのは勿論だが、かたや大学教授、かたやラジオのパーソナリティとしても活躍されているので、その言葉を操る能力の高さにはいつも感動さえ覚えてしまう。

また番組のディレクターは当初から渡邊未帆さんが担当。現在は早稲田大学でも教鞭をとっている才媛である。彼ら二人のハイブロウな雑談の中から飛び出すトピックを、これまた見事に音源を選び出して時間配分をする。二人の対談は、朝日カルチャーセンターや書店のイベントなどでも特別編を行なっており、渡邊さんはほぼいずれもスタッフとして参加しているので、その呼吸も熟知している。

このように非常にレベルの高い現場なので、私も毎年お手伝いで収録に参加しているのだが、既に打ち合わせの段階からめっぽう面白く、放送には乗せられないオフレコトークが聴けたりして、非常にレアな体験ができるのは役得である。

コロナ感染が囁かれ始めた2020年明け、中国から始まったその脅威は次第に日本を含めた近隣諸国に影響していった。感染症はそもそも人類の歴史の中で常に繰り返されてきたものだが、「七草なずな、唐土の鳥が日本の国に渡らぬ先に…」と古謡に歌われたことからも、昔から日本では中国大陸から渡り鳥によって徐々に疫病が運ばれてくることを知っていた。この中国古謡は音源がないため片山さんが生歌(!)で披露。しかし現代はグローバル社会。アジアへの差別意識から始まったコロナが一気に感染が加速し、むしろ欧米で拡大したことは皮肉である。

icon-youtube-play ミュージックバード「年末放談」予告編

当初まだ日本でも「対岸の火事」といった感覚だったが、多くの人が国民的人気タレントの志村けんの死によってその現実感を自覚することとなった。お馴染み「東村山音頭」は片山、山崎、私の三人はリアルタイムで記憶していたが、ディレクターの渡邊さんは知らないという。ここに世代間ギャップも感じつつ、その後は相次ぐコンサートの自粛へ。欧米のロックダウンと日本の緊急事態宣言の発令。ソーシャルディスタンスとステイホーム。テレワークにマスクと新たな生活習慣を否応なしに受け入れざるを得なかった私達。音楽の世界ではアンサンブルが、殊にオーケストラや合唱など、大規模な編成のプログラムはNGとなってしまった。

icon-youtube-play 東村山音頭

そうした中で音楽の世界では配信によるコンサートやオペラの活動が注目を集める。いち早く敢行したびわ湖ホールのワーグナー「神々の黄昏」や、ミューザ川崎での無観客ライヴの成功が記憶に新しい。しかし欧米での感染拡大が止まらない中、来日公演は殆どがキャンセル。しかしウィーン・フィルだけはコロナ禍に特別措置で来日を実現。大いに話題となり各地でコンサートを敢行したことは賛否両論あった。日本人による日本のオーケストラ活動が瀕死の状態だったことを考えると、日本のクラシック音楽の在り方に疑問を持つという片山さん。

icon-youtube-play ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

またロックダウンの欧米ではアーティスト達が各々自宅で演奏を録音しており、それが徐々に録音物となって発売されている。イゴール・レヴィットの時代を見据えたプログラムのCDも話題に。前代未聞の感染症という絶望の中でもアーティストはそこに音楽がある限り、現代のあらゆるツールを駆使して様々な発信を試みているのは心強い。

icon-youtube-play イゴール・レヴィット(P)

奇しくもベートーヴェンの生誕250年という年に襲い掛かった新型コロナウィルス。クルレンツィスの第5番や山崎さん一押しのエベーヌ四重奏団の世界各都市で録音された弦楽四重奏曲で番組はフィナーレを迎える。

icon-youtube-play エベーヌ四重奏団

果たして世界はどうなっていくのか。この番組とともに思いを馳せつつ、2020年は間もなく終わりを迎える。

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