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Column Feature Tweet Yoko Shimizu

R.シュトラウス「サロメ」演奏会形式

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、大手楽器店に就職。クラシック音楽ソフトのバイヤー時代にラジオにも出演。その後に制作会社を経て、現在はフリーのラジオディレクターとして番組の企画制作に携わる。番組連動コラムや大学でゲスト講師をつとめるなど幅広く活動中。

この秋はなんとコンサートやらオペラやらに出掛ける機会が多いことか。それだけコロナ以降滞っていた来日公演や上演があるということなのだが、いかんせん番組制作の仕事もしているので、全ての公演に足を運ぶということもできない。自腹を切ることも多いので、いつもスケジュールと懐具合を考えながら調整している。それでも結局最後は自分のアンテナが反応したものを優先し、スケジュールも懐具合もすっ飛ばしてしまうパターンとなる。

私が公演情報を入手する方法はというと、会員登録しているプレイガイドや劇場やホール、オーケストラ関係からのお知らせメールや、音楽情報サイト、関係者向けのプレスリリースで知ることもあれば、懇意にしている事務所などからのお知らせもある。意外とバナー広告も目に付くのでチェックするし、またFacebookなどSNSの情報も最近はかなり参考にする。昔は新聞や雑誌が主流だったことを考えると便利になったものである。以前はコンサート会場で配られるチラシも重要な情報源だったが、最近は重いのでほとんど受け取らなくなった。しかしチラシになっていると目に留まる、ということは案外あるのでこの手法は今でも有効なようである。

東京交響楽団の演奏会形式のリヒャルト・シュトラウスのオペラ「サロメ」の情報を知ったのはFacebookだったかもしれない。東京交響楽団は本拠地がミューザ川崎シンフォニーホールなので、実は個人的に他の在京オケに比べると聴く機会が少ない。もちろんミューザ川崎は素晴らしく音響の良いホールなのだが、川崎まで行くのはなかなかハードルが高いのである。今回の「サロメ」はサントリーホールでの公演があったのでチケットを入手した。

その決め手は主役のサロメ役がリトアニア出身のソプラノ、アスミク・グリゴリアンだったからである。私は2018年のザルツブルク音楽祭のライヴ映像でやはり「サロメ」を演じていた彼女を見て、俄然ファンになってしまった。ロメオ・カステルッチの演出も一役買っていたが、ショートヘアに白いキャミソールドレスで歌う彼女はエキセントリックな少女像を体現していた。

icon-youtube-play アスミク・グリゴリアン

サロメは本来初々しい少女なのだが、シュトラウスのこのオペラでは1幕ものなので短めではあるものの、全編出ずっぱりである。しかも囚われの預言者ヨカナーンに恋情を抱き、想いが通じないとなると継父である王に彼の生首を所望するという、残酷で淫蕩な側面も持ち合わせている。もちろん歌唱もか細い少女の声と狂気の女性性を象徴する強靭な声の両方を表現しなければならない。また第4場では「7つのヴェールの踊り」という音楽的にもクライマックスが待ち受けており、このシーンではダンスも披露しなければならない。実に要求される要素の多い難役なのである。ダンスシーンは演出によってはプロのダンサーが代わりに演じたりすることもあるのだが、この2018年のザルツブルクではなんと〈踊らないサロメ〉というグリゴリアンの存在感も度肝を抜いた。

さて、2022年のグリゴリアンは2018年の時とは正反対の印象の黒のスリムドレスに身を包んでいた。もちろん演奏会形式なので、オーバーな演技もできないし、下手をすると声もかき消されてしまう。しかしオーケストラの大音量に負けない明瞭さで2階席の後方に座っていた私にもその声が響いてきた。驚くべきは圧倒的な声量を持ちながらその感情表現が損なわれることは全くなく、抑えめの演技ながら、むしろサロメの強いキャラクターを感じさせた。

他のキャストも素晴らしかった。ヨカナーン役のトマス・トマソンの厳かな存在感、ヘロデ役のミカエル・ヴェイニウス、ヘロディアス役のターニャ・アリアーネ・バウムガルトナーもよく通る声がそれぞれ印象深い。ジョナサン・ノットの指揮と東京交響楽団も隙のない演奏で緊張感漲るこのオペラのドラマを支えていた。「7つのヴェールの踊り」は単独でも演奏される名曲だが、これをじっくりと鑑賞できるのも演奏会形式ならでは。

演奏会形式の場合、あの生首に口づけするシーンはどうするのか、と思っていたが、鮮やかな赤い布を巻き付けたクッションのようなもので代用していた。こうした簡素な小道具でもこちらの想像をかき立てる。最後はこの赤い布を体に纏って舞台を去っていったグリゴリアンは黒と赤の鮮烈な色彩感とともにとても美しかった。演出監修には、サー・トーマス・アレンの名があったのも注目。やはりジョナサン・ノットの指揮で聴いた2019年のシェーンベルクの「グレの歌」では語り役で出演していた、イギリスのかの名バリトンである。彼のように全盛期を過ぎてもこうして味わいのある存在感を示してくれるのはなんとも嬉しい。

ノットと東響の次のR.シュトラウスのコンサートオペラシリーズは「エレクトラ」だそうで、こちらも要チェックである。

icon-youtube-play 東京交響楽団

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