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Dilemma

Column Feature Tweet Yoko Shimizu

札幌礼讃

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、大手楽器店に就職。クラシック音楽ソフトのバイヤー時代にラジオにも出演。その後に制作会社を経て、現在はフリーのラジオディレクターとして番組の企画制作に携わる。番組連動コラムや大学でゲスト講師をつとめるなど幅広く活動中。

引き続き北海道旅行について。この札幌行きは東京が空前の猛暑期に敢行したので絶妙なタイミングとなり、3日間の札幌の平均気温は25℃前後と、暑さに弱い私には最適な気温だった。

今回の旅は友人の歌手、井筒香奈江ちゃんと一緒である。最近はコロナも明けてライブ活動にも忙しい彼女だが、たまたまスケジュールが空いていたとかで、弾丸ツアーに付き合ってくれた。

初日は一緒に札幌コンサートホール「Kitara」でのコンサートを聴いた。かのバーンスタインが創設した音楽祭PMFで、ウィーン・フィルメンバーによる室内楽だ。ハイドン、オンスロウ、ベートーヴェンというプログラムもなかなか興味深い。大ホールでの室内楽というのは音響的に少し危惧していたが、実際に会場で聴くと全くの杞憂だった。柔らかいウィーン独特の歌い口も、弦楽器の艶やかな音色も色褪せることなく、私の席まで届いた。彼らが珍しく立って演奏していたことも影響したのかもしれない。実は急に旅行を決めたので直前にチケットを取ったため、かなり後ろの席しか残っていなかったのだが、このホールの音響の素晴らしさに驚いた。ミューザ川崎などと同様にヴィンヤード型と呼ばれる葡萄畑のように段々になった形状のホールは、ここも高名な音響設計技師、豊田泰久さんの手掛けたものであることに後で気付かされたわけだが、北海道の高い木材加工技術が反映されているのも特徴だそうで、大いに納得した。

icon-youtube-play 札幌コンサートホールKitara

香奈江ちゃんはクラシック音楽にはあまり馴染みがないというが、この音響の良さにはやはり感じ入るところがあったらしく、緑に囲まれた美しいホールの佇まいとともに、私達はKitaraの虜になってしまった。余談だが休憩時に食べたひとくちアイスクリームが美味しかったのも、さすが北海道である。それにしても、PMFのコンサートはもっと聴いてみたかった。来年以降は計画的に日程を考えよう、と決意する。

コンサート後は藻岩山のロープウェイを目指した。高い所が大好きなのも我々二人の共通ポイントである。生憎、曇り空で頂上からの眺めは一望、というわけにはいかなかったが、車内には海外からの観光客も多く、かなり混み合っていたので、解放された空間にほっと一息ついた。

藻岩山からの眺め
(藻岩山からの眺め)

翌日は別行動。前回のコラムに詳しく書いたので割愛するが、北大の博物館も見応えがあった。無料で見学できるのも素晴らしい。申し訳ないので思わずミュージアムショップでは財布の紐を緩めてしまった。古き良き外観は残しつつ、トイレに入ると最新設備が整っているのにもびっくりした。

icon-youtube-play 北海道大学公式より

最終日はホテルで朝食をとってから、駅のコインロッカーにスーツケースを預けて散策。彼女が知り合いに紹介されたというオーディオショップへ挨拶に行くことになり、私も便乗する。札幌の中心地にあるショップ「CAVIN大阪屋」は、ヘッドフォンからホームシアター、ハイエンドオーディオまでを網羅する品揃え。「井筒香奈江」と言えばオーディオの世界では有名な歌手なので、彼女の存在に気付いたお店の方々に歓待される。お伴の私まで視聴室の超高級オーディオでストラヴィンスキーの「春の祭典」を聴かせていただいた。香奈江様様である。

井筒香奈江
(井筒香奈江)

オーディオに関しては仕事上多少関係があるものの、ケーブルとかアンプとかスピーカーとか、凝れば凝るほどお値段も天井知らずなので、私には関係ない世界、とこれまで見て見ぬ振りをしてきた。こうやって試聴室でじっくり聴くという体験は恐らく初めてである。今、話題のアメリカのスピーカー(WILSON AUDIOのSASHA DAW)が設置されていた。試聴室には他にも桁違いの高級スピーカーが沢山置かれていたが、売約済みの物も少なくなかった。ご案内いただいた営業部長の布施さんによると、北海道という土地柄、長い冬があって在宅時間もあり、住宅事情も広い一戸建てを所有する人が多いということで、オーディオ愛好家も多いと言う。

CABIN大阪屋にて
(CABIN大阪屋にて)

さて、「春の祭典」である。のっけから中音域がやたらとクリアに耳に響いてくる感じ。管楽器の距離感が近く、これだけ精妙に聴こえると全体像が違った感じに聴こえてしまうのかと思いきや、後半部分では不思議とバランスが取れている。どちらかというと、指揮台に立って聴いているような音場感かもしれない。そして音の細胞を拡大鏡で覗いているような感覚。ダニエレ・ガッティ指揮フランス国立管弦楽団の演奏だったが、他の演奏と聴き比べればもっと面白かったに違いない。或いはブーレーズ盤とか自分が持っている音源にすれば違いが如実に分かったと思うが、顧客でもないのにいつまでも居座るわけにはいかず、お店を後にした。(布施さんには別番組のコメントまで図々しくいただいてしまい、この場を借りてお礼を申し上げたい)

札幌と言えばテレビ塔。またまた高所愛好家の二人で展望台を味わう。最終日は見事な晴天で眺めも最高。まだ北海道の海の幸を味わっていなかったのでお昼は二条市場で海鮮丼を食べ、出発までカフェでパンケーキとコーヒーで寛ぎ、後ろ髪を引かれる思いで猛暑の東京へと戻った。

テレビ塔からの眺め
(テレビ塔からの眺め)

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