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Column Feature Tweet Yoko Shimizu

ラジオディレクターの出張旅行〜沖縄編

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、大手楽器店に就職。その後制作会社を経て、フリーのラジオディレクターとして主にクラシック音楽系の番組企画制作に携わるほか、番組連動コラムや大学でゲスト講師をつとめるなど多方面に活躍。2022年株式会社ラトル(ホームページ)を立ち上げ、様々なプロジェクトを始動中。

梅雨入り直前の沖縄に出張に行くことになった。沖縄はコミュニティFMが実に18局もあるという日本屈指のラジオの島である。今まで出演していただいた局の方も多いので、この機会にご挨拶に伺うことにした。訪問の日程を伝えると、どの局も快く迎えてくれて、いくつかの局では生放送に出演させていただく段取りまでつけてくれた。コミュニティFMならではの小回り、そして人々の絆の深さを改めて感じる。

旅好きの相棒、黒瀬智恵ちゃんはつい数ヶ月前にも沖縄を訪れていたらしいが、私が沖縄に行ったのはサミットが開催された後だから実に20年振りの沖縄だ。高鳴る期待を胸に旅支度。しかし羽田空港を出発した際は土砂降りの雨だった。

icon-youtube-play ヴィヴァルディ『四季』より「夏」第3楽章

那覇空港に到着した時には小雨模様。レンタカーを借りて(運転は相変わらず相棒まかせ)、FM那覇に向かう。社長の奈良さんは実は秋田出身。複雑な家庭環境から10代の頃に人生に絶望し、暖かい土地で死にたい、とまで思い詰めて沖縄にやってきたという。ホームレス同然だったところをボランティアスタッフに助けられ、その団体のお手伝いをするうちにコミュニティFMとも関わりを持つようになり、「沖縄へ恩返しをしたい」との思いから若くして社長になったという人である。FM局の運営だけでなく、生活困窮者を救うネットワークも立ち上げ、積極的にその活動も行っている。そんな奈良さんは能登半島地震を受けて、つい先日にも現地にボランティアとして入っていた。お昼過ぎからの生放送は当然、能登の話、先日沖縄も危うく被害に遭うところだった津波の話など、防災の話で盛り上がった。

FM那覇のスタジオ
FM那覇のスタジオ

便宜上出張と言っているが、実は今回の旅費は自腹。ホテルは趣味を反映し、1日目の宿は那覇の中心地にある新しいホテルにした。智恵ちゃんが見つけてきた格安プランは宿泊する部屋の同フロアにラウンジがあり、軽食やお菓子、コーヒーなどが無料とあって、これだけでお腹いっぱいに。

翌日はお昼に豊見城市にあるFMとよみへ向かう。安慶名さんも名物社長として名高い。市役所にあるサテライトスタジオは防災におけるラジオの重要性を訴え続けてようやく許可してもらったそうだ。その条件として市役所内で食堂兼売店を営業している。ラジオの運営、パーソナリティー、食堂の調理までこなす。そこはこども食堂になっており、大人が「未来チケット」を買うことで、子どもがごはんを食べられるというシステムになっている。私たちももちろん、それぞれチケットを買った。

FMとよみの安慶名社長
FMとよみの安慶名社長

もう一人の平田千春さんは局のパーソナリティーであり、防災士でもある女性。スタジオを見学させていただいた後は、彼らの案内で地元のディープなせんべろ体験。私と智恵ちゃんは下戸なので、お酒の分はお二人に譲って楽しく歓談。最終的にはカラオケに傾れ込み、結局22時近くまで盛り上がる。食堂の仕込みで朝は4時起きだという安慶名社長、普段なら寝ている時間らしいが大丈夫だっただろうか。

さて、翌日は読谷村にあるFMよみたんへ。米軍の基地の後だという広い、小高い丘の上にスタジオがある。私たちは人気パーソナリティー金城礼子さんの番組にゲスト出演させていただくことになった。同世代の金城さんとは打ち解けて楽しく女子トーク?……のはずが、つい先日津波警報が出たばかりだったこともあり、やはり防災トークに。その後は金城さん、社長の仲宗根さんのご案内で漁港の近くで新鮮な海産物のランチをご馳走になる。

新鮮な魚介のランチ
新鮮な魚介のランチ

その後は名護に移動してリゾートホテルにチェックイン。広い敷地内は専用のカートで移動。まるでゴルフ場みたいだが、カートならばペーパードライバーの私も運転できそう。何年振りかでハンドルを握る。離れになっているヴィラは眺めが抜群。せっかくの沖縄ということで、怖いもの知らずで水着を持参した。ここはひとつプールに行っておこう。意外と肌寒い夜だったせいか、私たち二人と親子連れが一組のみ。ほぼ泳げない私はただただ寒かったが、智恵ちゃんは異様にテンションが高い。しかし寒さのため一時間も経たないうちにヴィラへ撤収。

翌日は最後の訪問でホテルからすぐの場所にある局、FMやんばるへ。名護の出身であるジョバンニ新城さんが社長を務める。ニックネームからして個性的だが、体を張ったまるでお笑い芸人のような企画をラジオ上で繰り広げて絶大な人気を誇っている。なんと前職は市役所の職員だったというから驚きである。キャラクターが強烈なせいか、やや非常識な人なのかと思いきや、とてもジェントルマンで頭の良い人で、彼もラジオの枠を超えて様々なプロジェクトに関わっている。今は名護に空港を誘致するべく動いているとか。彼らの素晴らしいリーダーシップにより沖縄のコミュニティFMは成り立っているのだ。

名護の美しい海
名護の美しい海

そんな沖縄にもプロの交響楽団がある。琉球交響楽団は2001年に設立されたオーケストラ。定期公演の他、子どもたちや市民への音楽鑑賞会、琉球芸能とのコラボレーションなど沖縄ならではの演奏活動を行っている。残念ながら今回は聴くことができなかったが、最後に南の島のオーケストラサウンドをお届けしよう。

icon-youtube-play 琉球交響楽団「沖縄交響歳時記」

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