時代を映し出すアイコン的存在、と言われるような人物は本当に一握りだ。しかしSNSの時代、ラジオやテレビといったメディアがプッシュしていなくても、リスナーが能動的にアーティストにアクセスして拡散していくというパターンもよく見るようになった。日本ではまさにそんな流れになった一人が、ノルウェーのシンガー、オーロラではないだろうか。
ファーストアルバムは2016年にリリースされていたが、日本ではほとんど名前を知られていなかったと思われる。私自身も彼女の名前を知ったのは2019年にリリースされた楽曲「Animal」でなのだ。
AURORA – Animal
エレクトロポップなサウンドの中に、力強く、どこかプリミティヴな感性を感じさせる個性的な歌声に、一気に惹きつけられた。そこから彼女のスタジオライブなどの動画を見たのだが、そのヴィジュアルにも惹きつけられた。スッと通った鼻筋、プラチナブロンドのおかっぱ、そしてどこまでも青い瞳。彼女自身も好きだという日本のアニメのエッセンスを取り入れたような衣装にも目を引きつけらる。私の周囲でも、音楽好きな友人から「Auroraいいよね〜!」という声をちらほら聞いたが、かといって大きな話題になっているかというとそんな感じはしなかった(もちろん、メディアで取り上げられていることはあった)。
そんな中で、2ndアルバムが日本でもメジャーからのリリースが決まった。そして、一番の起爆剤となったのは、ディズニー映画「アナと雪の女王2」の主題歌「Into The Unknown」のコーラスに参加したことだ(冒頭からイディナ・メンゼルが歌い出すまでのハミング)。彼女の個性的な声はハミングだけでも、耳が持っていかれるのだ。この曲の影響で「ノルウェーのシンガー、AURORA」が一気に広まった。
Idina Menzel, AURORA – Into the Unknown (From “Frozen 2”)
当時、来日公演があったのだが、残念ながら私はスケジュールが合わず見に行くことができなかった。しかし、某FM局でインタビューがオンエアされていたので拝聴した。なんとも可愛らしい、どこかお茶目な感じの女性だった。スタジオで披露した歌声も圧巻だった。
ニューアルバムリリース、アナ雪2と、彼女の周囲が騒がしい日々がすでに過ぎ去ったであろう今月、新曲「Exist For Love」がリリースされた。
MVを見て、ドキッとしてしまった。それまで自分の中で、AURORAは美しさ、力強さといった印象のヴィジュアルだったのだが、この曲のMVでは「色気」というか「艶」というものを感じさせてくれている。閉じていた巨大なホタテ貝が開くと、中に人魚姫よろしくAURORAが登場し、歌い踊るというシンプルなビデオなのだが、彼女の視線だったり細い腕の指先までの動き、なんとも言えなず、不思議な魅力的に溢れている。5月15日に公開されたこのビデオは、20日お昼12時の時点でおよそ140万回再生されている。
AURORA – Exist For Love
これまで、音楽のアイコン的存在というのは、マドンナにしろ、ジャネット・ジャクソンにしろ、ブリトニー・スピアーズにしろ、ビヨンセにしろ、レディー・ガガにしろ、どこかに、男社会に対する反発のような力強さを持ち合わせていたように感じるのだが、おそらくそれは社会に置かれた女性を反映しているのかもしれない。反映せざるを得ない状況だったアーティストも中にはいたかもしれない。そんな中、2020年のAURORAというアーティストは、ありのままだ。Let It Go、ではないが、ノルウェーという北欧に生まれ育ち、感じ、そして表現することは、すべて彼女のありのままなのだと音楽から感じられる。もちろん変化しないアーティスト、というのはいないだろう。年齢、人間関係、社会情勢、あらゆる要因が彼女に影響を与え、そのサウンドを形作っていくはず。これからの彼女の表現のベクトルが、どんな方向に向いていくのか、注目したい。
AURORA OFFICIAL WEB SITE
https://www.aurora-music.com/
(NO.16編集部)