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Column Feature Tweet Yoko Shimizu

ニューディスク・ナビ10周年、番組を通して音楽の素晴らしさを伝える一翼を担えることの喜びを感じている。

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

フリーランス・ラジオディレクター。TOKYO FMの早朝の音楽番組「SYMPHONIA」、衛星デジタル音楽放送ミュージック・バードでクラシック音楽の番組を多数担当。「ニューディスク・ナビ」「24bitで聴くクラシック」など。趣味は料理と芸術鑑賞。最近はまっているのは筋トレ。(週1回更新予定)

私が担当しているラジオ番組の中でも最も長い期間となったのが衛星デジタル音楽放送ミュージック・バードの「ニューディスク・ナビ」という番組である。今年の10月で満10年を迎えた。これは音楽評論家の山崎浩太郎さんが選曲、ナビゲートを務め、国内、海外盤新譜を月間100枚以上紹介するボリューム番組で、ミュージック・バードの中でも屈指の人気を誇る。何といっても山崎さんのディスクを選ぶ審美眼と幅広い知識に裏打ちされ示唆に富んだその解説が素晴らしく、私自身もこの番組を通して様々な音楽を発見することができる、まるで宝探しのような仕事場なのである。

先日、10周年を記念して特別編としての収録を行ったのだが、この10年間のクラシック音楽業界の流れとディスクの状況が俯瞰できる非常に充実した内容となった。その中で印象に残ったものをこのコラムでも是非ご紹介したい。

まずは番組が始まった当初に使われていたテーマ曲。なんとピアノ学習者には馴染み深いあのツェルニー50番練習曲の第35番だ。このテーマ曲を選んだのは他ならぬ山崎さんだったのだが、私など散々このツェルニーを弾いてきた者にとっては「なぜツェルニー?」と思わないでもなかったが、フレデリック・ヌーブルジェの演奏は確かに教則本のお手本演奏という感じではなく、とても音楽的ではあるものの、評論家とピアノ経験者の認識の違いを実感してしまったという苦笑いのエピソードも。

icon-youtube-play ツェルニー50番 練習曲 35番

さてここから本題に入ろう。番組が始まった2007年この前後というと、いわゆるピリオド楽器や奏法が演奏家やそれを聴く音楽愛好家にとっても一般的になってきた頃だといえるだろう。これは特にバッハやモーツァルト、ベートーヴェンといったバロックから古典派の時代には今のような機能的で高性能の楽器はまだ存在しておらず、現代においても当時の楽器を用いて演奏し、或いはモダン楽器でもその奏法を取り入れ、時代背景や音楽の成り立ちを探っていこうという動きが盛んになってくる。クラシック音楽は昔の音楽を飽きもせず繰り返し演奏している、と思っている人も多いのかもしれないが、時代に合わせて演奏や奏法も実は多様に変化している。そんな中でディスクも大手のメジャーレーベルというよりは小さなレーベルが独自の路線を打ち出して個性豊かな演奏や音楽を発信するようになってきた。2002年からベルリン・フィルの芸術監督に就任したサイモン・ラトルも世界最高水準のオーケストラでそうしたピリオド奏法を取り入れたことで時代に風穴を開けた。またマルク・ミンコフスキとルーヴル宮音楽隊、テオドール・クルレンツィスとムジカ・エテルナといったピリオド楽器のオーケストラを率いたカリスマ指揮者が登場してくる。フランソワ・グザヴィエ・ロトとレ・シエクルのストラヴィンスキー「春の祭典」も鮮烈な印象だった。

icon-youtube-play Stravinsky’s – The Rite of Spring (BBC Proms 2013 – François-Xavier Roth conductors)

その動きの先頭を切ってきたニコラウス・アーノンクールとウィーン・コンツェントゥス・ムジクスも忘れてはならない存在だ。アーノンクールは2016年に亡くなったが、彼らの演奏したベートーヴェンの交響曲第4、5番はピリオド楽器で演奏することの限界をも示した。それはベートーヴェンの作品の偉大な先進性を示唆するものでもあり、またアーノンクール自身の芸術家としての生き様を刻んだ、ある意味確信犯ともいうべき演奏だ、と山崎さんが語っていたのが印象的だった。

icon-youtube-play **♪モーツァルト:レクイエム 二短調 K.626 / ニコラウス・アーノンクール指揮ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス,アルノルト・シェーンベルク合唱団 2006年11月(冒頭リハーサル映像有)

クラシックの、とりわけディスクの世界では個性派が注目を集めるようになってきている。指揮者とオーケストラだけでなく、カウンターテナーのフィリップ・ジャルスキー、ヴァイオリンのアリーナ・イブラギモヴァ、イザベル・ファウスト、チェロのジャン・ギアン・ケラス、フォーレ四重奏団など、大ホールで大勢の聴衆を相手にモダン楽器で見得を切るような演奏というよりは、小編成の室内アンサンブル、民俗音楽やジャズアレンジを加えた自由な古楽、など比較的小規模な編成のスタイルが、特にヨーロッパを中心にコアなファンを獲得しつつある。またそうした演奏が実に魅力的なのである。名手が己のテクニックと音楽性を剥き出しに演奏するのではなく、仲間と音楽を作っていく喜びを共有していく演奏とでもいうのだろうか。まさにアンサンブルの醍醐味がここにある。指揮者クラウディオ・アバドが晩年力を注いだ若手を中心としたオーケストラ運動、マーラー室内管弦楽団やモーツァルト管弦楽団との活動もそうした動きの先駆けだったといえるだろう。

icon-youtube-play フィリップ・ジャルスキー Philippe Jaroussky – Ohime ch’io cado ( Claudio Monteverdi )

icon-youtube-play Alina Ibragimova Plays Bach 1/3 : Partita No.2 for Solo Violin

icon-youtube-play Isabelle Faust Plays Franck 1/2 : Sonata for Violin and Piano

icon-youtube-play Jean-Guihen Queyras – JS Bach – Suite No. 3 in C major, BWV 1009

icon-youtube-play フォーレ四重奏団 Long Ver. 横浜芸術アクション事業 新しい時代をリードするアーティストシリーズⅡ Fauré Quartett in Yokohama city, Japan

icon-youtube-play マーラー 交響曲第2番ハ短調《復活》第4、5楽章 クラウディオ・アバド

番組を始めて10年、その間にクラシック音楽の様子も少なからず変化してきた。発売されるディスクの数も少なくなってきてはいるものの、個性的な素晴らしい演奏、録音ともにまだまだ私達を魅了する音楽を提供してくれていることは間違いない。それらを紹介していく私もまた、番組を通して音楽の素晴らしさを伝える一翼を担えることの喜びを感じている。

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