

RADIO DIRECTOR 清水葉子
フリーランス・ラジオディレクター。TOKYO FMの早朝の音楽番組「SYMPHONIA」、衛星デジタル音楽放送ミュージック・バードでクラシック音楽の番組を多数担当。「ニューディスク・ナビ」「24bitで聴くクラシック」など。趣味は料理と芸術鑑賞。最近はまっているのは筋トレ。(週1回更新予定)
音楽関係者はコンサートに行く機会も度々あるが、私の場合いつも気になるのはコンサートにおけるドレスコードだ。
しかし日本の場合はやり過ぎると悪目立ちする。海外のオペラハウスやコンサートホールは、その建築的にも美しい建物の佇まいから歴史と優雅な趣があって、エレガントな装いの紳士淑女たちが幕間や休憩時間にシャンパンを飲む姿が実にさまになっている。もちろん学生などのために安いチケットで聴ける席もあり、彼らはもちろんカジュアルな服装で来ているわけだが、そういった人と、ある程度良い席のお客は休憩時間に鉢合わせないような設計になっている。そこが良くも悪くも階級社会の欧米ならでは、である。
日本は国民の中流意識が根付いた高度経済成長時代に多くのコンサートホールが建設されているから、そういうことはない。この夏はかなりの猛暑だったが、マチネのコンサートに短パンにサンダル、くたびれたリュックサックといった軽装のおじさまの隣は居心地悪いこともあった。
しかしラジオディレクターなんて職業は夜も昼もないので、カジュアル、というにも憚られるようなヨレヨレのTシャツを着ているような輩も多い。驚くなかれ、同僚の男性ディレクターたちは今までに職務質問されたことがない人が珍しいくらいだ。かくいう私も普段スタジオで編集作業のみをやっている場合はそれこそ楽な服装で、ジーンズとスニーカーとかカジュアルな格好をしていることも多いのだが、私のファッションの傾向はちょっと人とは違うらしく(と、よく言われる)、番組収録でゲストを迎えると「ディレクターらしくない」、と言われてしまうことがしばしばある。
またクラシック音楽業界の女性は上品でフェミニンなスタイルの人が多いので、ある意味とんがっている私の出で立ちはどうも浮いてしまう傾向にあるのだ。しかし何を着るか、ということには常に人一倍神経を注いでいる。一応自分なりにTPOはわきまえているつもりなのだが、これも個人の感覚なので場合によっては不興を買っていることもあるのかもしれない。この場を借りて謝っておこう。
いかんせんクラシック音楽業界では、ファッションの話はどこかタブーになっているような気がする。ファッションの話など持ち出すのは軽薄だ、といった風潮さえあるのではないだろうか。しかしあえて言ってしまうと音楽もこれだけ多様化し、自由な演奏スタイルが登場している現代において、それをとりまく様々なものが変化して然るべきである。私が特に苦手なのは、日本人女性演奏家にありがちなのだが、ヒラヒラでペラペラのパステルカラーのドレスである。それもデザインに全く主張がない、とりあえず華やかにしてみました、というだけのからっぽな感じ。それってキャバ嬢も似たような格好をしているような……と誰かが言っていた。日本でドレスアップする場というと、結婚式、コンサートや観劇などがあるけれど、そうしたドレスを纏っている人は意外と多い。それは「個」ではなく、つまりは最大公約数の男性に「女性」という記号だけで受けの良いドレスアップスタイルだということだ。そんな意識がファッションから垣間見えるのが私はどうにも好きではないのだ。
ヨーロッパを中心とするピリオド楽器の奏者などは近年少しカジュアル化する傾向で、男性は民族衣装に近い出で立ちだったり、女性もパンツスーツだったり、ちょっとゆったりとしたシルエットのドレスだったり、声高にファッションを主張するわけではないが、その自由なスタイルの演奏と同様に個性的な装いで素敵だな、と思うことが多い。
ラルペッジャータ
ヴェロニカ・エーベルレ(Vn)、アミハイ・グロス(Vla)、ソル・ガベッタ(Vc)
さてステージ・ファッションでいつも話題に上るのがユジャ・ワンである。ユジャ・ワンは中国出身の女性ピアニスト。超絶技巧ともいえるテクニックとパワフルな演奏スタイルで注目されるが、彼女はまた超ミニスカートや身体にフィットしたシルエットのドレスを纏い、足元は相当な高さのピンヒールを履いて演奏することでも有名だ。今やインターネットで即座にその映像が見られる時代だが、彼女のファッションは賛否両論のようである。確かにピアノを演奏する場合、椅子に座っているので、超ミニのスカートだと、どんどん裾が上がってきてしまう。演奏に没頭すればするほど身体も動くし、彼女のような激しい演奏スタイルだと尚更だ。足もバランスをとるのが大変だろうと思うし、あれだけの高さのピンヒールではペダリングもかなり難しいに違いない。
ユジャ・ワン(P)
一部ではこうした彼女のファッションを「下品」と捉える人もいるようだ。しかし私は音楽にもファッションにも主張がなく、ヒラヒラ、ペラペラのドレスを着ている演奏家よりもずっと魅力的に見える。演奏の好みはあれど、ずば抜けたテクニックと音楽的個性があるのは確かだし、ボディコンシャスなドレスは引き締まった彼女の身体に良く似合っている。音楽もファッションも、もっと自由に楽しむべきだ。
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