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Dilemma

Column Feature Tweet Yoko Shimizu

新しい音楽の息吹

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、大手楽器店に就職。クラシック音楽ソフトのバイヤー時代にラジオにも出演。その後に制作会社を経て、現在はフリーのラジオディレクターとして番組の企画制作に携わる。番組連動コラムや大学でゲスト講師をつとめるなど幅広く活動中。

二週間足らずで日本の状況は一変していた。予定していたイベント、コンサートは次々に中止。職場もリモートワークをする人が多くなり、公共交通機関も人が少なくなった。我々の仕事は放送が続く限りは通常通りなので、リモートワークばかりというわけにもいかず、収録や納品などをするために私はほぼ毎日スタジオへ向かっているのだが。

政府のイベント自粛要請ギリギリの日程で、小規模なコンサートはまだ開催されているものもあった。ひょっとしたらキャンセルかと危ぶんでいた東京オペラシティの近江楽堂での「アンサンブル・フォーヴ」のライブもそうだった。当日は受付も全員マスク着用。アルコール消毒もあり、少し異様な雰囲気だった。

アンサンブル・フォーヴは次世代型アンサンブルとして注目の団体。コアとなるメンバーは14名ということだが、場合によっては50名まで拡大するなどフレキシブルに変容するらしい。今回は自主レーベルからリリースされたアルバム「ZINGARO!!!」にちなんでのライブということで、ヴァイオリンの尾池亜美を中心とした第一級の腕前を持つ若い奏者たち。メンバーは作曲家の坂東祐大や人気サックス奏者の上野耕平も名を連ねる。

タイトル「ZINGARO!!!」が示すようにジプシー音楽を中心としたプログラムのコンサートはまずその楽器の配置も意表を突いていた。近江楽堂は100席ほどの小さな会場だが、前方と後方左右にも奏者がいる。私は舞台に向かって後方右側に座っていたのだが、すぐ後ろに管楽器が聴こえる、といった感じ。さすがに振り向くわけにもいかず、時々こちらを振り返る他のお客さんの目線をかわしながら耳を後ろに集中させて聴いていたわけだが、会場は天井がドーム型になっているせいもあって思いのほか響きが豊かである。

ジプシー音楽は本来、少々無礼講なくらいはっちゃけた方が楽しい。この若いアンサンブルは従来の音楽概念に捉われない活動を始めたばかりだということを考えると、今回のコロナウィルスの騒動は不幸なタイミングだったと思う。さすがの彼らも、また客席も少し神妙な気分があったに違いなく、コンサート始めは会場にどこかしんみりとした雰囲気があったからだ。しかしコンサートが進むにつれ、体を揺らしながら音楽に聴き入るお客さんも多く、アンコールに関しては「動画OK」という許可もあり、私もついついスマホをかざしてしまった。こんな騒動がなければもっと心の底から楽しめたのに、とちょっと残念ではあったが、これからの彼らがどんな活動をしていくのかとても楽しみだ。

icon-youtube-play アンサンブル・フォーヴ

話が前後してしまうのだが、その前に同じ東京オペラシティの「タケミツメモリアル」でも注目のコンサートがあった。久石譲指揮のフューチャー・オーケストラ・クラシックス=FOCである。このコンビは前身であるナガノ・チェンバーオーケストラ時代からベートーヴェンの交響曲に取り組み、最近その音源は全集としても完成していて、今年はベートーヴェンの生誕250年という記念年でもあり話題となっている。「ベートーヴェンはロックだ!」とは久石譲の名言である。確かにベートーヴェンはそのスピリットにロック的なものを感じるし、5番や7番といった音楽には久石の推進力あるリズムの刻み方がうまく作用し、実に魅力的なベートーヴェンを作り出していた。果たしてそれがブラームスにも通用するのだろうか?

プログラムはまず久石の自作、ホルンと室内楽のための作品から演奏された。FOCは小編成のオーケストラで立って演奏するスタイルだ。一階席だったせいかその分、音が上から聴こえる感じがした。楽曲の性質もあってか最初、時に音が上に抜けて行ってしまうような気がしたのだが、1番の交響曲が始まった時には気にならなくなっていた。

冒頭から早めのテンポでどんどん進んでいく。当然往年の巨匠たちの重い足取りのような演奏とは正反対である。それは決して眉間に皺を寄せて聴くブラームスではない。でもブラームスの音楽の中にある、ある種の「重さ」が彼らの音の実質的な「軽さ」を打ち消していたような気がする。それは不思議なバランスで保たれており、ここでも前へ前へと推進していくFOCの演奏は健在だったが、そのプラスマイナスの効果を指揮者である久石は計算していたのかもしれない。終楽章ではアンサンブルの集中力とテンペラメントが頂点に達した。アンコールはその勢いのままスピード感溢れるハンガリー舞曲となった。こんな演奏を70歳近い指揮者がやってのけていることにも驚きである。録音では東京交響楽団とのコンビでストラヴィンスキーの「春の祭典」が発売になるとか。こちらも楽しみである。

icon-youtube-play ナガノ・チェンバーオーケストラ(FOC)

2つのコンサート、彼らはこれからのクラシック音楽界の新しい息吹となるのだろうか。

実を言うとこのコンサートの後、体調を少し崩してしまった。幸いよく寝たらすぐに良くなったのだが、ある程度客席の多い会場でのコンサートはしばらく中止が続くことになるだろう。早くいつも通り音楽を楽しめる日が来るのを祈るばかりである。

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