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Column Feature Tweet Yoko Shimizu

光と色彩の作曲家ドビュッシー

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

フリーランス・ラジオディレクター。TOKYO FMの早朝の音楽番組「SYMPHONIA」、衛星デジタル音楽放送ミュージック・バードでクラシック音楽の番組を多数担当。「ニューディスク・ナビ」「24bitで聴くクラシック」など。趣味は料理と芸術鑑賞。最近はまっているのは筋トレ。(週1回更新予定)

2018年は様々な音楽のメモリアル・イヤーだが、作曲家で盛り上がっているのがドビュッシーだろう。クロード・アシル・ドビュッシーは19世紀後半から20世紀の初めに活躍したフランスの作曲家。1918年に没しているので今年は没後100年ということになる。

ドビュッシーを語るうえで欠かせないのは『印象主義』という言葉だ。それまでの『ロマン主義』音楽の主観的で物語性の強い表現に比べ、雰囲気や空気感を重視した音楽はどこか曖昧で捉えどころがない。その代わりにそこに存在するのは光や色彩感である。より絵画的な表現としての音楽はベートーヴェンやブラームスといったドイツ音楽とは違った魅力を持っている。またドビュッシーや同時代の作品には標題が重要なイメージ作りを担っている。光や色彩は形あるものではない。それを言葉でまとめあげることで音楽の持つ外観を捉えることができる。考えてみるとドビュッシーには「春」という標題の曲が多い気がする。カンタータ「春」や交響組曲「春」、管弦楽のための映像の中の「春のロンド」など。そのせいかこの季節のムードにもぴったりくる。今回はドビュッシーの音楽をご紹介しよう。

あらゆるジャンルの作品を書いているドビュッシーだが、やはりピアニストからスタートしたことを考えても中心となるのはピアノ曲。よく知られた「月の光」や「亜麻色の髪の乙女」、「アラベスク第1番」などはラジオ番組でもリクエストの多い定番曲だ。私自身も幼い頃からこれらはよく馴染んできた作品でもある。高校時代にはより技巧的な作品に四苦八苦した記憶がある。中でも「ピアノのために」は当時ショパンコンクールで優勝したスタニスラフ・ブーニンが十八番にしていた作品で、世間はただならぬブーニン・ブームに沸いていた。ピアノ少女だった私も来日コンサートを聴きに行ったのだが、それに影響されてあの高速テンポで弾いていたものである。考えてみると大学の卒業試験でもドビュッシーの「喜びの島」を弾いたので、意外とドビュッシーとは縁が深いのかもしれない。

icon-youtube-play「喜びの島」

レコードショップでバイヤーをしていた時代にもドビュッシーは身近にあった。その頃全盛期だったピアニストのポリーニがドビュッシーの練習曲集をリリースするというので非常に期待したのにあまり売れなかった、なんてことも思い出される。ドビュッシーの練習曲集、私はショパンのそれと匹敵するほどに音楽的でかつ優れた作品だと思うのだが、世間の人気はいまひとつのようで残念である。

icon-youtube-play12の練習曲「アルペジオのために」

またその頃はフランスの室内楽曲もたくさん聴くようになったのだが、やはりドビュッシーの弦楽四重奏曲やチェロ・ソナタ、フルート、ヴィオラとハープのためのソナタなどは今も大好きな作品だ。最近ではヴァイオリンのルノー・カピュソンやフルートのエマニュエル・パユ、ピアノのベルトラン・シャマユーなどフランス系一流アーティストたちによる室内楽集がエラート・レーベルから発売されているが、どれもフランスのアーティストらしい洒落た味わいを感じさせつつ技術的にも素晴らしくハイレベルな演奏だ。

icon-youtube-playチェロ・ソナタ

オーケストラ作品で有名なのはなんといっても交響詩「海」だろう。描写的できらめくオーケストレーションが、移ろいゆく海の姿を克明に描いている。3つの楽章からなるが、1曲目「海の夜明けから真昼まで」の最後のクライマックスはまさに波のうねりを感じさせる雄大な景色が広がる。この部分だけはCMなどでもよく使われるのでご存知の方も多いのではないだろうか?

icon-youtube-play交響詩「海」

更にドビュッシーらしい作品といえば彼の出世作とも言える「牧神の午後への前奏曲」。これはドビュッシーがフランスの詩人マラルメの詩に触発されて書いたオーケストラ曲で、冒頭フルートのアンニュイなソロは、牧神の「パンの笛」を表している。このゆらぎと浮遊感はドビュッシー音楽の最大の醍醐味だ。

icon-youtube-play「牧神の午後への前奏曲」

もう一つおすすめしたいドビュッシーの音楽、それは「小組曲」である。もともとはピアノ連弾曲として作曲され、ドビュッシー自身によって初演されたが、今日ではアンリ・ビュッセル編曲による管弦楽版の演奏も多い。「小舟にて」「行列」「メヌエット」「バレエ」という4曲からなる。バロック時代の組曲形式を模したもので、象徴的なタイトルはドビュッシーと縁の深いヴェルレーヌの詩集から着想したものと言われる。「小舟にて」の優しく穏やかなフレーズ、「行列」や「バレエ」の生き生きとしたリズム、どの曲もメロディーがキャッチーなのでとても親しみやすい。コンサートなどではアンコールで演奏されることも多い。「アラベスク第1番」などがお気に召した人はこの小組曲を是非聴いてみて欲しい。

icon-youtube-play「小組曲」

日本ではまもなく桜の季節。日本文化とドビュッシーの音楽は重なり合う部分も多い。当時パリではジャポニスムが花盛りでドビュッシーも日本美術を蒐集していた。「映像」第2集にある「金色の魚」は蒔絵の中に泳ぐ錦鯉をイメージの源としている。

icon-youtube-play映像第2集より「金色の魚」

この春はドビュッシーの音楽を聴いて過ごすのも素敵な時間に違いない。

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