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Column Feature Tweet Yoko Shimizu

バーンスタイン・センテナリー

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

フリーランス・ラジオディレクター。TOKYO FMの早朝の音楽番組「SYMPHONIA」、衛星デジタル音楽放送ミュージック・バードでクラシック音楽の番組を多数担当。「ニューディスク・ナビ」「24bitで聴くクラシック」など。趣味は料理と芸術鑑賞。最近はまっているのは筋トレ。(週1回更新予定)

今年はレナード・バーンスタインの生誕100年ということで、既に音楽業界では各種の盛り上がりをみせている。彼の代表作「ウェストサイド・ストーリー」の演奏会形式による公演についても少し前、このコラムで取り上げた。現代を代表する指揮者パーヴォ・ヤルヴィの上演に先駆けたトーク・セッションも面白かったが、改めてバーンスタインという音楽家の類いまれなるマルチな才能とそのカリスマ性を感じずにはいられない。

レナード・バーンスタインはアメリカが生んだ20世紀における最も著名な作曲家、指揮者、そして教育者。20世紀アメリカの最大の文化=メディアの普及とともに、世界中にその存在を知らしめた人物でもある。日本とも関わりが深く、世界的に活躍する小澤征爾や佐渡裕らも彼の薫陶を受けているし、札幌のPMF=パシフィック・ミュージック・フェスティヴァルの創設などは彼の教育者としての顔と功績である。

今回は作曲家としてのバーンスタインに触発されたバレエ公演について書こう。彼の作品で最も有名なのはミュージカル「ウェストサイド・ストーリー」だが、より彼の内面的な側面を音に写した作品を取り入れたバレエ作品、「バーンスタイン・センテナリー」と題されたトリプルビル。『幽玄』『不安の時代』『コリュバンテスの遊戯』という3本立てである。これは英国ロイヤル・バレエの企画で行われたコヴェントガーデンでの公演で、ライブビューイングで日本でも上映しているシリーズ〈ロイヤル・オペラハウス・シネマシーズン〉の中のラインナップでもある。

まずは『幽玄』。バーンスタインの「チチェスター詩篇」の音楽をもとにしている。振り付けはウェイン・マグレガー。合唱を伴う音楽的にも大規模な作品で、バーンスタインのポップな歌謡性とリズム、それがクラシック音楽というフィルターを通し、力強い宗教的作品となっている。バレエの舞台は極めてミニマム。ダンサーの鍛え抜かれた身体が暗闇の中で赤い衣装とともに浮かび上がる。舞台には簡素な箱の枠が登場するが、ストーリー性はなく、研ぎ澄まされた身体の動きだけで構成される舞台。この凝縮された美と舞台美術はどこか能の世界観にも通じるものがあった。『幽玄』というタイトルの通り日本的なアプローチの舞台美術は陶芸家が担当したというのも興味深い。

icon-youtube-play バーンスタイン:チチェスター詩篇

続いては交響曲第2番「不安の時代」をリアム・スカーレットがバレエ化した作品。イギリスの詩人W.H.オーデンの詩に触発されてバーンスタインが書いた交響曲だ。舞台は第二次世界大戦末期におけるニューヨーク。4人の孤独を描いた詩の内容に沿って、舞台はニューヨークの酒場から始まる。そこには戦争と不安、またユダヤ人としての自己と、同性愛者でもあったバーンスタインのマイノリティとしての孤独な一面が如実に現れたストーリー性の高い作品で、バレエというよりもミュージカルのような舞台に仕上がっている。ダンサーもトゥシューズではなく、フラットシューズを履き、表情も演技もかなり細かい、演劇的要素の強い作品となっていた。また音楽も交響曲とはいっても事実上ピアノ協奏曲、といっていいほどピアノが効果的に使われている。ピアノの硬質な音色が時に不安を、時に感情の襞を震わせるような抒情的なムードを醸し出す。

icon-youtube-play バーンスタイン:交響曲第2番「不安の時代」

最後は『コリュバンテスの遊戯』で3作品の中でも最もバレエらしい作品。曲は「セレナード」。ヴァイオリンの美しい旋律が印象的な楽曲だ。衣装デザインがアーデム・モラリオグルだというのも個人的にはとても興味をひいた。アーデムといえばイギリスの一際フェミニンでゴージャスなイメージのファッション・ブランドである。しかし音楽の正式タイトルは〈プラトンの饗宴による〉となっているように、古代ギリシャ風の衣装をモダンにアレンジした白い下着風のウェアはどこかイノセントでフェミニンではあるものの、エロティックだ。しかしもともとこの〈プラトンの饗宴〉はまさしく「恋=エロス」がテーマ。しかもそれは同性愛である。隠されたテーマを考えるとこの衣装も必然であろう。その動きに合わせて、黒いラインの入ったチュチュが揺れ動く様はとても美しかった。また男性のダンサーはチュチュの黒いラインと同じベルベット素材のハーネスを体に巻きつけたデザイン。この衣装で踊るプリンシパルのローレン・カスバートソンと日本の平野亮一のデュエットは特に素晴らしかった。

icon-youtube-play バーンスタイン:セレナード(プラトンの饗宴による)

いずれの作品もバーンスタインの音楽にあるリズムと歌、そして彼の内面までを捉えて、そこから新たに再構築し、コレオグラフィーを試みた今回のロイヤル・バレエのトリプルビル。非常に面白かったし、様々な角度からバーンスタインを紐解く鍵を与えてくれた。

icon-youtube-play ロイヤル・バレエ「バーンスタイン・センテナリー」

それにしても私も少しバレエをかじっていたことがあるが、同じ人間とは思えない。ダンサーたちのギリシャ彫刻のような肉体は舞台の上に立っているだけで芸術品だ。これを鑑賞するだけでもバレエを観に行く価値があるだろう。

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