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ラジオディレクターの仕事〜番組改編

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、大手楽器店に就職。クラシック音楽ソフトのバイヤー時代にラジオにも出演。その後に制作会社を経て、現在はフリーのラジオディレクターとして番組の企画制作に携わる。番組連動コラムや大学でゲスト講師をつとめるなど幅広く活動中。

夏の終わりのラジオの制作現場は10月からの番組改編期に当たり、仕事が大きく変わる時期でもある。新番組、終了番組、そして引き続いていく番組。そこに今年は新型コロナの問題もあり、昨年の同じ時期とはやはり少し様子が違っていると感じている。

私が制作に関わるミュージックバードのクラシック・チャンネルは、長年一緒に仕事をしてきた仲間が次々と現場を離れるという事情があった。それもあって全体的に番組数が減り、その代わりに大きな番組編成へと変わる予定である。国内外の新譜をくまなく紹介する「ニューディスク・ナビ」は引き続き平日6時間というボリュームで制作。これは音楽評論家の山崎浩太郎さんのご案内で変わらずに続くものの、緊急事態宣言後から収録方法は基本的にリモートとなっており、最初は不安もあったのだが、その分時間の無駄なく制作できるという利点もあり、「新しい仕事様式」を開拓したようなところもある。

一番の大きな改編は平日午後の時間帯に、音楽評論家の東条碩夫さんが出演する「新スペシャル・セレクション」という大型番組が登場することである。東条さんはもともと系列のFM東京のディレクターであり、ミュージックバードのクラシック・チャンネルを立ち上げたプロデューサーでもあり、その制作を殆どお一人で担っていた方である。私にとっては大先輩でもあり、また「ニューディスク・ナビ」の前身である番組「新譜紹介」でも選曲と出演をされていた。その頃から担当ディレクターとしてご一緒させていただいていた私としては、実に13年振りにレギュラー番組でタッグを組むことになったのである。

icon-youtube-play ベートーヴェン:交響曲第8番第3楽章

既に何度か収録を行っているのだが、ベートーヴェン生誕250年にふさわしい王道の交響曲の聴き比べや、小澤征爾とフランス音楽、巨匠指揮者チェリビダッケ特集にウェストミンスター・レーベルの室内楽など、懐かしさとともに今聴いても改めてその素晴らしい演奏に感動を覚える。現代の演奏スタイルとは違っても永劫不変の音楽に浸ることのできるラインナップは魅力たっぷりだ。

icon-youtube-play ブラームス:クラリネット五重奏曲byウラッハ&ウィーン・コンツェルトハウスSQ

実は東条さんがプロデューサーをされていた頃から「スペシャル・セレクション」という番組が既にあった。テーマに沿って選曲された音楽を6時間たっぷりと放送するという内容で、初期はその東条さんが選曲と構成を担当していたのだが、若手のスタッフや外部の音楽ライターの方などにも時々その選曲と構成をお願いすることがあった。現在は音楽評論家として活躍されている方も数多いのだが、その中のお一人だったのが、先日亡くなった音楽ライターのオヤマダアツシさんだった。

6時間のラジオの番組構成は慣れないと意外と難しい。テーマを重要視して凝った選曲にすることは音楽に詳しければわりとできるのだが、1日6時間の番組を5日分。ナレーションの原稿も書いていただくので、かなりのエネルギーを必要とする。フリーランスの仕事はギャラと労力の配分は自分で決めるところなので、どこまで凝った選曲にするかは本人次第。オヤマダさんは当時、山尾敦史さんというペンネームで活躍されていたのだが、得意のイギリス音楽やオーストラリアのオケや演奏家など、ひと味違った選曲で独特の個性を放っていた。人間的にも物腰が柔らかくソフトな印象なのだが、大型番組なのでやはり最初の気合が入り過ぎてしまい、原稿量が多く、ナレーションの収録が時間オーバーになる寸前だったので、大幅にそれをカットすることになってしまった時はちょっと納得いかないという雰囲気だった。それだけ自分の仕事に自信を持っていたことの証でもあるのだろう。

icon-youtube-play BBCプロムス

でも収録の合間に私たちスタッフにお菓子をお裾分けしてくれたり、雑談で場を和ませてくれたり、優しい笑顔は10年以上も前の話なのに昨日のことのように思い出される。そんなオヤマダさんが少し体調を崩して入院されたのを知ったのは、その後しばらく経って彼と個人的にFacebookで繋がってからだった。クラシック音楽への知識やアンテナはもちろんだが、ビートルズ・マニアでアートやカルチャー、様々なジャンルに感性と興味を持っていたオヤマダさん、その投稿を見るだけでいつも刺激を受けていた。コンサート会場などで会った時にも気さくに話しかけてくれて、再入院して手術をするとは言っても元気に戻って来てくれると信じて疑わなかった。こんなに早く亡くなってしまったのは本当に寂しい。再び仕事をご一緒するのは叶わなかったけれど、ご冥福をお祈りしたい。

その「スペシャル・セレクション」が新装開店して「新スペシャル・セレクション」となり戻ってくることになった。金曜日には日本のオーケストラ・シリーズということで別立てでお送りする。折しもクラシックのコンサートは満席での開催が容認される、というニュースも舞い込んできた。海外アーティストの来日問題はまだ続くが、前を向いて少しずつ今できることを精一杯やるのみだと考える今年の初秋である。

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