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Dilemma

Column Feature Tweet Yoko Shimizu

夏のギターカルテット

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、大手楽器店に就職。クラシック音楽ソフトのバイヤー時代にラジオにも出演。その後に制作会社を経て、現在はフリーのラジオディレクターとして番組の企画制作に携わる。番組連動コラムや大学でゲスト講師をつとめるなど幅広く活動中。

突然の真夏のような午後、トッパンホールのコンサートに出掛けた。駅から少し距離のあるこのホールはこんな季節にはちょっとしんどい。まだ梅雨明けはしていないはずなのに。やや憂鬱な気分になっていると、そのトッパンホールのライブ番組の出演者でもある田中美登里さんがスタジオにいらしたので、一緒にタクシーでトッパンホールのある水道まで向かうことになった。正確には私が便乗した形だったのだが。

この日のコンサートはギターカルテット。荘村清志、福田進一、鈴木大介、大萩康司という日本を代表するギタリスト4人が共演する。ギタリストは普段、基本的に一人で活動している。それぞれソリストとして人気も実力も兼ね備えているこの4人がわざわざタッグを組むというのは意外でもあり、だからこそゴージャスな顔合わせでもある。それに室内楽の殿堂とも呼ばれるトッパンホールでは、いわゆる正統派の室内楽の公演が多いので、ギターカルテットはホール主催のプログラムとしても珍しい気がしたが、大萩康司さんは何年か前にエスポワール・シリーズに出演して人気を博したそうで、主催公演以外でもギターコンサートはそれなりにやっているそうだ。

クラシックギターというのは立ち位置が独特なジャンルである。レパートリーにはラテン作品はもちろん、ポップスのクロスオーバー的なものが多いし、かと思うとバロックのリュート作品なども演奏する。よく知られた他の楽器の小品を奏者自身で編曲することも多いし、実に様々な感性と能力が求められる。そういった意味ではこの4人は才能にすこぶる恵まれた人たちと言えるだろう。

「duo×duo」と題された今回のコンサート、デュオを基調に組み合わせを変えて奏者が登場する。また合間にはトークも展開していくのだが、それぞれの個性がトークにも演奏にも反映されるのが面白い。

日本のギター界の第一人者であり、一番年上の荘村さんが最も個性的に思えた。ギターを持つ姿も背筋を真っ直ぐにして、まるで三味線を弾くようにキリッとした趣がある。そして朴訥とした中にも芯の通った音を奏でる。私はギターに関してはほぼ素人だが、同じヨーロッパでもスペインとそれ以外の国では演奏スタイルが違うのだろうか? また荘村さんのヘアスタイルが武士っぽいというのもそうした印象に拍車をかけているのかもしれない。

あとの3人はフランスやイタリア、オーストリアといういわゆるクラシック音楽の中心で学んでいて、楽器自体を抱えるように持つ姿勢も共通している。体に近いところで奏でる彼らの音はよりしなやかで、アーティキュレーション豊かだ。その中でも特に福田さんは表情豊かで多彩な音色を持っている。

このメンバーの中では、私は福田さんに唯一番組ゲストとしてスタジオでお話を伺ったことがあるのだが、関西出身だけあってとても話上手な方だった。自身が第一線で活躍する演奏家でありながら優秀な弟子も数多く育て上げ、その協力を惜しまない姿勢も素晴らしい。

まさにその弟子である鈴木さんは編曲なども多く手掛けており、現代作曲家とのコラボレーションも多く、そうした難易度の高い楽曲もさらりとこなす確かな技術と、合間のトークも中心となって場を盛り上げるなど、器用な才能にも驚かされる。最近では最も活躍しているギタリストだろう。

大萩さんは他ジャンルとのコラボレーションも多く、コロナ禍では自らのレーベルも主宰するなど、積極的な活躍が目立つ。精悍な風貌も相まってテレビなどメディアでも多く取り上げられる存在でもある。

カルッリ、ポンセ、メンデルスゾーン、レイモン、ピアソラ、武満、アルベニス、タレガ、フォーレ、ヴィヴァルディ、カステルヌオーヴォ=テデスコ、ディアンス、と盛り沢山の楽曲を、二人の個性を鑑みながら組み合わせているプログラムは、なるほど、と思わせるところがたっぷりとあって、合間のトークがまた微笑ましく、和気藹々とした雰囲気の中に、会場のファンも大いに楽しんだ。このメンバーによる「duo×duo」は様々な場所でコンサートツアーを行なっているが、即興的な部分も多々あるらしく、そんな自由な雰囲気を4人それぞれも楽しんでいるようだった。

またギターの少し乾いた音色は蒸し暑さを忘れさせてくれる爽やかさで、以前にも福田さんが番組出演の際に「曲によっては、他の楽器だと重く、深刻に向かわなければならない演奏になりがちだが、ギターは深刻になり過ぎないのがいい」と仰っていたのを思い出した。軽やかで繊細なギターの音色は、トッパンホールのようなインティメイトな響きの会場だからこそ、より親密に楽しめるのかもしれない。

icon-youtube-play DUO×DUO

和やかなギターコンサートの2日後に最も短い梅雨明けが発表された。

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