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Dilemma

Column Feature Tweet Yoko Shimizu

ラジオディレクターの夏休み

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、大手楽器店に就職。クラシック音楽ソフトのバイヤー時代にラジオにも出演。その後に制作会社を経て、現在はフリーのラジオディレクターとして番組の企画制作に携わる。番組連動コラムや大学でゲスト講師をつとめるなど幅広く活動中。

8月になり、早くも夏休み到来、といったシーズンである。

例年通りラジオディレクターは夏休みとはほぼ無縁の生活だが、昨年から防災番組を担当しているので、各地の防災活動をよりきめ細かく取材するために、この春から月に一度出張が入るようになった。友人でもあり、一緒に番組をやっているパーソナリティーの黒瀬智恵ちゃんと相談しながら、日本各地のコミュニティFM局を訪ね歩いているのだが、この2年間はコロナもあってあまり東京を離れることがなかったので、新幹線や飛行機での移動がやたらと新鮮な感じがする。

今回は新潟に赴くことになり、それならば観光も兼ねて前乗りし、長岡の花火を見よう!という計画を立てた。日本三大花火に数えられる長岡花火大会。このところコロナ問題で各地の花火大会は中止が相次いでいたが、長岡の花火も実に3年振りの開催だった。旅好きな相棒の智恵ちゃんは現地に友人がいることもあって、毎年長岡を訪れているそうだ。今回も2日間花火大会を見るというので彼女は先に新潟に入っていた。

火曜日にレギュラーの収録を終えた私は、仕事を片付けてから水曜日の午前中に東京を出発することになった。午後長岡に到着した私を、智恵ちゃんと仲間の二人が車で迎えに来てくれた。車中で同世代女子4人は早くも意気投合し、新潟のお煎餅工場の特売所や西瓜の直売所などを廻った。4人分の買い物で瞬く間に車の中がお土産でいっぱいになる。

icon-youtube-play ハービー・ハンコック:Watermelon Man

日も暮れてきて、現地で通信関係の会社を経営しているSさんご夫妻のご好意で花火大会近くのビルの屋上で鑑賞できるというので、便乗させていただく。そのSさんご夫婦の友人も集まり、賑やかに宴会開始。途中雨の心配もあったが、概ね曇り空で暑過ぎず快適である。河川敷から上がる見事な花火。東京で見るビルの谷間に上る花火と違って、その大きさに驚く。

icon-youtube-play 長岡花火大会2022

BGMの「Jupiter」がお約束らしいのだが、クラシック畑の人間から言わせればオリジナルのホルストの「Jupiter」の方がよっぽど音楽的高揚感があると思う。

icon-youtube-play ホルスト:組曲「惑星」より「木星」

「花火」といえばクラシック音楽にもいくつか名曲が揃っている。

有名なのはヘンデルの「王宮の花火の音楽」

icon-youtube-play ヘンデル:王宮の花火の音楽

ピアノ曲ではドビュッシーの前奏曲第2集より「花火」

icon-youtube-play ドビュッシー:前奏曲集第2集より「花火」

しかしなんといっても花火はあの「ドン!」という夏空に響く音がいい。身も蓋もないけれど究極的には音楽は必要ないかもしれない。しかし一方でディレクターとしては花火の音も素材とするべく、ポータブルの録音機でしっかり録音する私であった。

花火鑑賞の後は翌日の取材先、十日町に程近い松之山温泉に宿を取ったので移動。ペーパードライバーの私は3人にすっかり運転をお任せ。宿泊と言えば、最近都内のホテルしか利用していなかったので、畳に4人で布団を敷いて寝る、というのは修学旅行か学生時代の合宿のようでもあり、昭和を懐かしく思い出す。温泉も久しぶりなので朝晩ともお風呂へ入ってしまった。

翌朝、私と智恵ちゃんは取材先の十日町へまたしても車で移動。FMとおかまちはなんと越後妻有里山現代美術館の中にあった。建物自体が一つの作品でもあり、スタジオのブースも展示の一部のように設えられている。中庭にはプールのような水のアートがあって、これはレアンドロ・エルリッヒの作品。あの金沢21世紀美術館の「スイミング・プール」と同じ作家だ。美しく開放的な回廊の四方から観られる構造になっている。「空の池」と題されているとおり、空が刻一刻と光を受け様々な姿を映し出すので水面を眺めていると時間の経つのを忘れてしまう。(写真①)

icon-picture-o レアンドロ・エルリッヒ「空の池」

近年十日町はアートの街としての発信をしており、コロナで延期されたものの、この夏も「大地の芸術祭」が開催され、里山のあちこちにアート作品が存在する。お邪魔したFMとおかまちのパーソナリティー、高野綾子さんのご実家は撚糸工場を営んでおり、立て直しが決まった工場でも作品が展示されていた。機織り機を使ったアートは冨田紀子さんの「琴線」という作品。天井に伸びた糸は空間を織る、というダイナミックなコンセプトのインスタレーションだ。高野さんの計らいで特別に見せていただいた。(写真②)

icon-picture-o 冨田紀子「琴線」

今回は防災番組での取材だったため、「大地の芸術祭」についてはあまり下調べできず、もっとじっくりと鑑賞したかったのだが、とりあえず新潟に来たからにはへぎ蕎麦を食べねば!と4人でふらりと入ったお蕎麦屋さん「松苧」で舌鼓を打つ。山菜の天麩羅も実に美味しく、気付けば周りの田園風景の中にもアート作品が自然に溶け込んでいた。

巨大なメタリックな質感のバッタは滑り台で、塩澤宏信氏の「イナゴハビタンボ」という作品。

icon-picture-o 塩澤宏信「イナゴハビタンボ」

トーマス・エラーの「人、再び自然に入る」がどこかホラーテイストに感じたのは「犬神家の一族」の菊人形を思い出させたせいかもしれない。(※個人の感想です)

icon-picture-o トーマス・エラー「人、再び自然に入る」

ラジオディレクターの短い夏休みは思い掛けず自然とアートが出会う旅となった。

「大地の芸術祭」は11月まで開催中とのこと。

大地の芸術祭2022 icon-external-link

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