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Dilemma

Column Feature Tweet Yoko Shimizu

パーヴォ・ヤルヴィとN響の絶品フレンチプログラム

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、大手楽器店に就職。クラシック音楽ソフトのバイヤー時代にラジオにも出演。その後に制作会社を経て、現在はフリーのラジオディレクターとして番組の企画制作に携わる。番組連動コラムや大学でゲスト講師をつとめるなど幅広く活動中。

職場の同僚の男性ディレクターに「クラシック音楽っていつも同じ曲を聴いてて面白いの?」と以前言われたことがある。まぁ、そんなふうに思う人が多いのかもしれないが、クラシックコンサートの楽しみ方には大きく二つの醍醐味があると思う。同じ曲でも演奏者によってこんなに違いがある、という演奏の内容や解釈、それと同時にあまり演奏される機会のない作品を実際にライヴで聴いてみたい、というのも大きな楽しみの一つだ。

4月のNHK交響楽団の定期公演ではまさにこの二つの楽しみを同時に味わえるコンサートに遭遇した。NHK交響楽団の定期演奏会はABCと3つのプログラムがある。AはN響お得意のドイツ音楽を中心に、クラシック音楽の王道を行く内容。大規模なオーケストラ作品を巨匠指揮者でじっくりと聴く、というもの。Bは個性豊かな指揮者たちと一流のソリスト達との共演が聴きもの。そしてCは休憩なしで音楽に集中して聴くことができる短めのプログラム。これらの特徴の中に、ファンからのリクエストを取り入れたり、その年のアニヴァーサリー作曲家やテーマなどを盛り込んだ多彩な内容で、聴衆を楽しませてくれる。

今回私が聴いたのはCプロ。指揮者はエストニア出身のパーヴォ・ヤルヴィ。ヤルヴィ家は音楽一家として有名で、父は著名な指揮者、ネーメ・ヤルヴィ。弟クリスチャンも指揮者として活躍している。パーヴォは2022年までN響で首席指揮者を務め、この時代に様々なレパートリーを開拓した印象だが、このCプロでも旧知の間柄であるこのオーケストラと驚くほど息の合った演奏を聴かせてくれた。ルーセル、プーランク、イベールという近代フランスの比較的小規模な作品3曲。これらの作品を集中的に演奏するプログラムはN響クラスのオーケストラでは珍しいかもしれない。

またパーヴォは録音でもそうなのだが、作品によって演奏するオーケストラを絶妙に選び分ける能力に長けており、それは作品の本質を見極め、更にオーケストラの特徴をマッチングさせることで、更なる相乗効果で演奏を格上げする。またそのプログラム構成も、現代音楽をバランスよく組み込んだり、いつも機知に富んでいて唸らせる。SNSの発信などにも熱心で、現代を代表する指揮者というべき存在である。

冒頭はルーセルの晩年の作品「弦楽のためのシンフォニエッタ」。この時代の初の女性オーケストラのために作曲されたという。弦楽オーケストラのアンサンブルが生き生きとリズムを刻み、調性音楽を保ちながら、その端正な趣と同時に複雑な和声で聴く者を魅了する。優雅な音楽の流れをスパッと立ち切るように決然と終わるのもどこか特徴的である。

icon-youtube-play ルーセル:弦楽のためのシンフォニエッタ

続いてはプーランクのシンフォニエッタ。プーランクはこの3人の中でも最も個性的な味わいを持つ作曲家といえるだろう。木管のための曲も多く書いている彼は、やはりここでも木管を遊ばせたコケティッシュなフレーズが耳に残る。かと思うと、オルガン協奏曲を思わせる冒頭の部分などではシリアスでドラマティックな、もう一つのプーランクの謹厳な顔を見せつける。このオーケストラサウンド、既にシンフォニエッタ=小交響曲というには逸脱する規模の内容になっている。多彩でコロコロと表情の変わる作品だが、パーヴォのしなやかな指揮はそれらを軽々とまとめ上げ、複雑な要素もパッチワークのようにきれいに繋ぎ合わせて、実に器用に鮮明でクリアな音楽として提示してくれる。

icon-youtube-play プーランク:シンフォニエッタ

最後のイベールの「室内管弦楽のためのディヴェルティスマン」は、小編成のアンサンブルのための作品。休憩のないプログラムとはいえ、この小曲を最後に持ってきた意味は、これ自体が大きめのアンコール曲、といった趣にもなっていた。もともと劇音楽だったものを組曲形式に落とし込んだこの作品は6曲からなる。

「序奏」「行列」「夜想曲」「ワルツ」「パレード」「終曲」

出だしからテンションの上がる賑やかな序奏、全体を支配する軽やかなリズム、小編成だけに個々の楽器ソロの妙技も活躍し、特に多種多様な打楽器の活躍には視覚的にも目を見張る。劇音楽が元となっているだけに情景的な描写も多々あり、途中ではあの「結婚行進曲」のメロディーも聴こえる。そんなコミカルな呼吸もお見事。終曲では狂騒の賑わいが一層スパークし、ピアノが狂ったように鍵盤を叩きつけ、パーヴォ自身がホイッスルを吹いて盛り上げる! 曲が終わった瞬間に拍手と笑い声が沸き起こるなんて、実に洒落たエンディングではないか。

icon-youtube-play イベール:室内管弦楽のためのディヴェルティスマン

このコラムのために動画を探していたら、パーヴォがNDRエルプフィルと演奏したものが出てきて、少し前からレパートリーに組み込んでいたらしいことがわかる。これだけ演奏がこなれていたのも宜なるかな。改めてこんな楽しい音楽に出会わせてくれたパーヴォとN響に感謝。

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