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Dilemma

Column Feature Tweet Yoko Shimizu

ラジオディレクターの東北出張旅行(前編)〜湯沢編

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、大手楽器店に就職。その後制作会社を経て、フリーのラジオディレクターとして主にクラシック音楽系の番組企画制作に携わるほか、番組連動コラムや大学でゲスト講師をつとめるなど多方面に活躍。2022年株式会社ラトル(ホームページ)を立ち上げ、様々なプロジェクトを始動中。

旅の話ばかりで恐縮なのだが、今回は東北の旅である。

メインは岩手県宮古市の、みやこハーバーラジオ開局10周年記念パーティーに出席することだったが、それならば夏と同じルートで秋田の湯沢にも寄り、取材で意気投合したFMゆーとぴあのトッキーさんこと高橋常子さんと名物の芹のきりたんぽ鍋を食べよう! と、相棒の智恵ちゃんと計画を立てた。

ところが東京出発時から問題が勃発。なんと私は寝過ごして新幹線に乗り遅れてしまった。ギリギリ間に合うかの瀬戸際でタクシーで東京駅を目指したが、途中首都高の池尻で事故が発生したため、万事休す。智恵ちゃんには先に行ってもらい、次の新幹線に乗り込んだものの、在来線との接続が悪く、北上駅で3時間も待つ羽目になった。これに気付いたのは新幹線の中で、大慌てで家を出たので思考力を失っていたらしい。とりあえず、新幹線のトイレで化粧を施す。

2時間半後、北上駅到着。朝から何も食べていなかったので、ググっておいた駅近の喫茶店に入る。10時半という中途半端な時間なため、私以外にお客さんはおらず、窓際の席に座ってビーフシチューセットを注文。都会のカフェとは違ってWi-Fiはなさそうだが、電源がある。PCを充電させてもらい、食後のコーヒーを飲みながら1時間半ほどまったり。お昼近くなると近所の人がランチに訪れ、そろそろ退散した方が良さそうな雰囲気になってきた。スーツケースを手にしようと思ったその時、隣に座った外国人の女性から「素敵なスーツケースですね」と話しかけられた。もう20年近く愛用しているグローブトロッターのスーツケース。そういえば以前に直島を訪れた時にも、港で船を待っていると外国人旅行客のグループから、このスーツケースを褒められたことがあったっけ。

ラジオディレクターの東北出張旅行(後編)〜宮古編
北上駅の喫茶店

件のスーツケースを転がしながら駅前の生涯学習センターへ移動。ここにインターネットコーナーとフリースペースがあるとの情報だった。ところが備え付けのデスクトップのPCは置いてあったが、自由に使える電源がない。それこそ20年位前にPCがパーソナルでなかった時代に、海外のホテルなどでこんなコーナーがあったのを思い出す。地方都市の通信環境はノマドワーカーには少々辛い。幸いFree Wi-Fiが辛うじて飛んでいたので、小一時間ほど仕事をして、そこから再び駅の待合室へと向かう。

北上から湯沢までの在来線は始発の一両編成。既に何人かの旅行客のグループが列を作っていた。先に行った智恵ちゃんから進行方向右側の席の眺望がベスト、と聞いたので窓際に陣取る。既に紅葉シーズン、車窓から眺める山々の色とりどりのグラデーションは晴天の青空に映えて素晴らしく美しかった。ここからのんびり1時間ほど列車の旅である。

ラジオディレクターの東北出張旅行(後編)〜宮古編
紅葉が見事な山々

ラジオディレクターの東北出張旅行(後編)〜宮古編
秋の鉄道の旅

閑話休題。さて鉄道好きのクラシックの作曲家として有名なのが、チェコの作曲家、ドヴォルザークである。彼はよくプラハ駅に行っては、入れ替わり立ち替わり入線する列車を眺めて楽しんでいたとか。交響曲第9番「新世界より」はドヴォルザークの最も有名な作品だが、特に第2楽章は民謡風のメロディーが郷愁を誘い、こんな列車の旅の気分にもシンクロする。

icon-youtube-play ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」第2楽章

湯沢に到着してトッキーさん、智恵ちゃんと合流。この日の宿はトッキーさんの知り合いの旅館に泊まることになっていたので、荷物を先に置かせてもらう。夜は楽しみにしていた芹のきりたんぽ鍋をトッキーさんが地元のお店に予約してくれていた。湯沢の三関は芹が有名で、根ごと食べるのが特徴。シャリシャリとした食感と独特の風味がとても美味しい。これに味の滲みたきりたんぽ。食事のお供は同じく三関名物のさくらんぼのノンアルコールサイダー。なんと三人とも下戸という面子なのであった。…にも関わらず、この後はトッキーさん行きつけのバーへと繰り出す。

ラジオディレクターの東北出張旅行(後編)〜宮古編
湯沢名物の芹のきりたんぽ鍋

湯沢駅から程近いバーは、古いレコードが所狭しと並び、アンティークやヴィンテージの小物が置かれた古き良き雰囲気が漂う。そのカウンターの奥に、とんがり帽子を被り、黒い衣装にほうきを斜めがけにした魔女が座っていた。そう、この日はハロウィンだったのである。まるでアート作品のようなその光景に、魔女のとんがり帽子をなんとなく「三角帽子」だと勘違いしていた私は、スペインの作曲家、ファリャのバレエ音楽に同名の「三角帽子」という作品があり、彼のもうひとつ有名なバレエ音楽が「恋は魔術師」であることから、魔術師(魔女)=三角帽子という思い込みがあったからだと気付いた。

icon-youtube-play ファリャ:「三角帽子」第2組曲

お店の常連さんらしい魔女は、裏メニューのハンバーグを美味しそうに食べながら赤ワインのグラスを傾けている。気さくなマスターが下戸の私たちにもノンアルコールの美味しいカクテルを作ってくれた。魔女とお喋りしながらとても居心地の良い時間を過ごし、アルコールも入っていないのにどこか夢見心地で湯沢のハロウィンナイトが更けていった。

ラジオディレクターの東北出張旅行(後編)〜宮古編
湯沢の隠れ家的なバー

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