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Column Feature Tweet Yoko Shimizu

新春の雅楽2024

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、大手楽器店に就職。その後制作会社を経て、フリーのラジオディレクターとして主にクラシック音楽系の番組企画制作に携わるほか、番組連動コラムや大学でゲスト講師をつとめるなど多方面に活躍。2022年株式会社ラトル(ホームページ)を立ち上げ、様々なプロジェクトを始動中。

元日から不穏な災害や事故で心が暗くなりがちだが、新年は始まったばかり。気を取り直してサントリーホールで行われる雅楽の新春コンサートを聴きに行くことにした。

雅楽といえば「越天楽」くらいしか頭に浮かばない私が、昨年もここサントリーホールでの雅楽の定期公演にやってきたのは、なんとなく新年らしい雰囲気を味わいたくて、くらいの感覚だったのだが、まぁ、一般の人にとってもそんな感じではないだろうか。本来は儀式の中で演奏される雅楽だが、サントリーホールという場所柄、まずはそんな人たちに向けて、専門家の解説がある。クラシックコンサートなどでも解説を挟むことは最近多いのだが、やはり初心者にとってはとてもわかりやすく、ありがたい。

雅楽はもともと中国や朝鮮半島から伝えられた音楽や舞、日本古来の儀式の音楽や舞踊などが、平安時代に独自の様式に整えられたもの。奈良、平安時代には宮廷、寺院や神社などで盛んに演奏された。現代では明治時代に創設された宮内庁式部職楽部がその伝承を担っている。また、民間の演奏団体もいくつかある。

ここで演奏している団体は「東京楽所(とうきょうがくそ)」。彼らは宮内庁式部職楽部出身の4人により結成された由緒正しい雅楽の団体で、儀式音楽だけでなく音楽芸術としての雅楽演奏を目的としている。確かに、邦人作曲家のクラシック音楽作品で笙や筝、琵琶などを使った作品はいくつかあり、それら現代音楽までの演奏に対応する高い技術と芸術性を持った奏者を集め、尚且つ優秀な楽師の育成も目的としている。

icon-youtube-play 越天楽

私も番組制作の中で雅楽を取り入れたクラシック音楽作品には触れてきた。新年には雅楽の音源を番組で一部使用することもあったのだが、このコンサートに訪れて改めて思ったのは雅楽には舞楽(舞踊)も含む、ということである。この日も前半は「管絃」、後半は「舞楽」というプログラム構成となっていた。また、その装束には重要な文化的価値があり、装束を着付けたり、製作したりする人たちもまた有形文化財のような存在である。当然ながら年々継承者が減っているそうで、伝統文化を保持していくことの大変さを改めて思い知った。

いよいよ本番である。最初の「平調音取」というのは楽器同士の音のチューニングのような意味合いがあるそうだ。しかしこのようなコンサート形式で聴く場合、各楽器がそれぞれソロを演奏する、という意味に於いては立派なプログラムの一部とも言える。その音色は、都内有数の音響を誇るこのコンサートホールで聴くと、なんと美しく神々しい響きとなって耳に届くことか。

また太鼓の一つである「鞨鼓(かっこ)」と呼ばれる打物の奏者(舞台に向かって右端)が演奏の速度を決めたり、終わりの合図をする役割を担う。この奏者がいわば指揮者のような存在で、鞨鼓がお辞儀をした時に拍手をすることを学んだ。

素人感覚丸出しで聴く管絃ではあったが、箏の音が低音で爪弾かれると、時にまるでマーラーの交響曲のハープの響きのようにも聴こえたりして、なんとも不思議な感覚になった。マーラーに於けるハープは天上の響きであるとも言われる。雅楽は文字通り寺院や神社で演奏されてきた神聖な音楽であり、もともとは中国などから伝わった音楽の要素もある。マーラーの生きていた19世紀末から20世紀にかけては東洋の文化もヨーロッパに流れ込んでいて、彼の声楽付きの交響曲「大地の歌」には李白の漢詩が歌詞に使われているのも有名な話だ。2曲目の「春楊柳」には「柳の若い緑が揺れて・・・春を告げる」という部分など、まるで李白の詩のようだと、プログラムにも書かれていて、中国的なエッセンスの共通項があることを2024年に生きる私に感じさせるというのも、面白い時代の現象である。

icon-youtube-play マーラー:交響曲第5番第4楽章より

後半の舞楽は「五常楽一具」とある。序・詠・破・急という複数の楽章があり、これらを全て含めると「一具」と呼ぶそうで、いわゆる全曲演奏、といったところか。解説によると「五常」とは仁・義・礼・知・信という五つの道徳を雅楽特有の五音「宮・商・角・微・羽」に当てはめ、「五常の和」としているとも言われるらしい。平和を願う新年にふさわしいプログラムだ。

西洋音楽を聴き慣れた私からすれば、継続する微分音がちょっとした現代音楽のようだったり、煌びやかな装束の舞が目に鮮やかで楽しめたり、和楽器の清澄な響きに新年の改まった気持ちにもなり、新鮮で単純にとても楽しめた。雅楽初心者の方も、お正月気分を味わいたい、というだけでも気軽に出掛けてみてはいかがだろうか。

icon-youtube-play 新春の雅楽

ちなみに東京楽所の定期公演「新春の雅楽」2025年は2月8日土曜日14時からサントリーホールで開催されるとのこと。

余談だが、土曜日にはサントリーホール前カラヤン広場では「ヒルズマルシェ」も開催されていて、これも結構楽しめる。お香のセット(京都の老舗「松栄堂」が出店している)や、ミニ盆栽など、和のテイストについつい惹かれてしまうのであった。

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