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Column Feature Tweet Yoko Shimizu

上野文化塾

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、大手楽器店に就職。その後制作会社を経て、フリーのラジオディレクターとして主にクラシック音楽系の番組企画制作に携わるほか、番組連動コラムや大学でゲスト講師をつとめるなど多方面に活躍。2022年株式会社ラトル(ホームページ)を立ち上げ、様々なプロジェクトを始動中。

春はイベントの多い季節だが、私が楽しみにしているイベントもこの時期に集中している。その一つが東京・上野を中心に開催している「東京・春・音楽祭」である。ご存知のように上野公園周辺には博物館や美術館が多く存在しているので、これらの企画展と連動したコンサートも行われる。また上野公園入口には東京文化会館という音響の素晴らしいクラシック音楽専門のホールも備えているので、ここでは特に注目の公演が多く、今年は演奏会形式のオペラ4演目が予定されている。忘れてはならないのが日本の著名な音楽家や芸術家を多く輩出している東京芸術大学もこの上野にあるということである。この歴史ある芸大の奏楽堂でもコンサートが行われ、まさに文化の街、上野をまるごと体感できる音楽祭なのである。

icon-youtube-play 東京・春・音楽祭2024

今年20周年を迎えるこの東京・春・音楽祭だが、IT企業のトップ、鈴木幸一氏が個人で始めたというから驚きである。鈴木氏は先日亡くなった指揮者の小澤征爾とも親交があり、音楽祭はお酒の席で出たアイディアから始まったという。しかしどんな小さな規模の音楽祭でも企画から会場の確保、広報、アーティストの手配、チケット販売などを行うとなればそれ相応の準備や資金、人手が必要だ。最初は私費を投じてやっていたというのだから、その音楽への想いは並大抵ではない。それに音楽祭を根付かせるためには継続することが重要である。徐々に協力者やスポンサーもついて、音楽ファンにも広く知られるようになった。

そんな東京・春・音楽祭に、私も長年いちファンとしてコンサートに足を運んでいたのだが、嬉しいことにひょんなご縁から今年はそのPRの一環として、ポッドキャスト番組をお手伝いすることになった。「東京・春・音楽祭presents〜上野文化塾」はAuDeeというTOKYO FMを含むJFN(ジャパンエフエムネットワーク)のプラットフォームで始まる。もちろん音楽祭を広く告知する目的もあるが、単に音楽の紹介だけでなく、幅広く「上野」という街の魅力や文化を深掘りしようというコンセプトの番組である。もとよりポッドキャストはインターネットでの配信なので、残念ながらまるごと音楽をかけることは著作権上難しい。毎回テーマを設けてトークに特化することで、音楽に興味を持った人は直接音楽祭へ足を運んで欲しい、という狙いもある。

パーソナリティーは映画プロデューサーの矢田部吉彦さん。東京国際映画祭などで作品選定ディレクターを務めるなど、本業は映画業界で活躍されている。しかし文化や芸術全般に造詣が深く、落語も大好き。ラジオや司会の経験もあるということで、専門家と話をするという難しい役を快諾して下さった。深みのあるお声もとても魅力的だ。

また番組後半は「音楽小話」という音楽コーナーのパートがあり、ここでは指揮者・作曲家でもある根本卓也さんに解説していただく。根本さんはそれこそ東京芸術大学で学んでいるので、学生時代を過ごした上野周辺の歴史にも詳しい。私は共通の知り合いが多かったことで、それまでにも根本さんのトークを聴く機会が何度かあったので忙しい合間を縫って音楽講師として出演していただくことになった。実際3回目の配信までは根本さんは「小澤塾」の仕事で京都からZoomでの出演である。それにしてもここでも小澤征爾の名前が何度も出てくるくらい、彼の日本の音楽界への貢献の大きさを思う。

icon-youtube-play 小澤征爾音楽塾

こんなお二人をレギュラーに、毎回テーマに沿った専門家をゲストに招く。第1回は「上野と公園」。初回ゲストの台東区中央図書館の平野恵さんには歴史と文献から話をしていただいた。あの広大な上野公園は西洋文化の思想と概念を取り入れ、江戸幕府の菩提寺であった寛永寺の敷地を官有地として公園としたのが成り立ちだとか。江戸末期の狂歌人で昨年没後200年を迎えた大田南畝についてや、博物館や動物園の設立に尽力した人物たちのお話も興味深い。


矢田部吉彦さん(左)とゲストの平野恵さん

第2回は「上野と花見」。この回のゲストは庭園文化史研究家の小野佐和子さん。「江戸の花見」というご著書もあり、当時の江戸文化や花見の様子などを窺い知ることができる。花見というと現在では淡い薄紅色のソメイヨシノが主流だが、ソメイヨシノは明治時代になってから品種改良されたもので、当時の人々は山桜を愛でていたそうだ。この配信がされる頃には上野の桜も満開になっていることだろう。

番組は隔週配信の予定だが、全てアーカイブされるので後からでも聴き直すことができる。随時楽しんでいただければ幸いである。季節にぴったりの内容をお楽しみに!

 icon-external-link AuDee「東京春音楽祭presents〜上野文化塾」

そして東京・春・音楽祭は3月15日から4月21日まで開催中。毎回感動を与えてくれるリッカルド・ムーティ指揮による演奏会形式オペラ公演は今年も聴き逃せない。巨匠ルドルフ・ブッフビンダーによるベートーヴェンのピアノソナタ全曲演奏会もファン待望のプログラムだ。この春は上野に足を運び、音楽と文化をたっぷりと堪能したい。

 icon-external-link 東京・春・音楽祭
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