
RADIO DIRECTOR 清水葉子
音大卒業後、大手楽器店に就職。その後制作会社を経て、フリーのラジオディレクターとして主にクラシック音楽系の番組企画制作に携わるほか、番組連動コラムや大学でゲスト講師をつとめるなど多方面に活躍。2022年株式会社ラトル(ホームページ)を立ち上げ、様々なプロジェクトを始動中。
最近メガネをかけることが多くなった。少し前から老眼が気になってきて、読み書きするのに老眼用のメガネをかける機会が増えたせいでもある。
当世の流行りでは老眼鏡とは言わずに「リーディンググラス」などと呼ぶらしい。元来私は近視が酷くて、長年コンタクトレンズを使用していたのだが、仕事上でPC作業も多いためドライアイが気になってしかたなかった。それでかれこれ10年以上前に実はレーシックの近視矯正手術を受けた。この効果はてきめんだった。一気に目の前の世界がハイビジョン化。それからはメガネとは無縁の快適生活を送ってきたのだが、どんなにリーディンググラスなどと欺瞞に満ちた呼び方をしたところで、老化は避けられない。逆に近視を矯正したことで、老眼も自覚しやすくなっているのかもしれない。
でも最近は安価なメガネショップがたくさんあるし、仕事上必要なだけならオンラインでも買えるので、自宅用、仕事用、携帯用といくつも取り揃えているうちに、なんだかメガネがある方が顔の収まりが良くなっているような気がしてきた。
実は最近ポッドキャストの美容番組も担当しているのだが、パーソナリティーの漫画家、まんきつさんが言うには「ある程度の年齢になったらメガネは七難隠す」ということらしい。彼女はもともと非常に美人なのだが、めちゃくちゃ美容オタクで、自ら様々な美容情報を収集してそれを実践している。そんなまんきつさんもメガネがトレードマークになっているが、確かに私の場合もこの顔の収まり感はそういうことだったのか! と妙に納得してしまった。特に今の時期は外ではサングラス、普段は度なしのいわゆる伊達メガネ、読み書きや仕事中はリーディンググラス(と、敢えて呼ぶ)、と3つを使い分けている私は立派なメガネ女子(?)である。
話がなかなか進まないのは最近コンサート活動を少しサボっていて、あまりネタがないからである。しかしながらメガネというものはいったいいつ頃からあるのだろうか? 調べてみるとあの「メガネスーパー」のサイトに、紀元前3世紀頃にはメガネの原型であるレンズが既にインドやバビロニア(現在のイラクあたり)、エジプト、ローマ、中国で使われていたと書かれている。しかしさすがにレンズを作るのは大変な作業で、神聖なものとして扱われていたとか。メガネが発明されたのはずっと後の13世紀後半イタリアでのこと。ヴェネツィアン・グラスが有名なことを考えると納得である。しかしはっきりとした発明者は現在でも不明らしく、当初は高級品だったこともあり、これが庶民に流通したのは1450年頃のグーテンベルクによる活版印刷機の発明による。これ以降活字文化が一気に進んだことでメガネの必要性も大きくなったというわけである。もちろんこの印刷技術の発展は楽譜の出版という点でも音楽史としては大きなターニングポイントである。
そこで今回は「メガネといえばこの人」という作曲家を取り上げる。やぶれかぶれな感がなきにしもあらずだが、街中でこれだけたくさんのメガネショップがあるということは、世の中メガネブームなのである。メガネ男子、メガネ女子という萌えもあるという話なので、クラシック音楽でもそんな話題があってもいいのでは…とお気楽に且つ、勝手に考えて選出してみよう。
メガネ男子として最初に思い浮かぶ作曲家はフランツ・シューベルト。残された肖像画のほとんどはメガネ着用。1797年オーストリア生まれ。メガネの普及にはある程度の時間がかかったともいえる。僅か31歳で病死しているが、「歌曲王」とも呼ばれ特に歌曲においてその才能を発揮。
シューベルト:野ばら
次にフランスの作曲家、ジョルジュ・ビゼー。オペラ「カルメン」が圧倒的に有名だが、10歳の誕生日前にはパリ音楽院入学を許されたという早熟の天才。1831年生まれだが彼も36歳という若さで早逝。メガネ男子、短命説?
ビゼー:「カルメン」より
クラシック音楽界正統派メガネ男子といえばこの人、グスタフ・マーラー。やや細面の陰キャ顔にメガネがよく似合う。1860年オーストリア生まれ。指揮者としても活躍し、ウィーン宮廷歌劇場(現在のウィーン国立歌劇場)の芸術監督も務めた。作曲家としては大規模な交響曲や歌曲が有名。
マーラー(1909)
マーラー:交響曲第9番
メガネにおヒゲ姿のポートレートが印象的なのがフランス人のエリック・サティ。1866年生まれ。同じパリ音楽院に入学するも、ビゼーとは正反対で才能がない、と除籍になった。酒場のピアニストで生計を立てるなどし、生存中は恵まれず。音楽界の「変わり者」として型に囚われない自由な作風で珍妙なタイトルの作品を多数残す。時代の先をいきすぎたメガネ男子。
サティ:グノシェンヌ
20世紀に入るとメガネ率は俄然高くなる。特にロシア勢に有力候補が多いのだが、メガネ顔決定版としては1906年生まれのドミートリー・ショスタコーヴィチ。交響曲が有名だが弦楽四重奏曲も重要作品。ソ連時代のプロパガンダ作曲家として扱われる一方、自身の自由な音楽活動との間で葛藤を抱えた複雑な人生を生きた。薄い唇をきっと結んだ顔つきにメガネがドはまりした屈折系メガネ男子。(なんと指揮をしているクラウス・マケラまで珍しくメガネ姿!)
ショスタコーヴィチ(1942)
ショスタコーヴィチ:交響曲第7番「レニングラード」
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