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[コラム]スタージル・シンプソンが示す音楽と映像の新しい可能性

NO.16編集部コラム


[コラム]スタージル・シンプソンが示す音楽と映像の新しい可能性

先日、動画ストリーミングサービス「Netflix」で、「SOUND & FURY」というタイトルの作品が配信された。これはアメリカのアーティスト、Sturgill Simpsonによる「ヴィジュアル・アルバム」らしい。
スタージル・シンプソンの名前を聞いたことがある、という方もいるだろう。2017年のアメリカ、グラミー賞で主要4部門の一つ、Album Of The Yearに彼のアルバムがノミネートされた。受賞こそ逃したが、その年のグラミー賞のベスト・カントリー・アルバムを受賞した。そう、彼は日本でわかりやすく言えば、カントリーのアーティスト、ということになるだろう。

In Bloom – Sturgill Simpson

カントリー、と聞いて思い浮かべるサウンドと言えば、バンジョーの音ではないだろうか。スタージルがグラミーウィナーとなったアルバム「」も、カテゴライズされているのは「カントリーミュージック」だが、トラッドなカントリーかというと、そうではなく、俗に言う「オルタナ・カントリー」だろう。
本人と話したことはないのだが、当の本人には、おそらく音楽のカテゴライズなんてものは意味を持っていないのではないだろうか。

そんなスタージルの新しい音源が「SOUND & FURY」だ。「ヴィジュアル・アルバム」とは何ぞや?と思うだろうが、今回の「SOUND & FURY」は、アルバムの楽曲全てにアニメーション・ショートムービーが付いており、「数分の楽曲を全て聞くことで完結するアルバム」と言うスタイルに、映像を付け加えたものだ。しかもアニメーションで。さらに日本人にとって嬉しいのは、スタージル本人の強い希望で、日本のクリエイターがアニメ制作には大きく関わっているのだ。

Sing Along – Sturgill Simpson

単なるアニメのPV集じゃないの?と思われがちだが、それぞれの作品(ここでは楽曲と映像をセットにしたものを指している)が、しっかりとストーリー構成をなしているのだ。見ていると「?これ、だあれ?」と言うキャラクターが出てきたりするのだが、しっかり見ていくとその伏線などもちゃんと回収されている。もちろん、セリフがあるわけではない。スタージルの音楽と歌のみがサウンドトラックとなっている。

驚かされるのは、スタージルの音楽の多様性だ。「カントリー」のイメージが強いと思われる彼の音楽性だが、「SOUND & FURY」から聞こえてくるのは、オルタナロック、ファンク、ソウル、ダンス・・・つまり「音楽」。しかもどの曲もかっこいい。おそらく、普通に音楽アルバムとして聞いていても納得の出来栄えだろう。ライブでの盛り上がりも絵が浮かんでくる楽曲だらけだ。

そんなクオリティの高いアルバムを、単なるアルバムとしてリリースするのではなく、アニメ作品として、Netflixというプラットフォームを使っていち早く全世界に届ける・・・

音楽業界はここ5年で大きく様相が変わっている。インターネットが普及したことで、音源の作り方、リスナーへの届け方が劇的に変化。「レコード」や「CD」と言ったフィジカル・メディアを必要とせず、ダウンロードすら調節したストリーミング全盛の中で、アナログ・メディアの復古や、ライブの価値が改めて見直されるという流れもある。
その中で、「ヴィジュアル・アルバムでまずはNetflix配信」という新しいスタイルは、もしかしたら映像と音楽の新しい可能性を提示しているのかもしれない。

嬉しいのはSturgill Simpsonのアルバム「SOUND & FURY」は、音楽アルバムとしてもフィジカルでリリースされること。耳だけで聞く「音楽」としても自信が持てる作品ができたからこそ、今回のヴィジュアル・アルバムというプロジェクトができたのだろう。もちろん、音楽としてのセールス(再生回数のアップも含めた)が成功することが、音楽業界にとっては最大のメリットとなるので、そこに繋がっていくのかも注視したいところだが。

音楽と映像。音楽を色付けする映像でもなく、映像を彩る音楽でもない。
どちらも対等な「作品」として、どんな評価を得ていくのか、楽しみだ。

STURGILL SIMPSON OFFICIAL WEB SITE
http://www.sturgillsimpson.com/

(NO.16編集部)

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