テレビを見ていたら飲料メーカーのCMで流れてきた曲に耳が止まった。当初は恥ずかしながらパッと曲が出てこなかったのだが、King Crimsonの「21st Century Schizoid Man」だった。
ジーン・ケリーの「SIngin’ In The Rain」イントロからクロスフェードして聞こえてくる「21st Century Schizoid Man」。一瞬わからなかったのは、おそらくCMバージョンは、ドラムが加えられているからだろう。
ジーン・ケリーからの落差といい、相当パンチの効いた2曲のコラボによるCMだ。
キング・クリムゾン。
去年、デビューから50周年を迎えたイギリスのプログレッシヴ・ロックバンドだ。「プログレ」とはしばしば革新的/実験的なロックのことをさして称される。クラシカルな音楽性、時に長尺になる楽曲、歌唱部分よりもインスト部分の方が多くなる傾向がある。
代表的なバンドといえば、ピンク・フロイド、イエス、エマーソン・レイク・アンド・パーマー、ジェネシスだろう。この4バンドにキング・クリムゾンを加えてプログレ五大バンド、と呼ぶこともあるそうだ。
若い世代は聞いたことがない、という人が多いのだろうが、50年も前の曲がCMに使われるということの凄さ。もちろん、クラシック音楽になれば100年単位で昔の楽曲が使われたりもしているので、ぐうの音も出ないが、ポップ・ミュージック(と言っても良いのか逡巡した)の世界で50年という時代を超えて聞かれるというのは、やはりすごいことだと思う。
特に、インターネットの発達で、音楽を世に送り出すことは以前に比べてはるかに安易になった。今、この世の中には凄まじい数の楽曲が産み落とされている。しかし、その中で果たして50年後にCMに使われるような楽曲が生まれているのだろうか。おそらく私は確認することができない。
キング・クリムゾンも、まさかリリースした時には50年後のテレビCMに使われることなんて想像もできなかっただろう。
2019年に50周年を迎えるにあたり、私はキング・クリムゾンの特集番組ができないかと思い、某ラジオ局に知り合いのつてをたどり企画書を持ち込んだ。しかし、もうちょっと若い世代に刺さる音楽じゃないと・・・ということを言われたのだ。古い音楽だから若い人は聞かない、というのはいささか安直ではないだろうか。こうした安直な世代による感覚の固定を外部からしてしまうことにより、感性が育たなくなってしまわないのだろうか?
サブスクリプション・サービスやインターネットのおかげで、昔の音源も気軽に聞くことができるようになった。ネットがなかった時代は、レコードショップで購入するか、レンタルするか、友人から借りるか、それこそラジオで聞くしかなかった。そこには時間的、金銭的制約がついてしまう。しかし現代は、そんな制約も取っ払って、50年前にリリースされたKing Crimsonのアルバム「In The Court Of The Crimson King」をきくことができる。それは50年前の音源が、2020年のアーティストと対等に勝負することができるということでもある。
どのような流れで、今回、King CrimsonがCMの楽曲に採用されたかは知る由もないが、どんな形であれ、過去にリリースされた素晴らしい楽曲に触れる機会が増えてほしいものである。
KING CRIMSON JAPAN OFFICIAL WEB SITE
http://www.king-crimson.jp//
(NO.16編集部)