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Dilemma

Column Feature Tweet Yoko Shimizu

好きな作曲家4人晒すと好みがわかる

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

フリーランス・ラジオディレクター。TOKYO FMの早朝の音楽番組「SYMPHONIA」、衛星デジタル音楽放送ミュージック・バードでクラシック音楽の番組を多数担当。「ニューディスク・ナビ」「24bitで聴くクラシック」など。趣味は料理と芸術鑑賞。最近はまっているのは筋トレ。(週1回更新予定)

最近職場でちょっと面白い話題があった。好きな作曲家を4人挙げるとその人の音楽的趣味がわかる、というものだ。もともとはTwitterで「♯好みの作曲家4人晒すと好みがわかる」というハッシュタグで盛り上がっていたらしく、3人までだと比較的すんなり名前が出てくるものだが、4人挙げるとなるとちょっと考えたりして、確かにそこにその人の肝となる部分が表れているような気がする。

そこで私も考えてみた。このコラムでも既に書いてきたように、最初に頭に思い浮かぶのはバッハ。幼い頃に初めて触れたクラシック音楽でもあり、折に触れて私の人生の中で響き続けている音楽だから。「マタイ受難曲」が最高峰だと思うけれど、「ヨハネ受難曲」のより簡素で素朴な響きも好きだし、「ゴルトベルク変奏曲」の永遠性、「平均律クラヴィーア曲集」や「フーガの技法」の構築性など、何よりバッハの音楽は様々に姿を変えられる多様性が宇宙的で素晴らしいと思う。そこには様々に魅力的な演奏が存在するが、私のお気に入りの作品を一つご紹介すると、エマーソン四重奏団が演奏する平均律クラヴィーア曲集の弦楽四重奏版。「平均律」は鍵盤楽器のための曲集だが、前奏曲とフーガというセットになっている。このフーガの部分を弦楽四重奏で演奏しているのだ。弦楽器で演奏することで各声部の響きがより明確に浮かび上がり、フーガのテーマもくっきりと提示されてさらに楽曲の深みを味わえる。

icon-youtube-play バッハ:ヨハネ受難曲

icon-youtube-play バッハ:平均律クラヴィーア曲集

さて、4人の作曲家の選定だが私が次に選ぶのはブラームス。ベートーヴェンとも迷ったのだが、あまりにも音楽に理想を掲げているのに少々疲れる感じがしないでもない。やはり理想主義は時として男性的過ぎるのだ。その点弱った時にも寄り添ってくれそうなブラームスの音楽の方がしっくりくる。もちろん交響曲やドイツ・レクイエムなどの重厚さはベートーヴェンにも匹敵するものだと思うし、晩年のピアノ曲のロマンティシズムはえも言われぬ美しさだ。余談だが実は今日、ポール・ルイスというピアニストのリサイタルを聴いてきたばかりなのだが、プログラムにベートーヴェンとブラームスの小品が含まれていて、そのどちらも、とにかくここ何年かで聴いたピアノ演奏の中でも最も素晴らしい演奏だったので、今ベートーヴェンも晩年のバガテルならありだなぁ、と早くも心が揺れているところである。

icon-youtube-play ベートーヴェン:バガテルOp126-1

icon-youtube-play ブラームス:6つのピアノ小品Op118

あと二人も悩むのだが、次はマーラーを挙げよう。長大な交響曲が多いので聴きごたえがあるし、世紀末的な美しさも称えつつ心の隅々をえぐるような音楽が時に堪らない魅力なのだ。9曲ある完成された交響曲の中で私の好きなのは6番。「悲劇的」とも題された4楽章からなる交響曲だ。マーラーといえば声楽を伴った大規模な交響曲も特徴的だが、この6番は純然たる器楽作品。しかもマーラーの人生の中で充実期に作曲されたものではあるが「悲劇的」。何かと謎めいたイメージが付きまとうマーラーの交響曲の中でも更に謎めいた作品だ。難しい楽曲解説は専門家に任せてここでは省くが、第2楽章と第3楽章の演奏順序や「運命の動機」とも呼ばれるハンマー打撃など、実際の演奏でも興味をひかれるポイントがあるのも面白い。

icon-youtube-play マーラー:交響曲第6番「悲劇的」

さて、問題の最後の一人。散々迷った挙句、ラヴェルを選ぼう。華麗なオーケストレーションと粋なリズム、洒脱なメロディーの数々、何よりあらゆるジャンルの曲を書いているのにそのどれもが傑作なんていう作曲家はそうはいないだろう。例えばピアノと管弦楽どちらもある名曲の「道化師の朝の歌」のような、スペインの血を感じさせる民俗色を洗練された感性で包んでいるのが絶妙だ。最後の一人枠には民俗的、という要素を加えてみたくなったので、バルトークも少し迷ったのだが、より洗練された音楽の方が私の好みに近いようだ。 他の候補としてはやや渋めのヒンデミット、大好きな「4つの最後の歌」だけでも選ぶ価値があるリヒャルト・シュトラウス、色彩と浮遊感のドビュッシー、歌心とバッハとの関連性も含めてメンデルスゾーンなども捨てがたかった。

icon-youtube-play ラヴェル:道化師の朝の歌

さて私の周りではどんな人選が行われていたかと言うと、音楽評論家の山崎浩太郎さんはオッフェンバック、ワーグナー、ベートーヴェン、そしてモンテヴェルディとオペラや声楽好きを反映している。音楽ライターの原典子さんはバッハ、ストラヴィンスキー、ドビュッシー、テレマンと古典派、ロマン派がいないのが特徴。作曲科出身の若手ディレクターはジョン・アダムズ、デュティユー、ストラヴィンスキー、ラヴェルと始めに選んだ二人に驚き。クラシック音楽にも詳しいオーディオ評論家の鈴木裕さんはなんと私と同じ4人を選定していた。作品と共に作曲家の人生も含めて好き、とは鈴木さんの弁。ディレクター業に携わる3人がラヴェルを選んでいるのも興味深い。聞けば聞くほどにその人の音楽的趣味趣向が垣間見えるこの質問。あなたのお気に入りの4人は誰だろうか?

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