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Dilemma

Column Feature Tweet Yoko Shimizu

音楽の特効薬

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

フリーランス・ラジオディレクター。TOKYO FMの早朝の音楽番組「SYMPHONIA」、衛星デジタル音楽放送ミュージック・バードでクラシック音楽の番組を多数担当。「ニューディスク・ナビ」「24bitで聴くクラシック」など。趣味は料理と芸術鑑賞。最近はまっているのは筋トレ。(週1回更新予定)

世間はゴールデンウィークだが、番組制作の現場はそんなゆとりは全くない。特に連休前のバタバタ振りといったら毎年もう少し早く準備しておくんだった、と後悔しているのに何故か今年も同じようにバタバタしている。当然生活がすさんでくるので、睡眠時間は減るし、食事もままならなくなる。少し仕事が落ち着いた頃には体調を崩すのも毎年のパターンなのだが、今年は尋常ならぬ肩凝りと食生活の乱れによるビタミン不足か、口角炎ができてしまった。口を開けづらいので更に食事がしにくくなる、という悪循環である。そんなわけで地味に体調を崩しているのだが、こんな時にこそビタミン剤のような音楽を聴いて過ごしたいもの。私が担当する番組の中で出会った特効薬的な音楽をご紹介しよう。

TOKYO FMのSYMPHONIAという早朝のクラシック音楽の番組では時折ゲストを迎える回があるのだが、5月3日木曜日放送の収録では、パリ在住のヴァイオリニスト、正戸里佳さんを迎えた。まだ10代の頃にパガニーニ国際コンクールに入賞するなど折り紙つきの実力の持ち主。既に10年暮らしているフランスでは、パリ管弦楽団のコンサートマスターを務め、パリ国立高等音楽院の教授でもあるロラン・ドガレイユ氏に師事。そんな彼女のデビューアルバムには、フランスの作曲家の作品が並ぶ。ドビュッシー、ラヴェル、プーランクのヴァイオリン・ソナタに「亜麻色の髪の乙女」などお馴染みの小品も収められている。一足早くそのアルバムを聴かせてもらったのだが、いわゆるフランコ=ベルギー楽派の音色というのだろうか。ラヴェルのソナタの冒頭を聴いただけでその柔らかい美しい音色に釘付けになってしまった。彼女自身も番組で話してくれた有名な第2楽章のブルース。まるで黒人の歌声のようにゆるやかなメロディーラインを少し落ち着いたテンポで、控えめながらなんとも魅力的に聴かせてくれる。続くドビュッシーのソナタも同様にどこか艶っぽさがあるのに決して下品にならない。もはやフランス人よりもフランスらしい演奏のように感じた。これからいろいろなレパートリーに取り組みたい、と話していた正戸さん。まだ若いのでこれからが楽しみな逸材である。

icon-youtube-play ラヴェル:ヴァイオリン・ソナタby正戸里佳

さて私は心身共に疲れている時には何はともあれバッハを聴くことにしている。もう一つは衛星デジタル音楽放送ミュージックバードのオーディオチャンネルで放送している「24bitで聴くクラシック」から。ウィークデーの午後2時から3時までの1時間プログラムで毎月テーマごとに選曲するe-onkyoのハイレゾ音源の番組だ。今月は風薫る5月にふさわしいウィンド=管楽器特集。ここではECMというドイツのレーベルから発売されているハインツ・ホリガーのオーボエによるバッハ作品集をご紹介しよう。チェンバロ協奏曲としても知られるオーボエとヴァイオリン、弦楽と通奏低音のための協奏曲ハ短調BWV1060の他、カンタータや復活祭オラトリオの中のシンフォニアなどが演奏されている。オーボエの柔らかで哀愁を帯びた音色は疲れた体にそっと寄り添ってくれる。安易に使いたくない言葉ではあるがまさに「癒し」である。

icon-youtube-play バッハ:オーボエ協奏曲二短調BWV1059byハインツ・ホリガー

最後は同じe-onkyoハイレゾ音源による「極上新譜」から。これは文字通り新譜を中心に日曜日にお送りしている番組。5月6日放送のプログラムの中からメンデルスゾーンの交響曲「イタリア」と「宗教改革」をピックアップしたい。2017年から首席指揮者を務めるアンドルー・マンゼ指揮北ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団の演奏である。明るい主題を持つ第4番「イタリア」が何と言っても有名で、ゴールデンウィークという時期を考えてもぴったりではあるのだが、よりおすすめしたいのはカップリングの第5番「宗教改革」だ。1830年の宗教改革300年祭のために作曲されたのだが、実際には演奏されることはなかった交響曲。一説にはメンデルスゾーンがユダヤの家系だったからという理不尽な理由によるものだとも言われる。裕福な家庭に生まれた恵まれた作曲家で、それゆえどこか深みに欠けるといったイメージが長い間あったメンデルスゾーンだが、これを聴く限りユダヤ人ゆえにヨーロッパ社会の中で孤独感を味わうこともあったであろう、彼の不屈の精神を感じることができる壮大な交響曲である。生前に一度初演にこぎつけたものの、メンデルスゾーン自身が何度も改訂し、長い間忘れられていたこの曲は彼の死後ようやく再演、出版されることになる。熱心なルター派の信者でもあった彼は、第1楽章には賛美歌の「ドレスデン・アーメン」、第4楽章にはルターのコラール「神はわがやぐら」のメロディーを用いていて、これが静かな中にも厳かな雰囲気をたたえている。近年メンデルスゾーンは再評価されつつある作曲家だが、力任せではないけれど芯の通った彼の音楽の知られざる一面を垣間見ることができる作品だ。

icon-youtube-play メンデルスゾーン:交響曲第5番「宗教改革」

ゴールデンウィークも後半戦。音楽でパワーチャージして乗り切りたいところである。

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