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Dilemma

Column Feature Tweet Yoko Shimizu

ラジオディレクターの年度末

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、大手楽器店に就職。クラシック音楽ソフトのバイヤー時代にラジオにも出演。その後に制作会社を経て、現在はフリーのラジオディレクターとして番組の企画制作に携わる。番組連動コラムや大学でゲスト講師をつとめるなど幅広く活動中。

今年も桜の季節がやってきた。どんなに世界の平和が脅かされようと、毎年必ず花を咲かせ、一瞬の儚い美しさを見せてくれる桜は、日本人の心の中に最も思い出深く刻まれる花に違いない。卒業や入学といった季節とも重なるため、この季節はいつしか「桜ソング」「卒業ソング」といった歌がラジオを彩る。入学よりも卒業を歌った曲の方が多いのは、出会いより別れの方が人の心に訴えるものがあるのだろうか。

icon-youtube-play 荒井由実「卒業写真」

そんな感傷的な季節にもラジオディレクターの日常は慌ただしく過ぎていく。久しぶりにそんな1週間の生活を書き綴ってみよう。

3月21日月曜日「春分の日」
世間的には連休。この日で東京都のまん延防止等重点措置が終了とのこと。そのどちらもあまり個人的には実感がない。この日は防災番組の収録があった。4月放送分からはコーナー企画で全国のコミュニティFM局に直接出向くことになった。初回は鎌倉FMで、パーソナリティ兼スポンサーの黒瀬智恵ちゃんと先週鎌倉に行って取材をしてきた。女子二人旅。観光気分で大いに盛り上がる。実は昔からの友人同士。楽しく仕事をする、というお手本のような存在の彼女。それでどんどん成果を上げるのだからすごい。私はやや時間のやりくりが厳しくなりそう。

3月22日火曜日
クラシック・チャンネルのレギュラー番組「新スペシャル・セレクション」の収録で5月はバーンスタインの特集。スピルバーグ監督のリメイクした「ウェストサイド・ストーリー」の映画から始まったこの企画、改めてバーンスタインの音楽とその才能に触れる。自由と平和を愛したこの音楽家が生きていたら今の世界をどう思うだろう。

icon-youtube-play バーンスタイン「ヤング・ピープルズ・コンサート」より

この日も編集作業が山積み。夜は東京芸術劇場で東京佼成ウィンドオーケストラのコンサートを聴く。個人的にはブラスオーケストラの響きにあまり馴染みがないのだが、気分を高揚させる音に魅力を感じるファンが多いのも納得。4月からこの伝統ある団体もスポンサーである宗教団体から離れ、自主運営組織として活動していくらしい。こうした音楽団体へのスポンサー離れがどんどん増えているのが気になる。コロナの影響もあってどこも経営状況は厳しい。

icon-youtube-play 東京佼成ウィンドオーケストラ icon-external-link 

3月23日水曜日
月末と年度末とが重なって忙しさのピークとなり、都内ホテルステイを敢行。移動時間の節約と家事の煩わしさから解放される。しかも気分を上げるためにホテルをいつもよりランクアップしてしまった。実はコロナ禍でどこもお得な宿泊プランになっているのだ。やはり居心地の良さに感動! 部屋にあるBOSEのBluetoothのスピーカーでヘンデルのクラヴィーア組曲を聴きながら仕事をする。いわゆる「調子の良い鍛冶屋」が入っている曲集である。第5番の終曲は主題と5つの変奏曲形式になっていて、明るい主題から快速なフィナーレまでどんどん勢いがついていく感じが淡々と作業を進めていくのには、ぴったりなのである。子供の頃、よくピアノのレッスンでも弾いていたが、余計な情感が入らず、気分をフラットにして聴くことができる曲で、スタジオに向かう時にもよく聴いている。私の普段の愛聴盤はマレイ・ペライアなのだが、グレン・グールドの演奏があったのでここで掲載しておこう。スカルラッティのソナタなども同様に脳を活性化してくれるような気がする。科学的根拠は何もないけれど。ここ2日間は肌寒かったが都内の桜も芽吹き始め、半蔵門周辺もこれから人が増えるだろう。

icon-youtube-play ヘンデル:組曲第5番「調子の良い鍛冶屋」byグレン・グールド

3月24日木曜日
ホテルで朝からコラムの原稿を書き始める。4月からのレギュラー番組「音楽スケッチ」の収録は正午から。遅めの朝食を済ませてから歩いて数分のスタジオまで歩く。出演している音楽評論家の東条碩夫さんはディレクターとしても大先輩で、しかもご近所で日頃からお世話になっている長いお付き合いなので、とてもスムーズにつつがなく終了。その後編集とリッピング。夜は再びホテルでデータ入力作業。
3月25日金曜日
リモートで行っているもう一つのレギュラー番組「ニューディスク・ナビ」。今月は5週分なので他の仕事との調整でかなり遅れている。まずは選曲したCDを出演者の山崎浩太郎さんが持ってきてくれるので、SACDを先に録音。最近プレイヤーが古くなってきたのか、不具合が多いのが悩みの種。午後から世田谷区の健康診断のため、一旦半蔵門線で二子玉川まで。日曜日は胃カメラも飲んだが、地味にこういうのが時間を圧迫するのである。コロナ禍の2年間で実は4kgも太ってしまった。慌てて節制したが2 kg減で止まっている。体質的にコレステロール値が高いのも注意される。これも最近の悩みの種だがそういうお年頃なのか。歳を取るといろいろ体にも不具合が出てきて、再検査の予約を入れる。

3月26日土曜日
2週分溜まっていた「ニューディスク・ナビ」の編集とリッピングとSACD録音を同時に行う。人が少ない土日に一気に片付けるため、これらの作業を集中してやる。

3月27日日曜日
昨日の続き。ようやく「ニューディスク・ナビ」の進行が通常営業に追いついてきた。火曜日の「ストラディヴァリウス・コンサート」の原稿を書いてスタジオを後にする。帰りに近所の教会の前を通ると、毎年見上げている大きな桜が見事に満開となっていた。

icon-youtube-play フルーティストSakukoのアレンジと演奏による「さくらさくら」『Blue call me』(WKCD-0130)より

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